第6話「彗星の煌めき」【Eパート 華世の悲鳴】
【4】
「────というわけで、ドクター。今すぐに宇宙戦用の装備、どうにかならない?」
内宮からの作戦参加への返答を先送りにし、トンボ返った先はドクターの研究室。
コーヒーらしき液体を飲んでいた巫女服姿のドクター・マッドは、華世の発言を聞いて眉一つ動かさずにテーブルに趣味の悪いマグカップを置いた。
華世はドクターの格好に対してツッコミの一つでも入れたかったが、今はそれどころではない。
「もちろんどうにかなる。戦闘用義手の説明もまだだったし、続きをしようか」
「おっ、話がわかるじゃない……って、何そのランドセル? リュック?」
ドクターが机の下から取り出したのは背負う用の紐が付いたグレーの物体。
蛇腹状になっているので背中の動きにフィットしそうな感はするものの、斜め下に左右へと突き出た細長く白い板上のものもあって、その正体は外見からは想像しづらい。
「これは新開発の大容量バッテリーパック、兼スラスターモジュールだ」
「スラスターってことは、宇宙での制動に使う推進装置よね? バッテリーは何のため?」
「それは……」
「そべば、義手の武器稼働のだべの……ひっく、電力確保ようなんですーー……」
「ゆ、結衣!?」
背後からヌーっと現れた泣きべそをかく友人に、華世は背筋を凍らせた。
涙と鼻水でズルズルになった自身の顔を、結衣はドクターから投げ渡されたタオルでぐしゃぐしゃに拭き取る。
「良いなと思った憧れの人に、お相手っぽい人がいた……。でも、私負けない! 恋愛は量より質、時間の長さより密度なの!」
「あのね、結衣。学生時代の恋愛なんて、進級や進学とともに人間関係がリセットされるから、長続きなんてしやしないわよ。ましてや、それが年上相手ならなおさらよ」
「夢がないなー華世ちゃんは! 幼少の頃より秘めたる想い、大人になっても変わらぬ気持ちで成長した自分を愛してもらう……! ああ、女の子のロマン、青春の誉れ!」
「冷静に考えて、仮にあの男が咲良と同年代として26でしょ? 結衣が社会人になる頃には30代後半よ彼」
「どうして華世ちゃんはそう現実的なのよー。で、バッテリーの使いみちだっけ?」
急に話を元の路線に戻した結衣が、ドクターから手渡された戦闘義手を手にとって華世へと見せた。
手首の辺りに存在する2門の銃口は、一見すると元の機関砲と変わらないようにも思える。
しかし結衣は、そこを指差しながらフンすと鼻を鳴らした。
「これ、実はアステロイド・アームズ社のX-M1歩兵携行式ビーム・マシンガンの発振装置に換装してあるの!」
「歩兵携行式? ビーム兵器ってそんなに小型化が進んでたんだ」
「試験開発したものを回してもらったんだ。しかもそれだけじゃない」
得意げ、と言ってもドクターは無表情なままだが、義手の銃口の辺りに指を引っ掛け、おもむろに引き抜いた。
細長い直方体へと分離した物体を握り、ドクターがスイッチを入れる。
すると、銃口だった場所から細長く輝く光の刃が伸び上がった。
「ビーム・セイバー?」
「大正解! これで相手が固くても大丈夫!」
「……ではあるが、バッテリー消費式ゆえに長期戦は不向きだ。斬機刀と併用して節約してくれ」
義足と合わせて、盛りにもられた装備群。
嬉しい気持ちもモチロンあるが、華世の中にはこれらを使いこなせるかどうかの不安もあった。
しかし、やらねば殺られるのが戦いの常。
ぶっつけ本番を強いられるくらいが、丁度いいかと華世は自己完結した。
「さて……他にも防弾プロテクターにガンベルト、肩パッドにすね当てもあるぞ?」
「え……別に、これ以上盛ったら動きに支障がでるから……」
「ねえ博士、使い捨てのエネルギーパックでビーム・キャノン化するのはどうかな!?」
「悪くない。斬機刀も二本、いや四本にし、背部にビーム・スラスターユニットを増設と……!!」
両手にありったけの増設装備を抱えた二人が華世へと迫る。
後ずさりしていた華世だったが、ついに部屋の角へと追い詰められてしまった。
「増設、増設、増設……!!」
「華世ちゃん……変身しようやぁ……!!」
「誰かーっ! 誰かこの狂人たちを止めてーっ!!」
華世の悲鳴は、他に誰もいない研究室の中でこだまし、消えていった。
───Fパートへ続く




