第9話「マジカル・カヨ戦闘不能」【Aパート 決死の救出】
子供が主役の物語って、しゃあないけど大人は脇役やねんな。
せやけどその大人にだって、大人としての意地もあるし仕事もあるんや。
子供ばっかに無理させとったら、情けないからな。
ま、大人ばっかが活躍してたら話にならへんのはわかっとるんやけどな……。
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鉄腕魔法少女マジ・カヨ
第9話「マジカル・カヨ戦闘不能」
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【1】
「ミイナさん、しっかりしてくれ!」
「駄目ね、完全に動かなくなってる」
華世は暗いリビングの中で倒れたままのミイナの横で、冷静に彼女の肌を触りながら分析していた。
驚いたような顔のまま、ピクリと動かないミイナ。
格好はメイド服のままで、衣服が乱れたり身体が傷ついているわけではない。
鍵はかかったままだし家は荒れていないので、何者かが侵入したという線は無いだろう。
家が平和だったのを象徴するように、ミュウはハムスターケージの中で寝息を立てているくらいだ。
「アーミィ支部に連れて行くわよ。ドクターに見せないと」
「タクシーを呼んだほうがいいんじゃ……」
「この時間じゃ電話で呼んでも何分かかるか……こうなったら! ふんぎぎ……!」
華世はミイナを担ごうと、彼女の身体に手をかけ力を込めた。
けれどもまるで岩にでもなったかのように、重たい身体は少しも持ち上がらない。
「ハァ、ハァ……そういえば、普段は重力制御で軽くしてるって言ってたわね……」
「だったら俺が……お、重い……!」
今度はウィルがチャレンジしようとするが、不発に終わる。
おそらくだが、彼女の身体は現在100キロはゆうに超える重量になっているだろう。
「こうなりゃ最後の手段よ。ドリーム・チェンジ!」
その場で呪文を唱え、魔法少女へと変身する華世。
この姿なら腕力も向上するため、持ち上げられるようになるだろう。
「ウィル、あたしの部屋から適当なコート持ってきて。厚手の!」
「え?」
「この格好で外を走り回るわけにもいかないでしょ! せめて少しは隠すのよ!」
「わ、わかった!」
ウィルが華世の部屋へと飛び込む中、もう一度ミイナの身体に手をかける。
変身前よりは遥かに軽い、けれどもまだかなりの重量を感じ、どうやって運ぶのが効率がいいかを考える。
「華世、このコートでいい?」
「ありがと。それじゃあ……」
投げ渡された冬物のコートに袖を通し、華世はミイナを抱えあげる。
腕だけでなく全身で重量を支えるため、いったん肩を介してからミイナの胴体を自分の首の後ろに乗せるようにしてから、両手で腕と足を一本ずつ掴む。
前かがみの体勢で背中に横向きで担ぐ格好となったが、見てくれにこだわっている場合ではない。
ウィルが開けてくれた玄関から飛び出すように、華世はマンションの廊下へと走り出る。
そのまま気合を入れて跳躍し、華世は高層階から飛び降りた。
同時に背中についている姿勢制御用の推進機を真下に向かって噴射。
落下速度を落としながら緩やかに一階へと着地し、そのまま敷地から走り出る。
そとは小ぶりなれど、にわかに雨が降り始めていた。
「こいつは……きつい……わね……!」
街灯が照らす歩道を全力疾走しながら、華世は息を切らせていた。
ただでさえ現在、夕方の戦いで負った傷で身体を痛めていたのだ。
そこに超重量を抱えての全力疾走、追い打ちをかけるように打ち付ける雨。
コロニーでは日中の降雨で生活に支障が出ないよう、夜になってから雨が降るのがお決まりだが、今はその制度が仇になっていた。
アスファルトを踏み鳴らす豪快な足音を立てながら、アーミィ支部へと華世は急ぐ。
雨水が染み込んだコートと魔法少女衣装がズシリと重くなり、身体を締め付けるようにまとわりつく。
体の限界が近いのか視界がボヤけ始め、足元がおぼつかなくなってきた。
しかしミイナを地面に投げ出すわけにもいかないので、気合で地面を踏みしめ意識を繋いでいた。
【2】
完全に消灯され、非常灯だけが薄明かりのようにぼんやりと光る待合スペース。
誰もいない空間に並ぶ長椅子の隙間を突っ切って、華世は受付へと飛び込んだ。
「申し訳ありませんが、すでに業務は……華世さん!? それとミイナさん!?」
「チナミ……さん、ドクターに……繋いで……! 早……く!」
息も絶え絶えになりながら、その場で膝を折る華世。
全身から滴る、汗と雨水が混じった液体が床に水たまりを作ってゆく。
「華世、大丈夫かい!?」
遅れて入ってきたウィルが、床に濡れた傘を投げ捨て側へと駆け寄る。
彼の顔を見て、ふぅとため息をついたところで華世の意識は闇へと落ちていった。
───Bパートへ続く




