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第8話「スクール・ラプソディ」【Jパート 夜空の下で】

 【12】


 あのあと、キャリーフレームに乗って到着した内宮たちによって場は収められた。

 ウィルと傷だらけの華世、それからミミの所有者であった望月もちづき香澄かすみは事情聴取のためにアーミィ支部へと送られた。


 聴取や治療に時間がかかり、華世が帰る頃にはすっかり日も落ち、時刻は日付が変わる頃になっていた。

 望月もちづきは心のケアも考え、華世とは会わせられずに帰されたという。

 そして華世は、傷という傷に絆創膏を貼った不格好な状態で、受付時間を過ぎてガランとした薄暗い待合スペースでウィルと再会した。


「お待たせ。先に帰っても良かったのに」

「そういうわけにはいかないさ。華世……傷はどうだい?」

「痛くないといえば嘘になるけど、魔法少女状態で受けた傷なんて軽いものよ。数日もすれば治ってるだろうって、ドクターが」


 ウィルが座る長椅子の隣へと、華世はゆっくりと腰掛ける。

 実はこの言葉には強がりが混じっており、実際は鎮痛剤で痛みを抑え込んでいる状態である。

 だが、弱い部分を見せたくないというある種の意地が、華世に虚勢を張らせていた。


 華世が無事だと聞いたからか、ウィルの暗かった顔に少し笑顔が戻った。


「……あのツクモロズと、何か話してたの?」


 窓越しに暗い空から注がれる淡い光に照らされ、華世はウィルへと問いかけた。

 戦いの後から様子のおかしい彼の態度と、ツクモロズを倒す前の状態。

 ふたつの状況から出した推論は、的を得ていたようだった。


「あのツクモロズは、ミミは持ち主の女の子を守ろうとしていただけだった」

「ツクモロズ化したストレスは、あの望月もちづきって子の境遇だったのね」

「決して人を傷つけたいとか、暴れたいわけじゃなかったのに……結局は倒してしまったんだ、僕らは」

「……ウィル、とどめを刺したのはあたしよ。それにもしも情けをかけていたら、悪い方向に転がっていたかもしれなかった」


 華世は立ち上がり、月明かりを模した光を背にしてウィルへと真っ直ぐに眼差しを向ける。

 言いたいことが伝わったかのように、ウィルは絆創膏を貼られた華世の顔から目を背けた。


「あいつは少なくとも、レスとかいう別のツクモロズと同時に現れていた。可愛そうな境遇だったとしても、生かしていれば何が起こるかわからなかったわ」


 今となってはすべて想像に過ぎないが、和解の道をチラつかせてからの自爆や暴走。

 別のツクモロズによる不意打ちなど、取られたかもしれない手はいくらでも考えつく。

 敵味方で生命のやり取りを交わしている以上、うかつな情は味方を巻き込むこともあるのだ。


「速やかに事態を解決し、人の命を誰一人失うこと無く守った。あたしたちが得た結果として、これ以上はないのよ」


 自ら矢面に立ち、傷だらけで戦っていたからこその言葉。

 それに無傷のウィルが反論することは、できないだろう。


「……秋姉あきねえはまだ仕事残ってるし、遅いから帰りましょ。晩御飯は作る暇ないしカップ麺かな……」

「そうだね……」


 二人で立ち上がり、自動ドアをくぐり夜空の下へと出る。

 円筒形コロニーの中央芯が放つ擬似的な星の光に照らされながら、二人は一言も介さずに家へと歩いていった。



 ※ ※ ※



「いてて……いやあ、ひどい目にあったよ」


 レスに連れられ、本拠地へと帰ってきたフェイク。

 切り裂かれた腹をすでに修復し終え軽口を叩くレスへと、フェイクは横目で見ながら舌打ちを飛ばした。


「あれれ、不機嫌そうだね?」

「私たちは虐げられているモノを救うのが目的じゃないのかい? どうしてあのヌイグルミを見殺しにするようなマネを」

「救う? そんなこと一言も言ってないっての。勘違いされちゃあ困るなあ」

「勘違いだって?」


 ザナミが座る玉座の間。

 今は誰も座っていない豪華な椅子の後ろで、何やら青く細長い何かが淡い光を放っていた。


「あれは……?」

「モノエナジー、ツクモ獣から放出されたストレスエネルギーの塊さ」

「ストレスエネルギー……まさか、あれのために?」

「ビンゴ。ま、全てはザナミ様のためにってね。あー疲れた、おやすみー」


 フェイクが呼び止めるより早く、影の中へ入り姿を消すレス。

 誰も居なくなった空間で、フェイクはひとり前方で輝くモノエナジーを見ていた。


(一体、私は何をやらされているっていうんだい……? 嫌になるねえ……)


 疑惑と困惑で頭が混乱しながらも、生きるためにと自分を納得させる。

 どうせまた、しばらくすれば駆り出されるだろう。

 従い続けていれば、おのずと答えが出る。それだけを信じて、とりあえずは生き続けなければ。


 ────再びかつてのように幸せな、人のような生活を営むために。



 ※ ※ ※



「ただいまー……あれ?」


 家に帰り着いた華世は、真っ暗な廊下に首をひねった。

 いつもであれば帰りが遅くなったときは、ミイナがまっさきに飛び出して抱きついてくるのだが。


「ミイナさん、先に寝ちゃったのかな?」

「まさか? ミイナ、帰ったわ……よ?」


 リビングへの扉を開けた華世は、言葉を失った。

 そこには、床に横たわり動かないミイナの姿があったからだ。




 ──────────────────────────────────────


登場戦士・マシン紹介No.8

【ミミ】

全長:9.1メートル

重量:不明


 望月もちづき香澄かすみが大事にしていたウサギのぬいぐるみがツクモ獣化した存在。

 強いストレスに加えフェイクが高エネルギーのコアを直接入れたことで、キャリーフレームサイズの巨大な怪獣へと変化した。

 ウサギ型であるが二足歩行で立ち、両腕には発射可能な鋭い爪が生えている。

 これはツクモ獣はあくまでも依代としたモノに戦闘能力を与えているだけであり、モノのモチーフとなった動物が何かは考慮されていないためとされている。

 巨大ではあるが元がヌイグルミのため、全身がふわふわとした布地で覆われている。

 そのため、掴まれた女子生徒はショックで気絶こそすれ怪我はしなかった。


【エルフィスニルファ(アーミィ補修装備)】

全高:8.3メートル

重量:4.1トン


 ウィルが所持していたエルフィスニルファを、コロニー・アーミィで修理し装備を追加した状態。

 喪失したコックピットハッチを新しいものに付け替えているのと、武器としてビーム・ダガー・ブーメランが追加されているのが変更点。


 ビーム・ダガー・ブーメランは浮遊小型砲台ガンドローンの姿勢制御システムを応用した遠近両用武器である。

 対象へと狙いを定め投擲すると、空中で自動的に姿勢制御を行い狙った場所へ飛行、直撃の後に機体へと帰ってくるシステムとなっている。

 このとき、キャッチする前に自動的にビーム刃がオフになるため安全に受け止めることが可能。

 この武器はクーロンのアーミィ支部で試験開発されたものであり、運用テストも兼ねて当機へ装備された。





 【次回予告】


 倒れたミイナを救うため、傷を押して無理を続ける華世。

 彼女の無茶は、病という形で肉体へと牙を向いた。

 魔法少女を欠いた状態で出現したツクモロズに、大人たちが立ち向かう。

 

 次回、鉄腕魔法少女マジ・カヨ 第9話「マジカル・カヨ戦闘不能」


 ────大人には、大人の意地がある。



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