第4話「パーティ・ブレイク」【Iパート 感謝の快楽】
【11】
「うう~……まだ手がジンジンしますわ~……」
「そりゃあ、慣れない手であんな大きい散弾銃をぶっぱなせばそうなるわよ」
コロニー・アーミィの隊員たちが戦闘の後片付けをしている中。
華世とリンは屋上のベンチに座って夜空を眺めていた。
戦いが終わり、1時間後。
結果的にパーティは中止となり、参加していたクラスメイトたちは解散となった。
この結果に一番悲しんでいたのは咲良であったが、残ったパーティ料理が持ち帰り可と聞いた瞬間に笑顔になったのは言うまでもない。
「でも、あんた無茶よね。対空砲があんなシステムだったから助かったとはいえ……下手したら死んでたわよ」
「けれども、わたくし……居ても立っても居られなかったのです」
「どうして?」
「どうしてって……」
華世に問いかけられ、数秒うーんとうなりながら考え込んだリン。
「それは、クラスメイトがあなたのことを正義の味方って言ったからですわ!」
「……はぁ?」
「あなたのような野蛮な娘が正義の味方で、その前でわたくしがただ逃げているだけだと……権力者として、いけないと思ったのです」
「ノブレス・オブリージュってやつ?」
それは、高貴な者には地位に見合った義務が生じる……という意味の言葉。
古い貴族社会では、豊かな暮らしをするのと引き換えに高貴な者たちは率先して民を守るために戦ったという。
この時代に、血筋だけの少女が持つには殊勝すぎる考え方だ。
「あなたは大元帥の娘として、人々を守るために戦っている。それが、わたくしには……羨ましかったのですわ」
「別に、あたしは……そんな生まれとか血筋とか考えて、戦ってるんじゃないわよ」
「え?」
「それにね……」
華世は立ち上がり、うーんと背伸びをした。
そして振り返り、じっとリンの顔を見下ろしながら、顔をしかめる。
「あたしは、自分を正義の味方だと……一度も思ったことはないのよね」
「では、なんだと言うのですか?」
「あたしは、あたしと人類に歯向かう、全ての存在の……敵よ」
「敵の……敵?」
イマイチ理解していないのか、首をかしげる黒髪のお嬢様。
華世は金髪の頭をポリポリと掻きながら、説明のための言葉を選ぶ。
「正義なんて、立場とか情勢、世論で変わる不安定なものよ。全人類に等しく絶対な正義なんて、存在しないわ」
「……そうですわね」
「だから、あたしはあくまでも自分中心。自分と自分の身の回りにとっての悪にしか、興味はないし相手にもしない」
「それが、正義の味方ではなく……敵の敵、だと?」
「そういうこと。あたしって、自分勝手なサイテー女でしょ?」
「でも────」
そう言って突然立ち上がったリンに、華世は驚いて一歩後ずさる。
真っ直ぐな茶色の瞳に見つめられ、思わず言葉を失ってしまった。
「あなたの勝手のおかげで、わたくしたちは助かりました。だから、わたくしたちにとって、あなたは正義の味方ですわ!」
「……勝手に思っておきなさい」
そう言いつつ、その場から立ち去る華世。
けれども、リンの言葉が決して嫌だったわけではなかった。
救った人から感謝の言葉をもらう。
そのことについては、華世はわずかではあるが喜びが感じられていた。
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登場戦士・マシン紹介No.4
【ジエル】
全高:8.0メートル
重量:7.8トン
クレッセント社が開発した、初の第6世代型キャリーフレーム。
ジエルという名称は天使を表す「エン“ジェル”」と「次のエルフィス→次エル」をかけたもの。
10年前に先行試作量産型が地球のコロニー・アーミィにて大元帥直轄部隊に配備されていたが、その後幾度も改良され地球限定では有るがアーミィの制式採用量産機となった。
先行試作量産型と制式採用型の大きな違いはパイロットを補佐するAIの有無であり、これが第5世代と第6世代の違いそのものでもある。
武装としては、高機動のスラスター兼、高火力のビーム砲となる背部のビーム・ブラスターが大きな特徴。
その他の装備は基本的な携行装備となるが、操縦者の好みに合わせてカスタマイズすることができる。
【ランパート】
全高:8.3メートル
重量:9.4トン
新興の機動兵器生産会社、九龍超機で開発されたキャリーフレーム。
拠点防衛用として設計された機体であり、黄色地に黒のアクセントという特徴的なカラーリングをした分厚く頑強な装甲で全身を覆っている。
この装甲の材質は表面こそドルフィニウム合金ではあるが、内側には金星の地表から採取された玄武岩が用いられている。
これは頑丈さとコストダウンを両立するためのもので、そもそも並大抵の装甲ではビーム砲撃を防ぐことができず、ハナから対応を諦めているため可能な設計である。
その代わりに両腕には強力な耐ビーム・コーティングが施されたシールドが備え付けられており、ビーム兵器による攻撃はこの盾で受け止める形式になっている。
ツクモロズによってツクモ獣にされたが、この盾の運用法を機体自体が知らなかったため戦闘で活用されることはなかった。
【プレート】
全高:1.9メートル
重量:不明
リン・クーロンの屋敷にインテリアとして置かれていたプレートメイルから生まれたツクモ獣。
元は中世の時代に戦いのために生み出された鎧であったが、ちょうど戦いの主役が銃に置き換わる転換期だったため、手に持つ槍ともども一度も戦いに用いられたことがなかった。
けれども宿っていた魂は武人のそれであり、その硬い信念を受けて身体を構成する金属が異常なまでの耐久力を持った。
鎧のフルセットを一つの身体として動いていたため、激しい一撃を受けると直接繋がれていない部分が取れてしまう。
そのため、鎧の装甲には傷一つつけられなかったが、飛ばされた頭部の中にあるコアを直接攻撃され敗北した。
【次回予告】
迂闊な行動に伴う敗北が、華世を新たな試練へと導く。
戦いの果てに流れ着いたのは、ひとつの無人島。
その試練は、少女にとって大きな喪失から始まった。
次回、鉄腕魔法少女マジ・カヨ 第5話「二度目の喪失」
────折れなければ、失うほどに、人は強くなる。




