第6話「彗星の煌めき」【Dパート 牢獄と少年】
【3】
「華世か。俺に……何の用かな」
「不満そうね、ウィル」
アーミィ支部地下の薄暗い独房。
鋼鉄の格子越しにうずくまっているウィルへと、華世は声をかけていた。
「俺は、君を助けたいと思ってたけど……君は、俺のことを犯罪者としか見ていなかったんだね」
「……言い訳はしないけれど、あたしもあんたへ恩返しをしたつもりよ」
「仇で返したんじゃないのか?」
「あんた、逃亡兵でしょ。どっかの」
俯いていたウィルの顔が持ち上がり、ぽかんとした表情を見せた。
その顔はすぐに不満そうになり、視線を横へと逸らす。
「……いつから、気づいたんだい?」
「クサイなと思ったのは、最初に握手した時……素人の筋トレじゃつかない筋肉のつき方してた。それから身のこなし、隠してたキャリーフレーム、操縦の腕前。これでズブの素人だったら逆に怖いわよ」
「君には隠し通せやしないか。僕は……」
ウィルが意を決した表情で何かを言おうとしたところで、華世は格子を叩くことでストップを掛けた。
驚くウィルの顔をまっすぐに見つめつつ、華世は彼へと微笑みを送る。
「そこまでよ。言いたくないこと、わからないこと。人間いっぱいあるものね。それを無理やり吐かせてもしょうがないわ。尋問にも黙秘ずーっと続けてたってことは、よっぽどの理由があるんでしょ?」
「でも!」
「あたしだって自分自身に、わからないこと沢山あるもの。知らないはずのないことを知ってたり、初めてなのに身体が覚えてるような錯覚をしたり」
「え……」
それは、華世自身の中でも疑問にとして残っていること。
初めて変身した時、なぜか知っていた敵の情報。
特に激しい訓練をしたわけでもないのに、戦いへ順応する思考。
それに対しての感情は、ありがたさ半分、不気味さ半分。
自分自身への気味の悪さが、そのまま理解不能な相手への優しさに繋がっていた。
「それに魔法少女なんて変なコトしてる身だし。あんたがそのうち、打ち明けてもいいな……って思ったら話しなさい」
「でも……このままじゃ俺」
「安心して。裏で根回しして、監視付きにはなるだろうけど早く外に出せるようにしてあげてるから」
そこまで言ったところで、華世は呆けてるウィルの頬が赤みがかっていることに気づいた。
経験はないけれど知識はある、思春期の男が異性に抱く想い。
面倒くさいことになったら困るなと、心のなかでため息をひとつ。
「君、もしかして俺に……」
「ああ、勘違いしちゃダメよ。あくまでもあたしは、助けてもらった恩義に対して、誠意を通してるだけだから。あたし、色恋沙汰とかサッパリなのよねー」
セリフだけだったら、本当に惚れている相手へのツンデレ言葉にも思えるだろう。
しかし、華世は恥ずかしがりも赤面もせず、ただただ半目で呆れ面。
そんな顔で放たれる言葉に、隠す照れなどあろうはずもない。
「でも────」
「でも?」
「万が一にでも、あたしに好意を持っているんだったら……頑張って惚れさせなさい。そばで見といてやるから、さ」
ウィルに背を向け独房を後にする華世。
かっこよく立ち去りたかったわけではなく、髪留め型の無線機が受信した呼び出しコールに早く返答しないとなという思いが頭にあった。
髪留めに指を当て、不貞腐れながら念波を送る。
『なによ秋姉。今あたし、話をしてたんだけど』
『堪忍な。明日、予定あったりせえへん?』
『別に何もないけど、どうして?』
『後で説明するんやけど、宇宙での作戦に華世の力が必要なんやて。こないだ脚を失って怖いかもしれへんけど、どうやろか?』
───Eパートへ続く




