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第7話「灰被りの魔女」【Gパート 狼煙の決着】

 【8】


「そんな独り言を、言ってる場合ですか?」


 ミュウとやり取りをしている内に、いつの間にか距離を詰められ飛びかかられていた。

 炎をまとったこぶしによるパンチを、後方にのけぞるように回避。

 そのままバク転しつつ少し距離を取り、近場に立っている程よい木の幹へと義手の手首を射出する華世。

 掴んだ木へとワイヤーを巻き取ることで上昇し、最小限の動きで太い枝の上へと着地した。


「とにかく、相手の攻撃のパターンが掴めないことには……」

「そんなところに登っても、無駄です」


 そう言いながら、両拳を空中でガツンとぶつけるホノカ。

 同時に華世が乗っている木の根元から爆炎が球状に発生し、幹の下部がごっそり蒸発した。


「わたたたっ!?」


 傾き、倒れる枝の上から別の木へと急いで飛び移ろうとする華世。

 しかし、その木も一瞬にして火柱に包まれ、炎の中に消えていった。

 とっさのことで着地体勢をミスり、右腕の義手から地面に落ちてしまう。

 高所からの落下から華世の身体を支えたことで、義手がベキリと嫌な音を出す。

 見れば、手頃な木々はすべて炎に包まれ、そのゆらめきが明かりのように中心に立つホノカを妖しく照らし出していた。


 これだけ燃え上がっているにも関わらず、華世の周囲だけしか延焼していないのも、敵のなせる技か。


「私の力はわかったでしょう? 降参すれば命までは奪いません」

「命を奪わない……ね。甘い考えじゃない? あんた」

「甘い?」

「戦いなんて、殺すか殺されるかよ。相手を生かすために手を抜いて、それで返り討ちにあったら間抜けじゃない」

「では、本気を出しましょうか?」


 ホノカが、おもむろに両腕を前へと突き出す。

 その瞬間、機械籠手ガントレットを覆う円柱状の突起が発射されるように宙へと放たれた。

 煙の尾を引きミサイルのように飛来した円柱群は、華世を囲むように地面に突き刺さる。

 同時にホノカが右手を上げ、地面へと振り下ろした。


「これで、終わりです──!」



 ※ ※ ※



 凄まじい閃光と爆炎が緑地帯に炸裂した。

 自らの手で引き起こした目の前の爆発を、冷めた目で見つめるホノカ。


「これでわかったでしょう、私との力の差が。さあ、降伏を────!?」


 揺らめいていた炎が消え、そこに見えた光景にホノカは目を見開いた。

 地面に横たわる焦げ付き砕け散った機械義手の残骸と、魔法少女衣装の燃え残った切れ端。

 それ以外は、地面にこびりついた円状の焼け跡以外なにも残ってはいなかった。


(──もしかして、間違えた?)


 嫌な汗が額から流れ、頬を伝う。

 思ってみれば、やけに爆発が派手すぎた。

 もしかして、調整をミスしてしまった?

 そのために相手を……殺めてしまった?


「誰も死なせない、殺さないって。約束した……のに!」


 確かに、相手は敵だったかもしれない。

 けれども、まだ若く未来ある少女だったのだ。

 その未来を、一方的に奪ってしまった。

 その事実にホノカは震え、顔をひきつらせていた。


 ────その時だった。


 背後に突然現れる気配。

 とっさに振り向き、視界に入る赤熱した切っ先。


「だりゃぁぁぁっ!!」


 さきほど殺めてしまったと思った少女が、そう唸りながら飛び蹴りを放っていた。

 義足の足の裏から飛び出したナイフの赤熱した刃を、半ば反射的に左腕の機械籠手ガントレットで受け止めてしまう。


「しまっ……!?」


 光熱のナイフが突き刺さった部位から、機械籠手ガントレットが爆発をした。

 その衝撃で後方へとふっとばされ、空中で一回転しながらもなんとか着地。地面を滑るようにして勢いを殺した。

 内側から炸裂した爆炎で、いびつに歪んだ左の機械籠手ガントレットから、火花を上げる部位を強引に剥ぎ捨てる。

 その間に正面を見据えると、華世は千切れた義手を物ともせず、生身の左手で太刀を握り構えていた。


「ど、どうやって後ろに……!?」

「タネさえわかれば、簡単な手品だったわ。あんたが引き起こしていた爆発と炎、あれらは可燃性ガスに火を着けていただけでしょ?」

「…………」

「魔法の力で風でも起こして、任意の場所にガスを散布。その籠手の先の火打ち石か何かで導線に火を放てば、目当ての場所がドカンってわけよ」


 図星だった。

 ホノカの魔法能力、それは風を操ること。

 けれども相手を吹き飛ばすほどの旋風を巻き起こすことはできず、そのための可燃性ガスと機械籠手ガントレットだった。

 ガスの爆発を完全にコントロールできるホノカにとって、これほど扱いやすく手加減しやすい武器も無い。

 けれども、その不殺の信念が仇となってしまったのか。


「あんたがあたしを直接爆破しようとした時、壊れかけていた義手でわざとビームを発射したのよ。それも全力でね」

「ビームによるガスへの引火と、ビーム発振器の爆発。それによって発生した爆風に乗って、飛び上がった……っていうの」

「あんたが狼狽えている隙に姿勢を整えて、そこの木を蹴ったってワケ。そして……チェックメイトよ」


 華世がそう言って太刀を握った左腕を振り上げると同時に、ホノカの身体を周囲から放たれたまばゆい光が照らし出す。

 気がつけば、周囲を囲むように銃を構えた無数の軍人。それといくつかのキャリーフレームがホノカへと銃口を向けていた。


「仲間を……集めていたのですか?」

「卑怯とは言わないでよね。あんたのような危険分子、あたし一人じゃ手に負えないもの。さあ、おとなしく降伏しなさい」


 自分がさっきまで相手に言っていた言葉を返され、うつむくホノカ。

 けれども、ここで捕まるわけにはいかない。任務を失敗するわけには……いかないのだ。

 まだ健在な右腕の機械籠手ガントレットから足元へ、気づかれぬようガスを放射。

 そして、一瞬の隙をついて左手を地面に突き立てた。




    ───Hパートへ続く

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