第7話「灰被りの魔女」【Iパート カレーパーティ】
【10】
《昨日夜遅くに発生した、マンホールの蓋が飛び付近の自動車に落下する事故について。捜査にあたっていたコロニー・ポリスは下水道で何か爆発のようなものが発生したことで、マンホールの蓋が飛んだという見解を明らかにしました。これについては────》
つけっぱなしの大型テレビから流れるニュース映像。
画面には繰り返し、防犯カメラに映ったマンホールの蓋が飛び出す映像が流れ続けている。
その光景をシステムキッチンのカウンター越しに眺めながら、巨大な鍋からすくい上げたカレーを皿に注いでいく。
「これって、昨日のあの子なのかな。華世ちゃん」
「だと思うけど……はい、これ咲良の分だから奥のテーブルによろしく結衣」
「はーい!」
山盛りに盛られたカレーの皿を、ミイナと共にパタパタと運ぶ結衣。
昨日の戦いのあとの約束通り、今夜は華世たちが暮らす家でカレーパーティだ。
普段はウィルも入れて四人で住んでいる家であるが、タワーマンションのワンフロアを専有してるだけあってスペースは余り気味である。
そのため、こうやって結衣に咲良に楓真と三人を加えても、テーブルさえ拡張すれば余裕で卓を囲むことができるのだ。
「楓真くん、すごいね華世ちゃんの家」
「本当にな。僕らなんてアーミィ管理のアパートだからねえ。豪華な家で女性に囲まれ男一人とは、幸せものだねウィル君」
「そうでもないですよ。男一人だと……洗濯物とか、風呂の時とか肩身が狭いし……」
ゲストと話に花を咲かせる一角に、結衣が割り込むようにして咲良の前に皿をゴッと置く。
突然に鳴った皿を置く音に、会話が一時ストップした。
「結衣ちゃん、どうしたの?」
「ちょっと大盛りのお皿が重かっただけですよ。ええと、今度は楓真さんの分……」
カウンターに乗せられた皿を手に取り、今度は優しくランチョンマットの上に軟着陸させる結衣。
彼女の内に秘められた感情が見え見えすぎて、華世は呆れ顔にならざるを得なかった。
「華世お嬢様、私もちょい大盛りでお願いしますー!」
「ミイナ、あんた大食らいだったっけ?」
「お嬢様が作った料理なら、私の有機変換炉は無限に摂取できますよ!」
「はいはい、自分で持っていきなさい」
リクエスト通りに気持ち多めによそったカレーライスを、ミイナへと手渡す。
見た感じからしてルンルン気分が飛び出している彼女の背中を見送ってから、華世はエプロンを外して席についた。
各々の皿から香ばしい香りと湯気がのぼる中、テーブルを見渡した内宮が、パンと手を叩く。
「ほな、全員分そろったし……飲み物の準備はええか?」
「はいはい。大人はビールで、子供はジュースと」
「では、何についてかわからんけど、乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
全員でグラスを持ち上げ、軽くぶつけ合ってカチンと小気味いい音を響かせる。
華世が作ったカレーの評判は上々で、皿が空になると我先にとおかわりを取りに行った。
ひとつ予想外だったのは、咲良の食欲である。
数日間食べる前提で15人前の量を作ったのにも関わらず、一晩で平らげてしまったのだ。
「……ほんと、咲良って食べた質量がどこにいってるのか不思議よねえ」
「ほら、言うじゃな~い。美味しいものは別腹って」
「あんたの別腹って異空間に繋がってるんじゃないの?」
「ひどいな~。あ、そうだ……ミュウくんが私のこと何か言ってなかった?」
急に真顔になって尋ねてくる咲良。
実のところ、華世は咲良がミュウと妹について話していることを知っていた。
ミュウから聞いたわけではなく、ハムスターケージに取り付けてある無線機越しにではあるが。
確かに、咲良が抱く疑問も理解はできる。
妖精族が何者なのか、これまでどのような歴史をたどったか。
けれども華世はいずれ答えが出るだろうと、一旦この問題を放置することにした。
それは、ミュウと咲良との関係を現状のまま維持したいという感情もある。
けれども、最も大きいのはその真相は自分で確かめたいという思いだった。
誰が正しいのか、何が起こったのか。
それを自分の目で確かめ、判断するまで、華世はこの話題には触れないようにした。
「……なんにも言ってなかったわよ。オヤツでも盗られたの?」
「そっか~、ならいいの。ねえねえ、楓真く~ん」
華世から離れ、楓真の元へと絡みに行く咲良。
彼女の姿を横目に眺めながら、華世はつけっぱなしのニュース映像をぼんやりと見つめていた。
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登場戦士・マシン紹介No.7
【マジカル・ホノカ】
身長:1.49メートル
体重:63キログラム
華世の前に現れた、二人目の魔法少女。
動きやすいように改造した修道服の下に、実はインナーのように青色の魔法少女衣装を着込んでいる。
修道服は表面に耐火処理を施しており、激しい爆発や炎を至近距離で受けても決して燃えることはない。
両腕に装備した機械籠手は「フレイム・ガントレット」と呼ばれる火炎兵器。
内部には可燃性ガスを内包した無数のガス管が内蔵されており、周辺散布からミサイルのようにガス管を発射しての包囲まで幅広い散布方法を持つ。
自身の周囲に散布した可燃性ガスは、ホノカ自身の風魔法によって都合のいい場所まで流し、導線がわりの細いガス流に籠手先端の火打ち石で着火することで爆破することができる。
この戦法には、風魔法の風力が攻撃に使えるほど強くはなかったことと、魔法少女同士で戦う際に能力を勘違いさせる狙いという2つの理由が存在する。
手のひらには華世が使っているものと同様のV・フィールド発生装置が装備されており、コレにより可燃ガスを滞留させることで炎の障壁「フレイムシールド」を生み出すことが可能。
また、この障壁には外側へ向けた強い力場が発生しているため非実体ながら物理攻撃を受け止められる効果もある。
実弾を正面から撃たれた場合は、熱量によって実弾が溶解。エネルギー弾は炎の熱エネルギーとぶつかり合って消滅するため、射撃に対して高い防御性能を持つ。
魔法少女としての能力は低いが、可能なことを外部装置によって補強し攻撃能力としているという点では、マジカル・カヨとベクトルは似通っていると言える。
【次回予告】
不慣れな学校生活に邁進するウィル。
トラブルや騒動を乗り越えつつも、年相応の少年としての幸せを彼は噛み締めていた。
だが平和な学び舎も、時として一瞬で戦場と化してしまう。
次回、鉄腕魔法少女マジ・カヨ 第8話「スクール・ラプソディ」
────平和と狂騒は、表裏一体。




