第10話「向かい合わせの影」【Bパート 魔法少女支援部】
【2】
昼休みの開始を告げる鐘の音が鳴り、華世達が集まる教室へと明かりが灯された。
壇上に上がったリン・クーロンが、「あー」と声を出しマイクの調子を確かめる。
「それでは第一回、魔法少女支援部の総会を始めますわ~~~~っ!!」
「いぇーーーい!」
「ドンドンパフパフーーー!」
以前に盗撮の疑いでカズを裁いた教室で、口から発された擬音語がにぎやかに響き渡る。
この馬鹿騒ぎの主犯は、黒髪をたなびかせてドヤ顔をしている、そこのお嬢様にほかならないのは明らかだ。
「あたしが病院で寝てる間に何を企んでいたかと思えば……魔法少女支援部?」
「企みだなんてひどいよー! みんな華世ちゃんの力になりたいって言ってくれたんだよ!」
そうはしゃぐ結衣の背後には、肩身が狭そうな弟の拓馬。
一方ノリノリなのは、アホお嬢様ことリン・クーロンと情報屋のカズ。
そして申し訳無さそうに苦笑いをするウィルで、この場にいるのは全員のようだ。
「姐さんの活動を学校でも支えていければ、助けになるに違いないッスよ!」
「協力の姿勢は嬉しいけど……。この魔法少女支援部とかいうこっ恥ずかしい名前と大仰な会議、要る?」
「いるよー! だって、魔法少女だよ? 女の子の憧れだよ! その石橋の上の……」
「……姉さん、それを言うなら礎とか縁の下」
「そうそれ! 縁の下の礎になれるんだったら私達も嬉しいもん!」
夢見る乙女全開の結衣は置いといて、バックアップをしてくれるのは華世にとってもありがたいことだった。
なにせ今現在あがっている問題が、人手がいる作業を要しているからだ。
「というわけですので、話を始めますわよ。和樹さん、例の地図を」
「はいッス」
リンに促され、携帯電話を操作するカズ。
数秒の後に、教室のディスプレイに学校周辺の地図が映し出された。
その地図の至るところには、赤いバツマークが記されている。
「この印がついているところが、“良い”華世が目撃された場所ですわ」
「……その言い方だとまるで、本物であるあたしが悪い奴みたいじゃないの」
「でも華世。あなたの場合……喧嘩している不良は両方叩きのめし、泣いている子供を威圧して泣き止ませるんでしょう?」
「リン、あんたあたしのことを何だと思ってるのよ」
「外道ではありませんの?」
「おいこらてめえ、覚えてなさいよ……!」
「くーちゃん、話がズレてるよ」
結衣に指摘され、コホンと咳払いをして場を改めるリン。
華世は眉をヒクつかせながらも、黙って続きに耳を傾ける。
あのお嬢様をしばき倒すのは、その後でも遅くない。
「それでですね、“良い”華世の目撃情報は学校を中心に半径2キロメートル以内の円範囲の中に集中していますわ」
「ちなみに情報ソースは、オイラがハッキングして得た監視カメラの映像ッス」
「ほんの数日で、こんなに目撃情報があるのね」
地図に描かれた印の数は、ざっと数えても30個以上。
華世が入院していたのは3日ほどなので、1日あたり10件は親切が発生していることになる。
よくもまあこの短い期間に、これだけ面倒を解決しているものだ。
「見たところ傾向としては、近い地点には現れないようになってるように見えるね」
「ということは、次は印がついていないところに現れるってことかな?」
結衣の言葉にリンが頷き、同時にカズの操作で地図に4個の丸が表示された。
その丸の位置は、ちょうど目撃情報が空白となっている場所を中心としている。
「今日、ターゲットが現れるとしたらこのどこかだと推測されるッス」
「じゃあ放課後に手分けして、ここらへんのポイントを見張りましょう!」
「でも、見つけたらどうするのよ?」
「え?」「あっ」「あら」「うん?」
ここにきて、誰もが意識していなかった根本的な問題へとメスを入れる華世。
よしんばその偽の華世と出会ったとして、どう対処するのか。
人に親切をする人物とはいえ、下手に刺激すれば何をしでかすかはわからない。
目的は華世自身による接触と、事情を聞くことなので……。
「……とにかく、見つけたら見失わないようにしつつあたしの携帯電話に連絡して。危ないから接触は厳禁よ」
「「「「はーい」」」」
会議参加者の素直な返答をもって、この集会はひとまず終了となった。
───Cパートへ続く




