第7話「灰被りの魔女」【Bパート 灰色噂話】
【2】
「ふわぁ~……」
「眠そうやな、葵はん。それにスーツもヨレヨレやないかい」
隣のデスクであくびをする咲良へと、セパレーターの脇から覗き込む内宮。
咲良の更に奥隣に座る楓真も、眠そうな目をしながらパソコンに向かっている。
「昨日、楓真くんの引っ越し手伝いが落ち着いたあと一晩中、寝落ちするまで『エルフィスVSエルフィス』やってたんですよ~。スーツがアレなのは置く場所間違えて変なシワついちゃったんです~」
「『エルフィスVSエルフィス』って、あの歴戦のキャリーフレーム乗り同士でバトり合うゲームか。うちあのアケゲーベースの操作法が苦手なんよなあ。同時押しとかが誤爆しまくってな……それはともかく、業務に支障をきたす夜ふかしはアカンで」
「ふぁぁい」
あくびをする咲良を尻目に、内宮はパソコンへと向き直る。
コロニー・アーミィのデータベースで探しているのは、楓真が所属していた基地を潰したという傭兵“灰被りの魔女”。
と言っても目立った活動として情報が残っているのはここ3ヶ月程度。
それ以前は該当無しなのを見るに、最近活動を始めたのか、それともやり口を変えたのか。
「えーと、単身で爆発物を使った無駄のない巧みな拠点破壊が特徴。死人を出さないことに定評があり、派手な破壊活動にも関わらず死者はゼロ……か」
「そうですね~。爆発で灰が舞うことと、いちおう傭兵の登録で女性であることがわかるから“灰被りの魔女”と呼ばれてるんですって~」
「まいったねぇ隊長。キャリーフレーム戦を仕掛けてくるとかだったら僕らに一日の長があるけど、潜入タイプはお手上げだ」
「けどなぁ、どうもこの傭兵は義賊っぽい感じでな。防衛の名目であくどいことやってたトコばっかり、潰しとるみたいなんや。見てみ」
内宮の招き寄せに応じ、パソコンの画面を見に来る咲良と楓真。
二人が揃ったのを見てから、内宮は画面に写っているウィンドウを変えた。
「最初に潰されたんは金星の第11コロニー・オータムのアーミィ支部。ここの支部長が資金横領してたんが事後調査で明らかになっとる」
「へ~、そんなことあったんですね~」
「他人事やないで。次は地球圏のコロニーで宙賊と癒着してた領主の屋敷を爆破。そして先日のコロニーで……」
「僕の勤め先がやられた、と。まあ、あそこの偉いさんの誰かが過剰に防衛税を課していたから、それが潰された理由ってところか」
「楓真くん、悪事を見逃してたの~!?」
「よしてくれ、僕は階級こそ少尉だが末端の構成員だよ? 正義感まかせで上層部に楯突けるほど、度胸もなければ権威もない」
彼が言う気持ちもわかる。
アーミィに所属しているからといって、クビになる覚悟を持って上司の悪事に立ち向かえる人間は少ないだろう。
給料をもらわないと生活できないのが、人間というイキモノなのだから。
「……まあ、うちらのトコは支部長こそ変な人やけど、後ろめたいモンは無いやろうし」
「ブーーッ!!」
ちょうどピンポイントなタイミングで、飲みかけたコーヒーを吹き出すウルク・ラーゼ支部長。
一斉に部屋中の視線を集めた仮面の男は、周囲を睨み──といっても仮面の目に当たる部分のレンズ越しだが──ながらコーヒーを布で拭きまわっていた。
「……支部長?」
「フン……恐らくはどこかの反社会テロリスト辺りが私の噂でもしたのだろうよ」
(……怪し~よね、楓真くん)
(……まあ、人間は権力を得ると狂うと言うしね)
背後のヒソヒソ話を聞きながら、内宮は先行きの不安をため息で主張した。
───Cパートへ続く




