第6話「彗星の煌めき」【Aパート 新たな手足】
「ふわぁ~っ」
ベッドから起き上がり、うんと伸びをする華世。
無人島から帰ってきて数日が経ったが、やはり快適な寝具に包まれての就寝は気持ちがいい。
布団をめくりあげ、金属光沢を放つ義足を床につけ、立ち上がる。
「おはようございます、華世お嬢様……うわーん!」
華世の起床を感知したのか、部屋に入ってきたミイナが床に手を付けて嘆き出す。
遭難から帰ってからというもの、毎日がこの調子である。
「いい加減に慣れなさいよ、ミイナ」
「でもっ、でも……っ! お嬢様の美しい生脚がひとつ失われてしまったんですよ! これを嘆かずして何を嘆けと!!」
「今日やっと人工皮膚を貼りに行くんだから、ちょっとの辛抱よ」
「人工皮膚じゃダメなんですよ! 天然物じゃないと……! ああぁぁぁ……」
嘆き悲しむミイナを差し置いて華世は寝間着を脱ぎ、ハンガーにかけていた白いワンピースに袖を通す。
脱いだ衣服をミイナに向かって投げつけると、彼女はピタリと声を止めて飛びつき顔を擦り付け始めた。
もしも彼女に犬猫のような尻尾が生えていたら、元気よく振られまくっていることだろう。
「それじゃあ、ちょっと支部まで行ってくるから。留守番よろしくね」
「はい、いってらっしゃいませ! スゥーッ……ぷはぁっ!!」
吸引音を背中越しに聞きながら、華世は玄関から外へと飛び出した。
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鉄腕魔法少女マジ・カヨ
第6話「彗星の煌めき」
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【1】
液体に浸かった臓器や人体模型に見つめられる不気味な研究室。
アーミィ支部の地下に位置するドクター・マッドの仕事場の椅子に、華世は結衣と共に腰掛ける。
「ドクター、来たわよー」
「ああわかった、今行く」
カーテンの奥からゆっくりと現れるドクター・マッド。
その手には、華世が着けているものとは別の義手義足が抱えられていた。
それはさておき、ドクターが身につけている服装に華世は目を細くした。
「……なんで学生服を着てるの? しかもあたしたちが通う学校の」
「昨日、アー君から届いたんだ。さっきまで自撮りを送っていたのだが」
「あのスケベジジイ……」
「それよりもだ」
ドクターは持ってきた2本の義体を、静かに机の上に置いた。
それを見た結衣が、身を乗り出して目を輝かせる。
「あっ、円佳さん例の物ができたんですね!」
「結衣、例の物って?」
「まあ、喉でも潤しながら話そうではないか。……飲み物は水しか無いが良いかな?」
「お気遣いなく」
いったん場を離れるマッドの背中を見送ってから、華世は机の上の義手義足に目を向ける。
先日の無人島遭難の際に、華世は左脚を失い右腕の義手も大破に近い損傷を受けた。
そのため帰ってすぐに義足を用意してもらい、義手も予備のものに付け替えている。
けれども目の前にある義体は、どちらも華世が今つけているものよりは少しばかりゴツい作りをしていた。
顔をしかめる華世の前で、ドクロ模様の不気味なマグカップがコトンと音を立てる。
見上げると、ドクター・マッドが無表情なまま口端だけを少しだけ上げていた。
「ストレージ・システムについては覚えているか?」
「魔法少女に変身した時、前に身に着けていた武器とかが呼び出される仕組みよね?」
「それを応用すれば戦闘時に、より戦闘に特化した義体へ換装ができると思ってな……用意したんだ。まず、これが義足だ」
指し棒のような物を握ったドクターが、机の上の義足を指し示す。
そこは靴に当たる部分であるが、足の裏に長方形の穴が空いており、爪先と踵は穴とは別パーツとして別れているようだ。
「まず、義足のふくらはぎ部分の内部に2本のヒートナイフが仕込んでいる」
「ヒートナイフって、熱を与えることで硬い物質も溶断する事ができるナイフのことよね?」
「ああ。ナイフは義足の排熱を利用して加熱され、任意に飛び出させることが可能だ。蹴りの要領で勢いをつければ、射出することもできるだろう」
「へぇ……!」
華世はその説明を聞いて胸が熱くなった。
ヒートナイフは本来、キャリーフレーム用の武装の一つである。
とはいえ構造は特殊金属で作られた刃を熱するだけなので、人間大サイズになってもその威力は変わらない。
そういった火力を、手を使わずに発揮することができるのは戦略の幅が大きく広がることに等しい。
「そして、移動の補助になるように接地面には小型ローラーを仕込んである」
「ってことは、ローラーダッシュできるようになるのね」
「駆動については神経接続がうまくやってくれる。連動して動くローラーを右足の靴にも装着するから、あとで渡してくれ」
「はーい」
「そして、この脛を覆う厚めの装甲部分だが……」
「ほう? こいつに仕込まれているのはACFM-8型マイクロミサイルじゃないか。対キャリーフレーム用の人対機ミサイルとは渋いチョイスだねぇ!」
背後から聞こえた聞き慣れない男性の声に、この場にいた三人が一斉に声のした方へと顔を向ける。
そこに立っていたのは、アーミィの制服たるスーツを着崩して身につけた、一人の青年だった。
───Bパートへ続く




