第6話「彗星の煌めき」【Cパート 突然の危機】
【2】
「てなわけで、今回の作戦の説明を常磐少尉からしてもらうで。……どしたんや咲良曹長?」
「隊長、内宮隊長~っ! どうして、よりによって楓真くんなんですか~~?」
ブリーフィングルームに集まった、内宮をリーダーとするハガル小隊と、作戦を支援してくれる艦艇クルーたち。
咲良は壇上で大型スクリーンの上に立つ男を指差しながら、頬を膨らませて声を張り上げた。
「何でって……1にアーミィ隊員で、2に必要な専門知識持ってて、3に比較的金星に近いコロニー勤務やったから。それ以上に他意は無いで?」
「そんなにフィルター通してるのにど~して、私の高校時代の馴染みが来るんです~!? 偶然にしてはできすぎですよ!」
「ま、痴話喧嘩は仕事終わってからにしてな。ほな、説明よろしく!」
段を降りて咲良の隣に座る内宮。
靴の爪先でペタペタと音を立てていると、背後から小隊の男性陣、トニーとセドリックからヒソヒソ声が聞こえてきた。
「高校時代の馴染みだってさ……」
「青春かァ。若いって良いねェ……」
「そ~いう関係じゃありませんから~~!! あっ」
不意に立ち上がって声を出してしまい、周囲から白い目で見られる咲良。
部屋の端に座っているウルク・ラーゼ支部長に至ってはわざとらしい咳払いをする始末。
咲良は顔を赤くしながら、縮こまって椅子に戻った。
「それじゃあ落ち着いたことだし、説明させてもらおうか。まずはこいつを見てくれ」
楓真が手元のリモコンを押すと、スクリーンに1枚の写真が映し出された。
そこに写るのは真っ暗な宇宙の星々と、その中に浮かぶ真っ白な宇宙ステーション。
「これは……?」
「ブラックホールテクノロジーの研究施設だよ」
「ブラックテクノロジー?」
「ブラックホール・テクノロジー……何でも吸い込む暗黒天体、ブラックホールくらい聞いたことあるだろう?」
ブラックホールというのは、光さえ吸い込む高重力の塊である。
その実態は寿命を終えた恒星────太陽のように光り輝く星の成れの果てではあるのだが。
「次代の技術として目されている分野なんだけど、これがなかなか厄介らしくてね。それでこのステーション、色々あって研究は中止になって廃棄されちゃったらしいんだ」
「ステーションひとつ捨てるなんて贅沢やなあ。んで、このステーションが何なんや?」
「それでこのステーション、解体するのも面倒だからと太陽に捨てようと軌道に乗せたはいいけど……なんでか、中の動力炉が暴走し始めちゃったみたいでね。このままだと……」
スクリーンの画像が切り替わり、金星宙域の簡易星図が表示される。
ステーションを表す記号から矢印が伸び、丸の中に9と書かれた記号の近くで弾けるアニメーションへと切り替わった。
「このコロニーの近くで爆発?」
「そういうこと。これだけの質量が弾け飛べば破片の大きさは小さく見積もっても十数メートル……時速は考えもつかない。とにかく、欠片でも当たればこのコロニーは、めでたく宇宙ゴミの仲間入りってわけさ」
「そんなに大変なら、今すぐにでもアーミィの全軍で攻撃でもすれば」
「さっき言っただろう、ブラックホール・テクノロジーの研究施設って。外から砲撃してふっとばして、中にブラックホールの残滓でも残されていたら最悪の場合ブラックホールが発生。そうなったらコロニーどころか地球……いや、太陽系ごとブラックホールに吸い込まれて人類滅亡だよ」
ブリーフィングルームがしんと静まり返ったが、無理もない。
突然、コロニーの危機に加えて地球人類の存亡の危機である。
少し前まで、ツクモロズがどうので細かい小競り合いをやっていたのがウソのようだ。
「さしずめ、このステーションは人類を滅亡に導く悪魔の彗星ってところかな」
「洒落たこと言うてる場合か。そんで、どないするんや?」
「そこでステーション動力炉の制御知識を持った僕の登場さ。宇宙戦をもって速やかにステーションに乗り込み動力炉を停止。重力探知機でブラックホールの元があったら、それを回収して脱出するだけの簡単な任務に早変わりって寸法だ」
「ソコまで簡単に行きますかねェ」
「まあ、侵入者撃退用の機械人形でもあったら厄介度は跳ね上がるけど……ここには護衛に最適な人間兵器がいるんだろう? とびっきりの、マジカル・ガールがさ」
「マジカル・ガールって、もしかして……」
───Dパートへ続く




