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第8話「スクール・ラプソディ」【Hパート ウィルの戦い】

 【9】


 華世がレスと名乗った謎の少年と戦い始めた頃。

 ウィルは急いで階段を駆け下りていた。


(俺の見間違いじゃなきゃ……!!)


 窓越しに見えた巨大ウサギの手の中。

 確かに見えた、掴まれた女子生徒の姿。

 もがいているのが見えたから、まだ生きてはいるだろう。


 華世が気づいていないはずはないが、ウサギの方の優先度を落とした理由はわかっている。

 あの少年は廊下、つまりは直ぐ側に他の生徒達が居るところに出現したため、放っておくことは出来ない。

 そしてウサギに掴まれている女の子が、女子トイレで虐め行為を働いていた主犯格であることも優先度を下げる要因だろう。

 けれども、たとえ性格が悪い人間だとしても生命は生命。

 ウサギが暴れだして校舎が破壊されるリスクを考えても、放置することは出来なかった。


「ミミ、お願い! やめてぇっ!」


 階段を降りた先の1階。外へと通じる扉の縁に手をかけ叫ぶ一人の少女。

 たしか、昼休みに華世が助けた女の子だったか。

 突如、上方から聞こえてくる崩落音。

 ウィルは飛び込むようにして、崩れ落ちてきた渡り廊下の残骸から少女を救った。

 砂煙に包まれた廊下で、ケホケホと咳き込むウィルと少女。


「何をしているんだ、危険だぞ!」

「でも、私の大事なミミが……!」


 状況と言動から察して、あの巨大ウサギはこの女の子が関係しているようだ。

 華世から聞いたツクモロズという敵の性質を考えると、元となったモノの所有者なのだろう。

 ウィルは彼女を抑えようと両肩を掴み、階段横の比較的安全そうな場所まで移動させた。


「君の大事な存在が、人を傷つけようとしているんだ! 俺が止めに行く!」

「あなたが……どうやって!?」

「俺にだって、力はある!」

「魔法少女の?」


 目の前の女の子から言われた言葉に、ウィルは思わずズッコケた。

 確かに、奇をてらって男が魔法少女になる物語は無くもないらしいが、少なくとも自分たちはそういう存在ではない。

 ウィルはツッコミをするのも放棄し、携帯電話を片手に外へと飛び出した。

 その画面に映るのはコロニー・アーミィのロゴと「CFFSスタンバイ」の文字。


「来てくれ、〈エルフィスニルファ〉!」


 仰ぎ見た空が一瞬輝き、徐々に降下してくる黒い影が現れる。

 その影は大きさをぐんぐんと増していき、やがてくっきりとした角張った輪郭を顕にする。

 そして校庭の一角に、地響きとともに着地する1機のキャリーフレーム。

 突然現れた巨大なロボットへと、ウサギツクモロズがゆっくりと振り返った。


 ウィルは急いで〈エルフィスニルファ〉へと駆け寄り、前に倒れ込んだコックピットハッチを駆け上がる。

 パイロットシートに身体を滑り込ませると、キャリーフレームのOSがひとりでに起動した。


《搭乗者確認。ようこそ、ウィル様》

「えっと、君は?」

《本日の運用テストのアシストとして出向しました、〈ジエル〉制御AIのEL(エル)です。以後お見知り置きを》


 キャリーフレームの制御AIの存在は、ウィルも聞いたことがあった。

 一応、この〈エルフィスニルファ〉もAI搭載世代のキャリーフレームではある。

 しかしAIが搭載される前に運用を開始してしまったため、空っぽの状態であった。


「……とにかくよろしく。あのウサギの手に女の子が握られてるんだ」

《救出対象を確認。気を失っているようです》

「それは良かった。なんとか助けないと……」

《敵性存在より攻撃の兆候。回避してください》

「えっ、うわあっ!」


 巨大なウサギが、開いてる方の腕を持ち上げ、先端に生えた爪のような物体を射出した。

 慌ててペダルを踏み込んで、後方へと飛び退き攻撃を回避する。


「ウサギにあんな肉食獣みたいな爪は無いだろ!?」

《敵はあくまでもウサギを模しただけの存在です。意匠のモデルとなった生物との関係性は無いと言っていいでしょう》


 一時的な相棒となったAIの言葉を耳に挟みながら、相手をよく観察する。

 巨大ウサギのツクモロズは、右手で女子生徒を掴み、先程は左手の爪を放ってきた。

 その爪はいつの間にか再装填か再生したのか、発射前と同じ形状になっている。

 安全に女子生徒を救出するためには、素早く右腕を切り落とすのが得策だろう。


「有効な武器は……ビーム・セイバーだと切っ先が触れてしまう恐れがあるし」

《ビーム・ダガー・ブーメランを推奨します》

「ビーム……なんだって?」


 EL(エル)へと聞き返すより先に、正面コンソールに武器の概要が表示された。

 ウィルにとっては聞き覚えのない武器名だったが、おそらくアーミィ支部で加えられたのだろう。


「とにかく、これだな!」


 操縦レバーを握りしめ、ブーメランを投げるイメージを神経越しに伝送する。

 そのイメージをトレースするように、〈エルフィスニルファ〉が腕を伸ばし、腰部に格納されたビーム・ダガー・ブーメランを掴み、前方へと投げつけた。

 回転しながら緩やかな弧を描き、敵へと迫りゆく輝くブーメラン。

 光の円盤のようにも見えるそれは、回避運動に入った巨大ウサギの行く先を読むかのように、狙った部位へと飛行し切り裂いた。

 同時にペダルを踏み込み、〈エルフィスニルファ〉の背部バーニアを吹かす。

 

「届けぇっ!!」


 切り裂かれて落下する腕からこぼれ落ちる女子生徒。

 その身体を受け止めるために、ウィルは機体の手を伸ばさせる。

 地面に落ちるまでの僅かな空間にマニピュレーターを滑り込ませ、落下に合わせて衝撃を殺すように手の上に軟着陸。

 そのままそっと校舎の中へと、気を失ったままの女子生徒を下ろし、近くに居た生徒へと介抱を任せる。


《敵ツクモロズ、攻撃態勢》

「くっ!」


 EL(エル)が放った警告に対し、半ば反射的にペダルとレバーを操作するウィル。

 背後から伸びてきた白い腕をかわし掴み、機体の全身をひねらせて思いっきり空へと敵を投げた。

 その敵と接触した僅かな時間に、ノイズ混じりに通信越しに声が響き渡る。


『そうだ、僕を倒してくれ! 僕が居なくなれば、あの子は……香澄かすみは独り立ちできるんだ!』

「え……?」


 空中へと投げられた巨大ウサギが、地面を振動させ土煙を巻き上げながら校庭へと倒れ込む。

 ウィルはゆっくりと立ち上がる敵を見据えながら、聞こえてきた声へと困惑をしていた。




    ───Iパートへ続く

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