第1話「女神の居る街」【Hパート 鋼の心・硬い意思】
「私の力は石を操る能力! この巨体ならばさしものお前も対抗できないだろう!!」
手に持った巨大な石の剣を振り上げる戦士像。
その巨体が生み出す影を浴びながら、華世は髪飾りに指を当てて、そして叫んだ。
「……出番よ、咲良!」
「ガッテ~ンってねっ!!」
裏庭の塀の奥から、突如姿を表す大きな影。
巨大な鋼鉄の指が外壁を掴み、ゴーグル状のカメラアイを備えた頭部がせり上がるようにして顔を出した。
それは白を基調とした装甲に身を包んだ、人型機動兵器〈ジエル〉。
スラスター炎を噴射しながら巨像の背後をとったそれは、手に持った光の剣、ビーム・セイバーの輝く刃で横薙ぎに払い、戦士像を胴体から溶断した。
「なっ……!?」
「あからさま過ぎんのよ、あんた」
切り裂かれ断面を赤熱させた巨像の上体が、庭園の中央へと落下する。
超重量の塊を受けた地面は振動し、周囲の大地を激しくたわませた。
ぐらつきながら、下へと沈んでいく感覚に華世は冷や汗をかく。
「って……ちょっとヤバい?」
大きな揺れとともに、崩れ落ちる裏庭の地面。
その崩壊に華世とマリアも巻き込まれ、庭園の下に存在していた謎の空洞へと落下する。
柔らかい土の上に尻餅をつき、自分の尻をさすりながら華世は立ち上がる。
「あいたた……ったく咲良のやつ、派手にやりすぎなのよ……」
相棒への愚痴を言いながら、土埃で視界の悪い周囲を見渡す華世。
徐々に晴れていくホコリの先に見えたのは、無機質な鉄格子の数々。
その奥に見える小さい影を見て、華世はひとつの確信を持った。
「なるほど、ね」
「おのれ……おのれぇぇぇっ!!」
マリアの恨み節と共に、石床を伝うように次々とトゲが華世へ向かって伸び襲いかかる。
側面へ飛び退きながら攻撃を回避した華世は、トゲが伸びてきた方向へと義手の機関砲を数発発射。
弾丸が飛ぶことで発生した風が、視界を塞ぐ砂煙に穴をあける。
「さらった子供たち、ここに捕らえていたのね。見る限り生命エネルギーでも吸っていたのかしら?」
「私が生き延びるためにはこうするしか無いんだ! 身動きの取れない台座に縛り付けらる石像の気持ちが、お前にわかるのか!?」
「わかりゃしないし、わかりたくもないわ」
「お前のような、お前のような正義の味方ヅラするような小娘なんかに……!」
そう言いながら、足元の石床から幾つか小石を拾い上げるマリア。
その石をばらまくように宙に放ると、空中で鋭い針に形を変えて華世の方向へと高速で飛来した。
「私の自由を、奪わせはしないんだよぉっ!!」
「余計な抵抗をする!」
華世は石の針を義手で弾き、同時に義手の手の指の鉤爪状パーツを先端へとスライドさせる。
そして床を蹴って一気にマリアへと肉薄。
彼女の眼前からせり上がるように床から石壁がそびえ立つが、華世はその壁を鉤爪で切り裂き突破。
そして接近の勢いを乗せた、左手のパンチを相手の腹部へと放つ。
ガハッ、といううめき声と共に一瞬怯んだマリアへと、華世は鉤爪を肘の根本から回転させ、まっすぐに突き出した。
高速回転する凶器の手は、マリアの人間で言えば心臓の位置に突き刺さり、そのまま身体の反対側へと貫通。
回転を止めたその手に、赤く染まった正八面体を握りしめ、華世はマリアの身体から鋼鉄の腕を引き抜く。
「あ、ああ……あ……」
「一つだけ言っておくわ。あたしは、正義の味方なんかじゃない……!」
華世は手に思いっきり力を入れ、ツクモロズのコアである正八面体を握りつぶす。
そして、核を失ったマリアが元の白い石像へと戻る光景に背を向けながら、華世は振り返った。
「あたしは、あたしと人類に歯向かう、全ての存在の……敵よ!」
───Iパートへ続く




