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第8話「スクール・ラプソディ」【Dパート 女子トイレの魔王】

 【4】


 陰鬱な暗い空間に、スポットライトを当てられたかのように明かりがついた一角。

 呼び出しを受けたフェイク──女神像から生まれたツクモロズ──は、その空間に足を踏み入れた。

 もともと着ていた修道女服は着替えさせられ、黒いドレスのような衣装に身を包んだままその明かりの中心へと立つ。

 見上げると、壇上の仰々しい椅子に座った女が一人。

 彼女はフェイクを見下すような目を向けて口を開いた。


「フェイク。気分はどうだ?」

「最悪だね。わけのわからない小娘に殺られたかと思ったら、こんな場所に連れてこられ変な服まで着させられてさ」


「こりゃ! ザナミ様の御前ぞ!」


 ザナミの取り巻き、といった風の老人が喧しく叫ぶ。

 けれどもフェイクにとって、壇上の女──ザナミに敬意を表するには何もかも知らなさすぎる。


「良い、バトウ。見知らぬものにそう簡単に心は許せぬよ」

「話がわかるねぇあんた。で、私を蘇らせてどうしようっていうんだい?」

「フェイク、お前は……お前を死に至らしめたあの鉤爪の女が憎いか?」


 直球な質問。

 けれども、やや反射的に首を縦に振らざるを得ない。

 生活を破壊し、命まで奪ったあのふざけた格好の小娘への憎悪は、体の芯まで渦巻いている。


「気に食わないねえ。あんたいったい何なんだい? 私に何をさせようっていうんだい?」

「我々はお前に協力をする。今のお前では、あの鉤爪の女に勝つのは不可能だ。力を蓄える必要がある」

「チカラだって……?」

「モノエナジーを得れば、の者に立ち向かえる力となる。レス、居るか?」


「ここにいますよ、ザナミ様」


 声が聞こえたと思ったら、フェイクのすぐ隣にいつの間にか少年が立っていた。

 レスと呼ばれたその少年は、小生意気な顔をザナミへと向けながら、ニィと不敵な笑みを浮かべた。


「フェイクを手伝ってやれ」

「お安い御用だ」

「ちょ、私に聞かず何を勝手に……! 離せ! うわっ!?」


 レスに腕を掴まれたかと思うと、足元に広がっていた暗黒へと沈むように引きずり込まれる。

 そのまま何が起こっているかも理解できぬまま、フェイクはレスと共に影の穴へと吸い込まれてしまった。



 ※ ※ ※



「ここは……?」


 気がつくと、フェイクは白い床の上に居た。

 頭上に見えるのは薄っすらと反対側の街が見える、コロニー特有の青い空。

 ガヤガヤと子供の声が響き渡るのを見るに、どこかの学校の屋上のようだ。


「この学校の中に、非常に高いストレスを持つモノがいるね」

「ストレスを持つモノ?」

「ツクモ獣の適正を持つということさ。それが何かわかってから、詳しいことは説明するよ」


 未だ要領を得ないが、今は彼らの力を借りるしかない。

 内に燃え上がる復讐心を胸に、フェイクは拳を握りしめた。



 【5】


「痛っ!」


 突き飛ばされた少女はトイレの床に尻もちをつき、青タイルの壁に背をつけた。

 目の前には突き飛ばした張本人と、その取り巻きがクスクスとあざけり笑う。

 衝撃で手から離れたウサギのぬいぐるみに手を伸ばそうとしたが、主犯格の女子が少女より先にぬいぐるみを拾った。


「あ……」

望月もちづき、あんたキモいんだよねえ。学校にさ、こんな汚い人形持ってきちゃって。何歳だっての」

「か、返して……ミミを返して!」


 望月もちづき香澄かすみが、幼い頃からずっと一緒だった友達。

 色が落ち、洗っても落ちない汚れがいくらついても一度も手放さなかった心の支え。

 そのぬいぐるみ・ミミへと、取り巻きがハサミの刃を向けた。


「やめて……ミミにひどいことしないで!!」

「やめて、だって。笑える~! ほら、この汚い耳でも切り取っちゃおうよ」

「アッハハハ、賛成! ほーら、チョッキンしてやるから……」


 ピンと伸ばされたぬいぐるみの耳へと、振り上げられたハサミが迫る。

 少女にとってはあまりに残酷なシーンを前にし、ショックに声が出なくなった。

 心の中が絶望で満たされる、その瞬間だった。


「え……?」


 取り巻きの手からハサミが取り上げられ、彼女の頭上で拳の中へと消えた。

 そのまま投げ捨てられ、刃の部分がグニャグニャに曲がったハサミが音を立てながらトイレの床を滑る。

 主犯格と取り巻きが一斉に振り返り、ハサミを握りつぶした何者かへと向きを変えた。


「こんなところで、何やってんだか」


 輝くような金色の長髪をもった、少し背の高い一人の少女がそう言った。

 その声には妙に迫力があり、威圧感に押されてか女子たちが後ずさる。


「だ、誰よアンタ!?」

「あたしを誰だか知らないで、喧嘩を売ろうっての? なんならそのブサイクな顔面を、あのハサミみたいに握りつぶしても良いんだけど」

「う、く……」


 金髪の少女から放たれるプレッシャーが、この女子トイレの空間を支配していた。

 あまりの圧に耐えきれなくなったのか、主犯格がぬいぐるみを投げ捨て尻尾を巻いて逃げ出す。

 その背中を金髪少女は一瞥いちべつし、大事なぬいぐるみを拾い上げてくれた。




    ───Eパートへ続く

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