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第5話「二度目の喪失」【Hパート 繋ぎ止める鎖】

 【8】


 薄暗い研究室のような一角。

 液体に満たされたカプセルに沈んでいるのは、胸に風穴の空いた女の像。

 大きく空いた穴は徐々に修復され、その空洞の中心には八面体のコアが脈動していた。

 目覚めを待つ仲間を見ていた老紳士の背後に、影から伸びるようにして少年が姿を表す。


「レス、せめて入り口から入ってくれんかの」

「嫌だね。それはそうとバトウ、例の化石からできたツクモ獣……やられちゃったってよ」


 偵察から戻ってきたレスは、悪びれなく両腕を広げる。


「鉤爪の女が死にかけてたと聞いていたが、杞憂じゃったの」

「でもバトウ爺さん。あの娘、足がもげちゃったみたいだよ? まだまだ働いてもらわなきゃいけないってのに」

「腕を機械にするような女じゃ。足も機械にするじゃろうて。それよりも……まもなく、お前さんが連れてきた、この者が蘇るぞい」

「へぇ……」


 興味深そうに、石像が沈むカプセルを覗き込むレス。

 少年の目線に気づいたのか、中の石像の顔がわずかに動く。


「これで少しは楽になると良いけどね。こいつの名前、どうするんだい?」

「それならもう、ザナミ様が決定しておったぞよ。たしか────」



 ※ ※ ※



「フェイク、か。良い名だと思いますよ、ザナミ様」

「褒め言葉として受け取っておくぞ、アッシュ。偽りの母を名乗り、偽りの人生を過ごしたツクモ獣。かの者にこれ以上無い名だと自負している。ふふ……」


 壇上の椅子に腰掛けた、ザナミと呼ばれた女はほくそ笑む。

 一方でアッシュと呼ばれた男は、全身を覆うローブからはみ出た口元を、真一文字に結んだ。


「……どうした、アッシュ?」

「お言葉ですがザナミ様、私としてはそろそろ調査を開始した方が良いと思うんですがね。今回は過去の世代に比べ、イレギュラーな要素が多すぎます。それに……二人目のこともある」

「ほう、妙案が有るのか?」

「ええ。ちょいど良い機会がありますから、それを利用させていただこうかと思います」

「よかろう。ではその任についてはお前に一任する。抜かるなよ」

「仰せのままに」


 一礼し、音もなく姿を消すアッシュ。

 彼が居なくなったのを確認してから、ザナミは懐から金時計を取り出し、その蓋を開く。

 文字盤の代わりに収められている男が写った写真を見ながら、ザナミは眉を吊り上げた。


「いつか、貴方がなし得なかった悲願。それを成して見せましょう。……魔法少女の打倒という悲願を」




 【9】


 砂浜に降り立った、一隻の宇宙船。

 搭乗口から飛び降りた内宮が、涙を目尻に湛えながら華世へと抱きついた。


「華世ーーーっ! こんな可愛そうな姿なって……でも、生きててホンマ良かったわぁぁ!」

「ちょっと……秋姉あきねえ。痛いわよ……」

「せやかて……一週間やで。一週間も離れ離れやったんや。こっちも大変やったんやで!!」


 抱きしめたまま、内宮はこの一週間におこった出来事というのを話し始めた。


 華世が行方不明になったと聞いたあと、まず行われたのは戦闘地点の周辺宙域の捜索活動だったという。

 10番コロニー「ネイチャー」の周辺には様々な宇宙船が通る宇宙交路が制定されている。

 遭難した華世がどこかの船舶に拾われていないか、人手を使って聞いて回っていたらしい。


「けれど、最初の5日間くらいは何の情報も得られませんでしたのよ」

「リン、あなた……何でアーミィに同行してるのよ?」

「わ、わたくしは……あなたが居なくなったら張り合う相手が居なくなるから聞き込みの手伝いをしていただけですわ!」

「ふーん……」


「まあ、そんなわけで苦戦してたんやけど。つい昨日、このコロニーの外壁に人間大サイズの穴が空いているっちゅう情報を得たんや」

「あたしがふっ飛ばされた時、めちゃくちゃなスピードが出てたと思ったけど……まさか体当たりで外壁を貫いてたなんてね。あたしの足が千切れたのも、衝突の衝撃かしら……」

「穴自体は漏れ出た海水が凍って塞がったんやけど……せやから大事おおごとにもならんで見つけられへんかったわけや」


 水は真空に出た時に常温であっても沸騰し、発生した気化熱に温度を奪われやがて凍りつくという。

 それと同じことがコロニーの外壁に空いた穴で起こり、自動的に穴が塞がるのだ。

 この自然環境保護コロニーでは内側の面全てに海水が張り巡らされているため、こういった現象が発生する。


「んで、ようやく許可取れて中に入ったら、戦闘の炎が見えて見つけられたっちゅうわけなんや」


「本当に、華世ちゃんが無事でよかった~!」

「咲良も、心配かけてごめんなさいね」

「葵はんなんて、華世が行方不明なったんは自分のせいやって暗なっとったからな」

「心配しすぎて、一回の食事量が一人前になっちゃったくらいなの~」

「……全然、深刻に思えないんだけど」


「それはそうと、あなた。あそこに立っている殿方とキャリーフレームは何ですの?」


 リンが指差したのは、少し離れた場所で寂しそうな表情を見せるウィルの姿。

 華世は内宮からある物(・・・)を拝借してから、松葉杖を使って彼の元へと歩み寄った。


「良かったね華世。迎えが来たみたいで……」

「ありがとう、ウィル。アンタが居なかったらあたし……」

「こうやって君が元の生活に戻れる手助けをしただけだよ。困っている人を助けるのに、理由はいらないからね」

「どこまでもお人好しね。ねえ、両手を前に出して? 渡したいものがあるの」

「え、こうかい?」


 言われたとおりに両手を前に突き出し、手を広げて皿のようにするウィル。

 華世はウィルへと満面の笑顔を贈りながら────彼の手に手錠をかけた。


「ええっ!?」

「ここからは、コロニー・アーミィの一員としての仕事。自然環境保護コロニーへの不法侵入、及び不法滞在。保護区における生物の密猟。無許可で戦闘キャリーフレームの所持および無免許操縦。その他もろもろの罪状で、あなたを逮捕するわ」

「ちょっと待ってよ、華世! 僕は、君のために……!」

「それは、それ。これは、これ! とにかく、おとなしくしょっ引かれてもらうわよ!」

「そ、そんなぁぁぁぁぁっ!!」


 悲痛な叫び声を上げながら、内宮が連れてきたアーミィ隊員に連行されるウィル。

 その光景を、咲良たちはポカンとした表情で見つめ続けていた。


「さあ、みんな。帰りましょ!」

「華世……あんさん、恩人になんちゅう仕打ちを」

「助けてもらったのは事実だけど仕事柄、見過ごせはしないでしょ。それに……」

「それに?」

「こうした方が、多分……あいつのためだから」


 憂いを秘めた顔でうつむく華世。

 その表情の真意を知るものは、本人以外にはこの場に居なかった。



──────────────────────────────────────


登場戦士・マシン紹介No.5

【エルフィスニルファ】

全高:8.3メートル

重量:4.1トン


 ジエルを世に送り出したクレッセント社が、新世代の精鋭機として試験開発したキャリーフレーム。

 エルフィスとは、30年前に起こった星間戦争において、英雄的な活躍をしたキャリーフレームの名である。

 以降、クレッセント社が最新鋭機を建造する際、その活躍にあやかってエルフィスという名が与えられている。


 名前の由来は開発コード名である「ニルヴァーナ・アルファ」を略したもので、これまで他社に遅れを取っていた変形機構を、クレッセント社が盛り込んだエルフィスシリーズの試作型である。

 一機で戦場を支配するというコンセプトのもと、戦闘機形態への変形機能を持っている。

 変形時に飛行が可能なように、全体的に装甲は薄くされ軽量化が行われているものの、装甲材質に新素材のドルフィニウムγ(ガンマ)を採用していることで耐久性の低下を最小限にとどめている。



【プテラード】

全高:7.7メートル

重量:不明


 スペースコロニー「オータム」の博物館に展示されていた翼竜の化石から生まれたツクモ獣。

 頭部と翼は翼竜のそれだが、翼とは別に鋭い爪を持った腕を持ち、恐竜というよりは竜人と言える外見をしている。

 元が動物並みの知性しか無い恐竜由来のものだからか、人語を操るほどの知能はもっていない。

 けれどもそれ故か魔力を与えるだけで、石などの材料から同種の仲間を作り出すことができる。

 キャリーフレームに通用するほどの熱線を口から吐くことができるが、鋭い爪はさすがにキャリーフレームの装甲を貫くことはできない。

 翼竜にしては大型に思えるが、これは二足歩行の体勢をしているため背や足が長くなっていることから全高が増しているためである。


 【次回予告】


 新たなる戦いの舞台は、放棄された宇宙ステーション。

 その中に眠るのは、人類滅亡の引き金になりかねない物騒なシロモノだった。

 存亡の危機を前にした戦いで、華世の手から初めての魔法が炸裂する。


 次回、鉄腕魔法少女マジ・カヨ 第6話「彗星のきらめき」


 ────その光は、宇宙を切り裂いた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 華世を心配した内宮さんが直々にキャリフレームに乗って迎えに来るの胸熱でした…! ウィル君に手錠は予想外で、ウェル君と一緒に驚いちゃいました…。 今後登場するのかなぁ…ウィル君…とても楽しみ…
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