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第7話「灰被りの魔女」【Cパート 体力測定】

 【3】


「じゃあ華世ちゃん。その傭兵ポータルからは辿れないんだね」

「情報開示をさせようにも、地球の国家のいくつかが元締めだからねぇ。宇宙メインのコロニー・アーミィじゃ権限が届かないってわけよ」


 体操服に身を包み、校庭に体育座りしながら結衣と小声で会話する華世。

 今日の体育の授業は体力測定であり、列の先ではクラスメイトが歯を食いしばりながら50メートル走に励んでいる。


 不意に、離れたところで同様の測定をしている男子グループから、歓声があがった。


「ウィル、5.98秒!」


「……へぇ、あいつやるじゃない」

「あれってすごいの?」

「この年齢で6秒切れるのはなかなかよ。それじゃ、あたしも……!」


 順番が回ってきた華世は立ち上がり、スタートラインに立った。

 そして前かがみになりクラウチングスタートの体勢へ移行、開始の合図を待つ。

 甲高いホイッスルの音とともに土を蹴り、前へと疾走。

 風を切ったままゴールラインを突っ切り、滑るようにブレーキをかけ停止した。


「葉月華世、……ご、5.13秒!?」


 ストップウォッチを持った体育教師が、声を震わせながら記録を読み上げた。

 手動計測のため正確性には欠ける記録ではあるが、大幅にウィルを追い抜き小さくガッツポーズをする。


「華世ちゃん、すごーい!」

「でしょ? ……と言っても、義足込みの記録だからインチキみたいなものだけどね」


 義体というものは、マシンパワーによって元の肉体よりも強くすることが可能である。

 そのため、義手義足を用いてスポーツを行うパラリンピックでは、義体メーカーが作り上げた高性能機の性能勝負になっている一面があるほど。

 華世が身につけている義手義足もその例にもれず、腕力・脚力はかなり強めに設定してあるのだ。

 もちろん普段の生活ではパワーを落とし、生身の手足に合わせるようになっているのだが。


「ふんぎぎぎぃぃぃ……ですわっ!」

「リン・クーロン、9.02秒!」


 至って平凡な記録を出したリンが、ゼェハァと肩で息をしながら華世の後ろに座り込んだ。

 結われた黒髪は汗が染み付いて乱れ、疲労で歪んだその顔は良家のお嬢様がしていい表情ではなくなっている。


「おつかれ、リン」

「わたくしは……ゼェ……あなたたちと……違って……ゲフッ……人間を……辞めては……いまぜんがらっ」

「たかだか体力測定で、ムキになり過ぎなのよ。容姿端麗、文武両道、才色兼備なあたしに生身で勝てるわけ無いでしょ」

「んまっ、なんて自意識過剰でしょう。運動能力で劣ってはいても、容姿で負けるつもりはありませんわ! げぼっ」


「まーまー、ふたりとも体育の授業で外見を競わなくてもいいじゃない」


 一見するとバカバカしいようなやり取りが飛び交う中、午前の時間はゆったりと過ぎていった。

 そんな中、不意にブルルと華世の髪飾りが振動する。


「ああ、もうそんな時間か」

「どしたの?」

「アーミィのツクモロズの説明会に呼ばれてるのよ。と言っても通信越しだし、必要がなければ黙ってていいけど」


 周囲を見渡し、まだまだ体力測定の列が長いことを確認する。

 これならば、会の最初くらいは集中して聞けるだろう。


「結衣、何かあったら指でつついて」

「わかったー」


 結衣にこの場の反応を任せて、華世は髪飾りに指を載せた



    ───Dパートへ続く

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