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第9話「マジカル・カヨ戦闘不能」【Iパート EL】

 【10】


「マズイな……」


 次々と現れるジャンクルーを打ち抜きながら、ウルク・ラーゼは頬に汗を垂らしていた。

 騒ぎが長続きすれば、アーミィが出動してしまう。

 そうすれば騒動は鎮圧されるだろうが、スラム街の存在が露呈ろていしてしまう。


「ジャンクル~~~!!」

「ちいっ!」


 背後から聞こえた雄叫びに、振り向きざまに銃を構える。

 しかし襲いかかろうとしていたジャンクルーは立ち登った火柱に包まれ、灰燼に帰した。


 目の前に降り立つ、シスター服姿の少女。

 ひときわウルク・ラーゼの目を引いたのは、彼女が両腕につけている巨大な機械篭手ガントレット

 そして頭にかぶっているヴェールに刻まれているマークに、視線を奪われた。


「そのマーク……そうか、君もサンライト教会の……!」

「教会を知ってる……? あなたも、まさか教会出身の……」

「フ……因果なものだな。だが、今はっ!」


 会話に文字通りに割り込むように、上から影が二人を覆う。

 同時にその場から飛び退き、降って湧いたジャンクルーの叩きつけを回避。

 示し合わせたわけでもないのに、ホノカとウルク・ラーゼは現れたジャンクルーのコアを挟み込むように蹴りつけ、破壊した。


「この戦いぶりを記録しておけば、君は労せずに人間兵器と認められるだろうよ」

「アーミィに身を売る気はありません。お構いなく」

「傭兵には野暮な話だったか。教会は苦しいのか?」

「私一人が支えている状況です。あの人がいなくなってしまったから……」


 哀しみをたたえた瞳。

 ウルク・ラーゼは仮面越しに彼女の表情を汲み、その肩を優しく叩いた。


「戦いの相手を見誤らないことだ。時が来れば、支えになってやれんこともない」

「……信じて、いいんですか?」

「私はアーダルベルトも、その小娘にものさばって欲しくない人間でもあるからな。……むっ?」


 先ほど倒し、崩れ落ちたジャンクルーの残骸が、ひとりでに浮かび上がる。

 そのまま宙を飛んだ骸が向かう先には、同じく倒されたゴミ人形の構成パーツが巨大なコアを軸に回転していた。


「巨大化……しているの?」

「我々では手に負えなくなりつつあるのやもしれん。だが、幸いなこともある」


 ウルク・ラーゼが見上げた空の先。

 雲の層を突っ切って飛ぶ一つの巨大な影が、高度を落としスラムへと着地した。


《葵曹長。要請の気配を察知し、ただいま参上いたしました》


 咲良の愛機〈ジエル〉がスピーカー越しに機械音声を高らかに上げた。



 【11】


 肥大化しつつあるジャンクの怪物。

 まるでタイミングを見計らったかのように現れた愛機の巨体に、少し驚きながらも咲良は歩み寄った。


EL(エル)、来てくれたのはありがたいけれど……気配って?」

《葵曹長がツクモロズ関連のトラブルに巻き込まれたと仮定し、私を必要とするであろう可能性が80を超過しました。華世嬢が戦闘不能な今、頼れるのは私とあなただけだと判断しました》


 恐ろしいほど的確、かつ合理的な判断を下したEL(エル)

 しかし、命令も受けずに出撃したとなると頭が痛い。


《弁明の論文であればともに考えることもできましょう。しかし、今は目の前の敵性存在への対処優先を提案します》

「う~、わかった。乗せて!」

《アイ、マム》


 膝を折り開かれたコックピットハッチを駆け上がり、咲良はパイロットシートへと腰を滑り込ませる。

 同時に神経接続を行いつつ、外から視線を送る楓真へと、声を張り上げた。


「楓真くん、その子達お願い!」

「へいへい、今日のナイト役は譲ってあげるよ。だからしっかり役割はこなすんだぞ!」

「もっちろん!」


 コックピットハッチを閉じ、機体内壁のモニターに映し出された外の景色へと目を向ける。

 寄り集まっていた残骸たちは四肢をもつ人型へと姿を変え、やがてキャリーフレームサイズの巨大なジャンクルーへと変貌していた。


「メガジャンクルー……ってとこかな?」

《敵性存在より高熱量反応、ビーム攻撃への防御を推奨》

「ビーム・シールド展開!」


 腕先の細いユニットから輝く刀身を顕にし飛びかかるメガジャンクルーへと、咲良は〈ジエル〉に後退させながら防御体制を取らせる。

 〈ジエル〉の左腕から発せられた板状のビーム・フィールドが、敵の斬撃を受け止め弾き返す。


『葵曹長、聞こえるか?』

「支部長! 無断出撃の件はどうか……」

『私が口添えはする。騒ぎがスラム外に漏れぬうちに速やかな掃討を願えるかな?』


 ウルク・ラーゼの発言と、彼のこれまでの言動から、この場所を知られたくない彼の思いを、咲良は感じていた。

 決してその意を汲もうとか思ったわけではないが、民間人を連れ回した挙げ句危険に巻き込んだ責任。

 そして支部長へのとりなしを考え、咲良は無言の頷きを返すことにした。


(な~んか、華世ちゃんが感染うつったかな?)


 そう考えながら、咲良はフットペダルを踏み込んだ。

 細い天使の羽を思わせる〈ジエル〉背部のビーム・スラスターが光を放ち、機体ごと跳躍。

 メガジャンクルーへと体当たりをぶちかましつつ腕で掴み、その朽ちた巨体をコロニーの空へと持ち上げた。


「ジャン……クルゥゥゥ!!」


 野太い咆哮を発しながら、空中で拘束から抜け出し、滞空しながら構え直すメガジャンクルー。

 咲良は瞬時にコンソールを操作し、周辺の使われてない空き地エリアに目星をつける。

 宙に浮いたまま斬撃を繰り出す敵の攻撃をいなしながら、狙いの位置へと徐々に誘導。

 その間も、EL(エル)が狙いの位置へと相手を落とす最適な姿勢を導き出している。


《葵曹長、格闘パターンA16を》

「オッケぃ!」


 合図と同時にトリガーを引きつつ両足に全力をこめる咲良。

 操作に呼応して〈ジエル〉の頭部バルカンが火を吹き、弾丸の雨を浴びせてメガジャンクルーの動きを一瞬止める。

 そのまま機体がくるりと後方へ一回転。

 回転の勢いを載せた鋭い蹴りが、スラスターの全力噴射とともに敵の核へと突き刺さった。

 ものの一秒も立たないうちに地へと叩きつけられるメガジャンクルー。

 一方の〈ジエル〉はそのまま前方へと転がり、受け身を取って勢いよく着地した。


《着地点誤差0.0471メートル。計算が間に合いませんでした》

「それくらい誤差誤差! ふぅ~!」


 後方で動かなくなった敵を改めて確認してから、咲良は大きく安堵の息を吐いた。




    ───Jパートへ続く

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