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第7話「灰被りの魔女」【Aパート 桃色噂話】

 世の中に、同じ顔の人が3人はいる言うやないか。


 せやったら同じ境遇・同じ発想の人くらい、この広い宇宙にぎょーさんおるんやないか?


 たとえそれが、魔法少女だという立場でも。


 ま、うちは知らんけどな……。


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


     鉄腕魔法少女マジ・カヨ


     第7話「灰被りの魔女」


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


 【1】


「おかしいミュ……おかしいミュ……」


 華世の部屋のハムスターケージの中で、ミュウは唸っていた。

 困り事の原因はミイナがタブレット端末ごしに見せてくれる、この間の戦いで華世の魔法がステーションを破壊した映像。

 作戦に同行した宇宙艦が外から撮影したものであるのだが、その光景はあまりにも信じられないものだった。


「もう一回見せてミュ」

「はーい。でも、これでもう20回目だよ? ミュウくん飽きないねー」

「飽きないんじゃなくて、納得ができないんだミュ……。華世が使った魔法は、ステッキの水晶から未錬成の魔力を放つ……言うなれば一番基礎の、一番弱い魔法だミュ」

「華世お嬢様が、魔法の才能に溢れていたんですよ! ほら、アニメとかだとよくあるじゃない!」

「だとしたら……華世は普通の少女よりも数万倍の才能があることになるミュ。おかしいミュ、おかしいミュ……」



 ※ ※ ※



『……ということらしいですが。華世お嬢様、どうなんですか?』

『あのハム助の動向をいちいち報告しないでよ。いま授業中よ』


 退屈な近代宇宙史の解説を小耳に挟みながら、髪留め型念波通信機でミイナの応対をする華世。

 もうすぐ一時間目が終わるなと思った矢先に通信が入ったので、何かと思ったのだが。


『でも……』

『あ、授業終わったわ。これ以上話すと怪しまれるから、切るわよ』

『お嬢さ……』


 半ば強引に華世は通信を断ち切った。

 そして周りに合わせて立ち上がり、リンの号令のもと授業終了の掛け声を出す。

 椅子に座りため息を付いたところで、隣の席の結衣が指で肩を突いてきた。


「華世ちゃん、難しい顔してたけど……お仕事の通信?」

「いいえ、家から野暮用よ」

「でも、ノート取ってなかったみたいだけど大丈夫? テスト来週だよ?」

「問題ないわよ。半年戦争から黄金戦役にかけての歴史なら、家で秋姉あきねえから飽きるほど教わったし」

「私だって、黄金戦役なら知ってるもん!」

「あんたが知ってるのはドキュメンタリーアニメ経由の歪んだ情報でしょうが!」


 黄金戦役とは、今から10年前に起こった地球圏の存亡をかけた戦いである。

 戦いの際に宇宙が黄金こがね色に輝いたことから黄金おうごん戦役と名がついたという。

 その戦いの中心となった少年少女の道筋を描いたドキュメンタリーアニメは、この10年間の間で最もムーヴメントを巻き起こしたコンテンツとなった。

 だが内宮いわく、脚色や削りが多くてとても見られたものではないらしいが。

 華世も一度見たことはあるが、あまりにもヒーロー然とした外見のキャリーフレームが登場したのを見て、内宮の見せた難色に納得したことがある。


 そんな話をしていると、遠くの席からゆっくりと歩み寄ってくる一人の影。


「華世、君はすごいなぁ」


 離れた席から歩いてやってきたのは、男子制服に身を包んだウィル。

 彼の姿を見て、結衣の目が輝き出す。


「ほら華世ちゃん、彼氏さん来たよ!」

「だぁれが彼氏だか」

「でも、無人島で一緒に暮らしてたし……おっぱい揉ませてあげたんでしょ?」

「……ウィル、あんたいつの間に話したのよ」


 華世に睨まれ、目をそらしながら萎縮するウィル。

 彼は今朝、転校生という扱いでこの明星みょうじょう中学校へと編入された。

 といっても保護観察中の彼を、学生である華世が監視するためというのが表立った理由であるのだが。


「いやあ……ホームルーム前に職員室の廊下でこの子に追求されて」

「……まあ良いけど。結衣、監視のために今もこいつと同じ屋根の下で暮らしているけど、関係を勘違いしたらダメよ」

「えっ、同棲どうせいしてるの!? 華世ちゃん大人おっとなー!」

「監視のためって言ったでしょうが。部屋は別だし、秋姉あきねえとミイナもいるから二人暮らしでもないわよ」

「いいなぁ、想い人とラブラブ暮らし……」

「聞いちゃいねぇわね」


 呆れつつ、流し目で結衣を睨む華世。

 今夜の夕食は何をしようか、ウィルに荷物持ちさせれば数日分の買い物ができるな、と考えていると結衣が唐突に机を叩いた。


「そうだ、聞いてよ華世ちゃん! 昨日のお昼、近所のホムセンにきんダコ食べに行ったらね」

「休日の昼メシに一人たこ焼きって……あんた寂しい暮らししてるわね」

「私の事はいいの! そしたら家具売り場で……咲良さんが楓真ふうまさんと一緒に家具を見てたの!」

「引っ越してきたばっかりだし、家具くらい買うでしょ」


 先日のステーション作戦の後に、勤務していた基地が襲撃で壊滅した楓真ふうま

 帰還先が潰れたことで、なし崩し的に彼はここクーロンのコロニー・アーミィに転属となった。

 その流れでアーミィが管理している寮代わりのアパートへと入居したという経緯を、華世は内宮から聞いている。

 その流れを知っていれば、土地勘があり彼と旧知の仲である咲良が買い物に付き合うのはいたって自然だと思われる。


「でもでも、その後に、楓真ふうまさんの家に仲良さそうに二人で入って……一晩中明かりが消えなかったの!! しかも今朝、昨日と同じ格好で二人仲良く出勤してたし、衣服も乱れてた!! コレ絶対、大人の男女でアレしてるよね!?」

「どーせ徹夜でゲームでもしてたんでしょ。あたしとしては、何であんたが他人の動向をそこまで知ってるかが気になるところだけど」

「だって、だぁーって! 大人の異性同士が一晩中やることだよ!? 絶対に怪しいよぉ!」


 そうは言われても、華世は咲良という女性がそういう行為に及ぶ姿が全く想像できなかった。

 女としての色気を100%食い気に回しているような生態を、日頃からたっぷり見飽きているからだ。

 そして何より、20代後半だというのにどことなく精神面から幼さが抜けきっていない咲良が、関係を全否定する楓真ふうまとそういうことに及ぶとは到底考えられなかった。

 むしろ、華世の中での咲良の謎は、毎日1食を数キロ単位で食べているのにも関わらず、スレンダーな体型が一切崩れず太らないことである。

 その謎に比べれば、結衣の深読みの男女関係などワイドショーにも劣る程度のゴシップニュースにしか感じられなかった。


「結衣の恋愛脳には困ったものね。ウィル、気にする必要ないからね」

「う、うん……」


 頭の中桃色な結衣と冷静な華世に挟まれてか、ウィルは口元を引きつらせながら困惑しているように見えた。




    ───Bパートへ続く

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