第7話「灰被りの魔女」【Eパート 咲良の陰】
【5】
「────だが、課題は山積みである。ミュウ少年いわく、ツクモロズには首領と呼ばれるトップがいるという。しかしそれが何者か、そして組織規模がいか程かなど、一切情報がない……だったかな?」
「そうだミュ……僕も実はそこまでは知らないんだミュ。でも、諦めずに戦っていれば、必ず向こうから行動してくるミュ! それまで……どうか、負けないでミュ!」
ミュウの言葉を持って、説明会は解散となった。
結局、華世が口を挟まなくても滞りなく終わったので、内宮はホッとしていた。
本人がそこまで乗り気でなくても、学生生活というものは若い時の指針になりやすい。
娘同然の存在が仕事のために若さの特権を失うことは、やはり耐え難いものなのだ。
ふと壁の掛け時計を見て、時刻が昼休憩に差し掛かっていることに気がつく。
内宮は今日は何を食べようかと考えつつ、会議室の端で伸びをしているミイナに声をかけた。
「ミイナはん、せっかく来たんやし今日は昼一緒にどうや?」
「えっ、いいんですか? でも……ミュウ君を家に連れて帰らないと」
ちら、とハムスターケージの方を見るミイナ。
中の小動物はヒマワリの種をカリカリと貪っていたが、確かに彼を支部に置いて出かけるわけにもいかないだろう。
「あ、隊長。よかったら私が面倒見てあげましょうか~?」
「おお、葵はん。そんなら嬉しいんやけど、ええんか?」
「私、今日お弁当なので大丈夫です~!」
「せやったらお言葉に甘えて。ミイナはん、美味い定食屋を紹介したるわ」
「わーい! じゃあ葵さんを待たせてもいけませんし、早く行きましょう!」
ミイナに腕を引っ張られるかたちで会議室を後にする内宮。
しかし、咲良が唇の隙間から食いしばった歯を見せていたことは、内宮を含めこのとき誰も気づいていなかった。
※ ※ ※
「ミュ……ミュミュ……?」
ミュウは困惑していた。
内宮からケージを託された咲良に運ばれ、行き着いた先は誰もいない取調室。
明かりもつけず薄暗い部屋の中で、格子越しにミュウを睨むのは、いつもにこやかな顔をしていた葵咲良。
しかしその目は今まで見たこともないほど釣り上がり、威圧的な目線でミュウの小さな体躯を睨みつけていた。
「さ、咲良さん……どうしたんだミュ? なんだか恐いミュ……」
「ちょっと、あなたに聞きたいことがあってね」
低い声でそう言った咲良は、懐から取り出した手帳から一枚の写真を取り出し、ミュウへと見せた。
そこに写っていたのは、制服姿の若い咲良と思しき人物と、彼女の隣で笑顔を見せる咲良に似た少女。
「葵紅葉って女の子のこと……知ってる?」
「う、ううん。知らないミュ……誰なんだミュ……?」
「……9年前に死んだ私の妹」
「死ん……だ……?」
「ええ。……魔法少女として戦って、死んだのよ。私の妹は」
「え……!?」
驚愕するミュウの前で、咲良はカバンから一冊のノートを取り出した。
その表紙には、葵紅葉という持ち主の名前と、日記帳という大きな題字が綴られている。
「妹は……紅葉は全部日記に残していた。ミュウという妖精に導かれて魔法少女になったこと。ツクモロズという敵と戦っていたこと。そして、もうすぐツクモロズの首領を倒せそうだ、ということもね。なんで……」
「ミュ……」
「どうして、妹の日記にあなたの名前が書かれてるの? あなたは何なの? 私の妹を……本当に知らないの?」
上から向けられる咲良の眼差し。
その瞳に宿っていたのは、紛れもなく憎悪だった。
けれども、その視線を受けてもなお、ミュウの記憶にはそのような少女の存在は思い当たらなかった。
「本当に、本当にわからないんだミュ! 僕じゃないんだミュ……信じて……」
「……そう」
日記を仕舞い、ケージを持ち上げる咲良。
そのまま出口へと向かい、取調室の扉に手をかけたところで、彼女は足を止めた。
「今回は信じてあげるけど、もしもさっきの発言が嘘だったら……私、許さないから」
───Fパートへ続く




