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第6話「彗星の煌めき」【Gパート 宇宙戦再び】

 【6】


 大昔の人が宇宙を行き交う乗り物を「船」と呼んだのは、広大な漆黒の空を海になぞらえたから……というのは定かではない。

 けれども水に浮かぶ艦船と同じルールで駆逐艦という艦種をあてられた、アリエス級3番艦〈コリデール〉。

 その艦首に魔法少女姿で仁王立ちしながら、華世は星の光が散りばめられた虚空を見つめていた。


『やっほ』


 そんな華世の眼前に、半透明な内宮の顔が浮かび上がる。

 驚いて口をパクパクし、宇宙では声が発せられないことを思い出した。

 そして耳につけたインカムを指で抑え、念波で通話を行う。

 

『驚かさないでよ、秋姉あきねえ

『いいかげん慣れーや。華世のために、この立体投影枠ホロウィンドウの送受信機を用意してもらったんやから』


 立体投影枠ホロウィンドウとは、スクリーンやモニター等の映像装置を介さず、空間に直接映像を映し出す最新の通信技術である。

 原理はわからないが、いま華世の耳につけているデバイスを介し、戦艦やコックピット内からの通信を映像付きで空中投影してくれる。

 とはいえ、前フリなしでいきなり映像が飛び出してくるため、慣れないうちは現れる度にビクッと驚いてしまう。


『で、何の用?』

『もうすぐしたら例のステーションが見えてくるはずやけど……本当に宇宙、大丈夫なんか?』

『そっちからは見えないかもしれないけど、ほら』


 軽くトンと艦首装甲をつま先で弾き、身体を宙に浮かせる華世。

 背負ったバックパックから小刻みに推進剤が噴射され、即座に華世の身体を船体に対して同じ速度になるように調整してくれた。


『こうやって相対速度を合わせてくれるし、スペック上は激しい宇宙戦も可能だって』

『けどなぁ。華世はこないだ宇宙で大怪我したばっかりやろ』

『トラウマになんかなってないわよ。腕を失ったときに比べたら、この程度』


 クロガネ色に輝く義足で静かに着地しながら、華世は得意顔をした。

 昨日ドクターと調整した通り、変身すれば魔法の衣装ストレージから戦闘用義手に換装される。

 曰くマジカルカヨ・第二形態と結衣は呼んでいたが、これが最終フォームであることを祈るばかりだ。


 バーニアの発光に視線を動かすと、宇宙駆逐艦〈コリデール〉の横を飛ぶ赤い塗装の〈(レッド)ザンドール〉が、巨大な手のひらを頭部の前に出して挨拶をした。

 同時に、華世の斜め前にコックピットに座る楓真ふうまの顔が映し出される。


『よう、マジカル・ガール。生身で宇宙空間に出る気分ってどうなんだい?』

『あたしには華世って名前があるんだけど。別に変身中だと適温無風の屋内と感覚は変わらないわよ』

『そうかい。魔法の力ってすごいねえ。戦いが起こったらもっと派手な魔法の一つでも見せてもらえるのかな?』

『あたしは魔法を攻撃には使いたくないの。火力として信用が無いからね』

『そいつは残念だ。おっと、そろそろステーションが見えてくる頃合いだが……悪い予感があたったみたいだねえ。敵だよ!』

『敵ぃ?』


 華世の正面に点のように小さく見える、真っ白なステーション。

 その近くに動く6つの光点が見え、数秒の後に人型の輪郭を表してきた。


『なんで廃棄ステーションに護衛がいるの~!?』

『警備システムが生きているのは妙だねぇ。機体は無人型〈ビーライン〉か……隊長さん、命令よろしく!』

『言われんでもわかっとる! ハガル小隊、攻撃フォーメーション!』

『『了解ラーサ!』』


 内宮の〈ザンドールA〉を先頭に、2機の〈ザンドール〉がバーニアから光の緒を引きながら敵機へと向かっていく。

 一斉に発射されたビームライフルの光弾が、敵1機へと断続的に着弾し〈ビーライン〉を一瞬で花火へと変えた。


 攻撃を受けたのを察知したように、他の機体が散会。

 複数方向から接近してくる敵機を内宮率いるフォーメーションが各個にビームライフルで迎撃する。

 しかし放たれたビームの弾は、〈ビーライン〉の機体前面を覆う大型ビーム・シールドの光幕に防がれた。


『んにぃっ!?』

『でも、私のビーム・スラスターならっ!』


 咲良の乗った〈ジエル〉が艦の陰から飛び出し、前方に向けた2門の大型ビーム砲身が光を放つ。

 勢いよく放たれた細く鋭い光の螺旋は、ビームの障壁を貫き一瞬で人型マシーンを消し飛ばした。


『やっぱ惚れ惚れする威力~! 華世ちゃん、そっちにも行ったよ~!』

『はいはい。ようやく、あたしの出番ってね!』


 鋼鉄の足で艦首装甲を蹴り、正面に飛んでいくイメージを思い浮かべる。

 その思考を神経越しに読み取り、背中に背負ったスラスター・ウィングが展開。

 翼の各部から推進剤が噴射され、華世の身体を宇宙へと持ち上げた。


 そのまま加速し、視界内に敵キャリーフレームを捉える。

 放たれたビーム・マシンガンの弾に対し、Vフィールドを展開。

 展開された力場が飛来した光弾の進路を反らし、直撃を避けてくれた。


 そのまま接近し、新しい右腕の手首からビーム・セイバーを展開し一閃。

 人間大のビーム剣ゆえ胴体部分の装甲表面をえぐる程度の傷しかつけられなかったが、華世は冷静に一旦少しだけ距離をとる。

 そして義足の脛装甲が側面へとスライドし前面へと回転。

 正面に向けられた発射口から数発のマイクロミサイルが射出された。


 真っ直ぐに細い煙の尾を引き、さきほど華世がつけた装甲の傷へと向かっていくミサイル群。

 装甲に突き刺さった弾頭が炸裂し、青い炎が〈ビーライン〉を貫き背部から誘爆するようにして弾け飛んだ。


『やるねぇ、マジカル・ガール』

『せっかくあんたたちキャリーフレームいるんだから、あたしに投げないでよね』

『そりゃあそうだ。じゃあ僕も張り切らせてもらおうか!』


 やや先行する位置へと、〈(レッド)ザンドール〉が前進。

 両肩のシールドに装備していた小さな筒状ユニットを分離させ、宙に浮かべた。


『ガンドローン、一斉攻撃!』


 楓真ふうまの声に呼応するように、ガンドローンと呼ばれた小型ビットが敵へと飛んでいった。

 数秒の後に彼方で光の線が無数に乱れ飛び、球状の爆炎が敵の数だけ発生。

 速やかに帰ってきたガンドローンが〈(レッド)ザンドール〉の肩へと元あった場所に収まるように戻っていった。


 ガンドローンとは、無線誘導の独立した小型ビーム砲台である。

 このビーム砲で敵を囲み一斉発射をすることで、防御を許さないオールレンジ攻撃が可能になる。

 しかし的確な位置へのリアルタイムでの配置、攻撃指示を出すには高い並列思考能力が要求されるものである。

 そのため、使用するにはエクスジェネレーション能力、通称ExG能力という特殊な能力が必要になるという。

 この能力自体は宇宙に住む者には等しく発現するが、ガンドローンの使用に耐えうるまで成長するのは全体の3割ほどであるらしい。


『それあるなら、最初に使いなさいよ』


 一応、自身にもExG能力があることを知っている華世は通信で毒づいた。

 ExG能力は優れた並列思考に加え、少ない情報から状況を読む能力など、思考能力の向上を得ることができる。

 華世の並外れた感性や知覚も、この能力によるものだった。


『悪いねえ。君たちの戦闘能力を見たかったんだ』

『まあ、うちらの仕事なんてステーションまでのつゆ払いや。中入ったら戦うのは華世の役目やで』

『はいはい。あれが例の研究ステーションね』


 いつの間にか視認できる距離まで、近づいていたようだ。

 作戦前に写真で見せてもらったのと同じ真っ白なステーションの輪郭が、徐々に宇宙空間を背景に大きくなっていく。

 やがて数十メートル先にステーションの入り口が見えるところまで宇宙駆逐艦〈コリデール〉が接近。

 華世は楓真ふうまの〈(レッド)ザンドール〉の後に続くように発着デッキへと降り立った。




    ───Hパートへ続く

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