表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/321

第9話「マジカル・カヨ戦闘不能」【Eパート ホノカ】

 【5】 


 暖かな朝日を差し込む粗末なテントの中。

 風にのって流れてくる様々な料理の混じった匂いをホノカは鼻で感じながら、透明な液体の入ったボトルに手を伸ばす。

 右手の武装篭手ガントレットの蓋を開き、漏斗ろうとを差し込み、その中へと液体をひと垂らし。

 ホノカは水滴が漏斗ろうとに沿って機械の中に入るのを確認してから、ボトルをぐいと傾けて一気に流し入れた。


「シスターの姉ちゃん、何やってるんだ?」


 テントの入口から覗き込んでいた少年が声をかける。

 おそらく年齢的にやましいことは考えていないであろうが、一人でいるところをこっそり見られていた不快感をホノカは吐露した。


「あのですね、女の子のいる場所を覗き見るものじゃありませんよ」

「えっと、そうなのか? ごめん……」

「素直に謝れるのはいいことです。私は今、可燃性ガスの生成を行っているんですよ」

「ガス?」


 ボトルの中身が空になったことを確認し、漏斗ろうとを抜いて武装篭手ガントレットの蓋を締める。

 スイッチを入れると内部機構が駆動を始め、ガスの残量を表すランプが徐々に点灯していく。

 中では注ぎ入れた燃料が触媒によって変化し可燃性ガスへと変換されているのだが、その構造を知らない少年には長々と説明しても無駄だろう。


「よし、っと……」


 一応の戦闘準備を終え、一息つくホノカ。

 別に、今からツクモロズが出した偽りの依頼のために華世という魔法少女を襲うつもりは毛頭ない。

 片腕の機械篭手ガントレットを数日前の戦いで損傷している今、懸念されるのはツクモロズの出現とアーミィに見つかること。


「……せんせい


 目を瞑ると浮かんでくる、亡き恩師の微笑み。

 寒く凍える環境下でも、太陽のように明るく頼れ、暖かかった一人の男。

 彼から譲り受けた機械篭手ガントレットを擦っていると、テントへ長老が訪ねに来ていた。

 老人の姿に、少年が苦い顔をする。


「じ、じっちゃん……」

「こりゃ、シスター様の邪魔をしてはいかん。シスター様、不便なところで申し訳ない」


 走り去る少年の一瞥いちべつしながら、長老がゆっくりと地に腰を下ろした。

 廃墟と言っても過言ではない寂れた建物群の中に、テントや掘っ立て小屋で暮らすスラム街。

 けれども、人の営みが生き生きとし暖かな助け合いで満ちたこの集落を、ホノカは好んでいた。


「いえ。教会暮らしよりも暖かくて快適です」

「そう言ってもらえて助かる」

「お爺さん。あなた方は……ベスパー戦乱の頃から、ここで?」

「うむ……あの戦乱から、我ら女神聖教の肩身は狭くなる一方じゃ」


 15年も前にビィナス・リングで起こったという戦い。

 ホノカが生まれる以前に起こった争いの、その遺恨は今でも残っているのか。


「正当性を訴えはしないのですか?」

「無駄じゃよ。アーダルベルトが目を光らせている内はの」

「その割には……アーミィ支部のあるコロニーとは思えないのどかさですが」

「アーミィにもな、話の通じる者はおる。今日にでもシスター様から頼まれたモノの修理は済むはずなのじゃ」


 思ったよりも早い修理完了の報に、ホノカは眉をしかめた。

 華世に破壊された片方の機械篭手ガントレットの修理を依頼したのだが、表立った業者には頼めない依頼であろうに、その割にはすんなりと通ったものだ。


「どうしたかの?」

「いえ、かなり手際がいいと思いまして」

「ホッホッホ。蛇の道は蛇、という言葉がありましてのう」


 にこやかに笑う老人に底知れなさを感じるホノカ。

 早めに戦う力をもとに戻せるのは願ってもないことだが、本当に大丈夫なのかと若干の不安を抱くのであった。

 

 


    ───Fパートへ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 華世ちゃんの師匠の登場が非常に熱い回でしたね! その後のホノカちゃんの登場もとても嬉しかったです。ホノカちゃん好き。 そして華世ちゃんの師匠の登場と同じくしてホノカちゃんにも先生がいること…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ