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第5話「二度目の喪失」【Fパート 別れの日】

 【7】


「どうかな、華世?」

「……うん、ちゃんと動くわね」


 身体を洗った翌日。

 華世は修理が終わったという義手を装着し、腕を動かしてみていた。

 修理が終わったと言っても変形した装甲は剥がされ、内部の駆動部分が丸見えの状態になっている。

 けれども関節の曲げ伸ばしや、指を動かすことに関しては動きこそ鈍いながらも可能となっていた。

 試しに寝床に義手の右手を置き、体重をかけてみる。

 ギシギシと金属の擦れ合う音はしたものの、負荷に対する耐久性も問題なしといったところだ。


「ありがとう。それにしても、よく修理できたわね」

「電装系は無事だったから、可動部分の部品交換で済んだんだ。代わりになる部品を見つけるのに手間取ったくらいだね。でも……」

「なに?」

「この義手、鉤爪にワイヤー、弾丸の発射機構までついていたんだ。とても、女の子が身につけるものとは思えない。君は……何と戦っていたんだい?」

「そうね……」


 ここまで世話になって、何も教えないというのも無理があるかもしれない。

 意を決して、身の上を打ち明けよう。


「あたしは、実は……」


 華世の言葉は、突然に降り注いだ熱線が起こした爆発にかき消された。

 小屋近くに着弾した光線は焚き火を吹き飛ばし、華世たちに凄まじい爆風を浴びせる。


「うわあっ!? な、何だ!?」

「あれは……!」


 燃え盛る木々の奥に見える、巨大な影。

 片腕の手首から先を失い、翼膜で覆われた巨大な翼で飛ぶ人型の怪物。

 華世をこの場所に漂流する原因を作った、忌まわしき存在がそこにいた。


「ツクモロズ……!」


 思えばこの一週間、敵が何もしてこなかったことが不思議だった。

 華世の存在を見失っていたのか、あるいはコロニー・アーミィに討たれたかと楽観していたのかもしれない。

 目の前に浮かぶ巨体を見るに、少なくとも後者ではなさそうだった。


「華世、ごめん!」

「えっ!? ちょっとウィル!?」


 華世をお姫様抱っこの要領で抱え、森の中を目指し走り出すウィル。

 背後から追ってくるツクモロズが奇声を発しながら迫りながらも、ウィルの脚は一つの方向へと迷いなく走り続けていた。


「どうするのよ! あいつを撃退するにしても、戦う方法が無いでしょ!?」

「心配はいらないよ、華世。君は……僕が守ってみせる!」


 頼りがいの有る言葉とともに、足を止めるウィル。

 華世はそこに巨大が何かがあることに気がついた。

 それは、開きっぱなしのコックピット部から無数のケーブルを外へと伸ばしている、1機のキャリーフレーム。

 頭部のデザインを見るに、高性能機として設計されるという、エルフィスタイプのようだった。


 そして伸びているケーブルには見覚えがあった。

 小屋へと電気を供給している、太く黒い電線。

 無人島暮らしにしては電力を贅沢に使えるなと思っていたが、キャリーフレームの動力から引っ張っていたようだ。


 ウィルは木の葉が積もったコックピットへと乗り込み、パイロットシート横の箱へと華世を降ろす。

 そのまま少年は外へと伸びるケーブルを強引に引き抜き、操縦レバーを力強く握りしめた。


「ウィル、あんた……」

「力を貸してくれ、エルフィス……ニルファ!」


 ガクンと機体が揺れ、開けたままのハッチ越しに景色が下へと下がっていく。

 老朽化か整備不良か、飛び上がった反動でコックピットハッチが音を立てて外れ落ち、風が狭い空間を激しく流れ始める。

 本来であれば外の景色を移すであろうモニターも、ほとんどが真っ黒のままで写っていても乱れた砂嵐。

 けれどもウィルは前のめりに外の景色を見ながら、ペダルを器用に操作していた。


 大きい揺れとともに景色が回転、正面に翼竜型ツクモロズを捉える。

 その敵が口を開き、口内に光を集め始めた。


「来るわよ、ウィル!」

「変形する! しっかり捕まってて!」

「へんけいぃっ!?」


 華世が言葉の意味を理解する前に、ウィルが手際よくコンソールを操作しペダルを踏みしめた。

 ひとつ大きな振動とともに、コックピットハッチの先に機首のような突起が現れる。

 さきほどの言い草から察するに、このキャリーフレーム〈エルフィスニルファ〉には戦闘機形態への変形機構でも有るのだろうか。

 華世はそう思いながら左手と、動くようになった義手の右手でパイロットシートを掴み振り落とされないように踏ん張っていた。


 そのまま加速して再び変形、正面に見えたツクモロズへと、〈エルフィスニルファ〉の手に持ったライフルから放たれたであろうビームが飛んでいく。

 コックピットむき出しでこのような無茶をしてもそこまで激しい振動が起こらないのは、キャリーフレームに搭載されているという慣性制御システムの為せる技か。


「当たれーッ!!」


 少年の叫びとともに放たれた渾身のビームが、正面の怪物を撃ち貫いた。

 胴体に大きな穴を開ける形で被弾したツクモロズ。

 その巨体は空中で分解するように細かく散って、海面で白い水しぶきとなった。



    ───Gパートへ続く

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― 新着の感想 ―
[良い点] ウィル君めっちゃ好きです…。 心配しつつも胸を揉むの本能に忠実感あって好き…。 でも、誠意もちゃんと見せていくの良いですね…。 しかもしかも、キャリーフレームまで操縦できるなんて、かっこよ…
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