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第5話「二度目の喪失」【Eパート 華世のお礼】

【6】


「ねえ、ウィル。あの川の水って……きれいなのかしら」

「うん。地下の浄水設備を通って流れる水のはずだから……飲めるくらい綺麗なはずだよ」

「一週間も身体あらってないから、汗でベタついて気持ちが悪いの。水浴びさせてくれないかしら」


 腋で松葉杖を挟んだまま、左手でワイシャツのボタンを外す華世。

 ウィルが慌てて「そ、そこで待ってるよ!」とその場を離れようとする。


「行っちゃダメ」

「え……だって」

「あたし一人じゃ、身体を洗えないから……手伝って」

「でも」

「いいから!」


 渋々と、華世の方を見ないように視線をそむけながらウィルが華世へと近づく。

 彼の支えを受けながらワイシャツとパンツを脱ぎ捨て、一糸まとわぬ姿で浅い川の中へ座り込む。


 やさしく、ゆっくりとウィルは華世の背中に水をかけ、手で肌を撫でていく。

 背中を一通り流し終わったところで、ウィルの手が止まった。


「ねえ、華世。やっぱ……ダメだよ」

「……何が?」

「もし……僕が我慢できなくなって、君を……その、襲ったりしたらどうするんだい?」

「別に、かまわないわ」

「えっ……?」


 背後で驚いて固まるウィル。

 華世はうつむき、水面に薄っすらと映り込む自分の顔を見ながら、ゆっくりと口を開いた。


「あなたは、あたしのために頑張ってくれてる。一人だったら絶対、あたしは死んでた。けれども、腕も足も一本ずつしかないあたしは、何も返してあげられない」

「そんなこと無いよ。君は……」

「役たたずのあたしに、できることなんて……身体を差し出すくらいしか、ないから」

「俺は、そんなことのために君を助けたわけじゃないよ!」


 静かな水音の中に、ウィルの叫び声がこだました。

 風が草木を揺らす音が、響いた声に重なるようにこの場を包み込む。

 ウィルの細くも筋肉質な腕が、華世を背後から優しく抱きしめた。


「俺は……困っている君を助けたかったから、助けただけなんだ。君に、幸せになってほしいから……。だから、そんな自分の身体を無下むげにするようなことは……言わないで欲しい」

「ウィル……」


 感動的なセリフとともに、華世の胸にやさしく食い込む細い感触。

 そう言いながらもウィルの手は、華世の年齢の割に大きめの乳房を、ゆっくりと揉みしだいていた。


「そう言いながら、この手は何なのかしら……?」

「あ、いや……ごめん、つい。柔らかいものがそこにあったから……」

「……はぁ。まあ、いいわよ。さっき身体差し出すって言った手前、これであんたが喜ぶんだったら……好きなだけ揉んでいきなさい」

「え……いいのかい?」

「あたしにできることなんて、それくらいしか無いからね」


 華世は静かに、なすがままとなった。

 けれどもウィルは華世の胸こそ触ったものの、ちゃんと前半身を洗ってくれたし、下半身には一切触ろうとしなかった。

 それは、彼なりの誠意なのかもしれない。

 背中を支えてもらいつつ自分で下半身をさすりながら、華世はウィルの不器用な誠意に心が暖かくなった。


 一通り身体を洗い終わり、清潔感が全身を包み込む。

 ウィルの手を借りながら、またワイシャツとパンツを身に着けた華世は、そのまま小屋へと帰り着いた。

 その日は久しぶりに長い距離を歩いた疲れもあり、ずっと横になっていた。

 ただ、いつもよりも頻繁に用を足しに行くウィルの姿に、寝転がりながらクスりと笑っていた。



    ───Fパートへ続く

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