第6話「彗星の煌めき」【Fパート フライな親睦会】
【5】
塩気にまみれた指で、まあるい包み紙を剥がす。
内側から出てきた茶色いパンズを、大きく開けた口でかぶりつく。
「……なあ、支部長」
「なんだね内宮少尉」
「なんで……」
テーブルの上を見渡す内宮。
シンプルなハンバーガーとポテトと飲み物のセットを乗せたトレーが3つ。
残り一つのトレーには、ハンバーガーの包み紙が10個以上も転がっている。
「なんで、作戦前日の親睦会がハンガーガー屋なんやねん!?」
「さすが、内宮隊長はツッコミが上手いねえ。関西人の昔とった杵柄ってやつかい?」
「常磐はんも茶化さんでほしいわ。で支部長、なんでなんですか?」
仮面を着けたままで食事をするため、周囲の客から奇異の目で見られているウルク・ラーゼ。
彼は唇に挟んでいたポテトをモソモソと口に入れ終わってから、一息ついて口を開いた。
「わからぬかね? 常磐少尉とは1作戦だけのドライな関係だろう? だからこそ、そのドライさに準じてこちらもドライな親睦会というわけなのだよ」
「ドライというよりか~フライですけどね~。もぐもぐ」
「葵はんは毎回思うけど、よう食うなー……」
トレー上に折りたたまれた包み紙をどんどん重ねていく咲良を見て、呆れ顔になる内宮。
10個はあったハンバーガー群が、あっという間に半分以上も消化されている。
「君は変わらないねぇ、咲良。彼女、高校のときからこの食べっぷりでね。よく昼食代で小遣いが枯渇すると嘆いてたんだよ」
「はえ~、お二人さん学生時代から仲よかったんやなぁ」
「同じクラスで同じ部活をしていただけだよ。特に僕らは、そんな関係じゃあないんだよね」
「そうですよ~! 私たちは何ていうか、腐れ縁? まあそんな感じです~」
「ふーーーーーん」
必死に男女関係を否定する二人であったが、内宮の目にはとてもただの腐れ縁には見えなかった。
いうなれば、幼馴染だとかい気の合う相手だとか、少なくとも友達の域を超えた関係のようにしか見えない。
「ところで、僕と小隊の親睦会にしては少し人数が足りないみたいだけど?」
「気にする必要はない。突発的に考えた親睦会だからな。彼ら二人は愛妻弁当と彼女弁当を持参で……なぜ人類の夢を奴らが握っていて、我々はコストパフォーマンス重視のジャンクフードなのだ!!」
「また始まった……気にせんといてや。支部長はご覧の通り変な人なんや」
「まあとにかくですよ。私たちの関係はさておき、作戦のステーションって勝手に廃棄されてるんですよね。誰がそんなことをしたんでしょうかね~?」
「そりゃあモチロン、クレッセント社だよ」
「クレッセント社、なあ……」
クレッセント社というのは、キャリーフレームの製造・販売で大きく成功し今や太陽系全域で活動をしている超巨大企業である。
一口にクレッセント社と言っても、木星の本社の他に地球・火星・金星でそれぞれ独立した支社を持っている。
これまでも様々な事業に出資・協力の姿勢を見せることは多々あったが、子会社として人間用の重火器販売を行うアステロイド・アームズ社を設立するなど、近年は事業の拡大を広げようとしている節がある。
そんな企業が、新テクノロジーの開発に失敗し、研究施設たるステーションを丸ごと放棄している……ということらしい。
「もぐもぐ……私、クレッセント社についてよくわかってないんですが、そんなに悪いことする会社なんですか~?」
「あのなぁ。葵はんが乗っとる〈ジエル〉かて、クレッセント社製のキャリーフレームやで?」
「僕に言わせてもらえば、クレッセント社は善悪というより損得という軸で活動をしているんだよね。事実、武装勢力や傭兵、防衛隊や宇宙海賊なんかに新鋭機を譲渡して、データ取りとプロモーションを同時に展開するなんてことを20年以上も前から繰り返しているわけだし」
「タダで新型を配るなんて、そんなことして利益になるの~?」
「そりゃあもう。最新機を与えられた組織は他よりも戦力が上になるからね。その戦力差を埋めるために、他の勢力はクレッセントの同型機を購入するから儲けでウハウハ。シナリオとしてはだいたいそんな感じだね」
「へ~」
「けどなぁ、せやかてうちもそのバラマキで恩恵得たことがあるさかい、悪う言いたないんよなぁ」
学生時代に、内宮はクレッセント社から与えられた機体で危機を脱したことが少なからずある。
そういう経験をしたものとしては世話になっている企業を貶めるような事はあまり言いたくないのが人情だ。
「内宮少尉。兎にも角にも作戦を成功させなければクーロンは終わりだ。君たちが大きな十字架を背負うハメにならないことを、願っているよ」
「やな言い方ですなぁ、支部長」
意味深だが、深い意味のない仮面の言葉を聞き流し、内宮は残っていたハンバーガーの欠片を口へと放り込んだ。
───Gパートへ続く




