第4話「パーティ・ブレイク」【Fパート 降りてくる力】
【7】
「ハァイ、咲良」
「ふぁ、華世ふぁんふぁ~」
見覚えのあるスーツ姿が皿に肉類を山にしている所を見つけ、声をかける華世。
案の定、口からフライドチキンの骨を飛び出させた咲良が振り向き、慌てた様子で皿に骨を吐き出す。
「むぐむぐっ……華世ちゃん、パーティ楽しんでる~? あ、ドレスかわいい~」
「ありがと。まあ仕事の中だけどもリラックスして、疲れを癒やしなさい」
「そうしてま~す」
ニコニコと輝くような笑顔で唐揚げを頬張る咲良。
この場に並べられている料理は、お嬢様主催のパーティだけあってどれも絶品である。
そんな高級料理の数々が食い放題となれば、食い意地が凄まじい咲良にとっては天国そのものだろう。
華世が彼女の食いっぷりに乾いた笑いを返していると、カタカタとテーブルから音が聞こえてきた。
「何の音かな~?」
「なにって……揺れてる?」
華世がそう言った瞬間に、ドォンという轟音が鳴り響き、窓の外が光った。
爆発音のした方向へと顔を向けると、日暮れの明るさとなった空をバックに、時計塔から黒煙が昇る。
音と光にクラスメイトがざわついている中、華世はバルコニーへと飛び出し、手すりから身を乗り出した。
時計塔の上に見える人型の影。
そして庭を徘徊する、数機のキャリーフレーム。
華世の後を追うように、ドレス姿のリンが隣から同じように身を乗り出す。
「何事ですの!?」
「見てわからない? 襲撃よ」
「あれは……屋敷の防衛用のキャリーフレームですわ!? ですが、一体何者が……」
「どうせツクモロズでしょ……。こうなりゃ、あたしの出番よね」
手すりによじ登り、その上に両足で立つ華世。
庭までの高さは、およそ5メートルほど。
飛び降りようとする華世を、リンがスカートの裾を掴むことで止めようとする。
「あなた、危ないですわよ!」
「うっさいわねえオジョー様。あたしとアーミィで片付けてくるから、あんたは部屋の隅で震えてなさい」
そう言って、華世はバルコニーから飛び降りた。
「ドリーム・チェェェェンジッ!」
空中で光に包まれる華世。
そのまま落下し、着地とともに変身完了。
鋼鉄の右腕を二の腕から一回転させて唸らせながら、華世は時計塔のてっぺんを睨みつけた。
「さあて、殺戮ショーの始まりよッ!」
※ ※ ※
「やっとステーキが焼き上がったのにぃぃぃ!!」
「ほれ行くで! 駆け足、駆け足や!」
玄関の大階段を内宮と共に駆け下りる咲良。
ようやく狙っていたメインディッシュが来るというところで騒ぎが始まったのに、食いそこねてしまったのだ。
大扉を乱暴に蹴り開け、外へと飛び出す。
華世が降り立ったであろう方向へと、キャリーフレーム〈ランパート〉がノシノシと歩いていく姿が見える。
「CFFS、降下位置設定や!」
「落着まで、あと15秒!」
「あなた達は、コロニー・アーミィですか!?」
屋敷の中から慌てて出てきた執事風の男が、冷や汗をダラダラと垂らしながら咲良たちへと詰めかける。
彼が慌てている理由は、おそらくキャリーフレームが無人で暴走しているコトだろう。
「私どもも管理していたのですが、アレらがどうして動いているかは……」
「別にワケなんて後から調べたるから、あんたらは早うパーティ参加者を避難させぇ! うちらキャリーフレーム降ろすさかい、ちょっち下がっとれや!」
「キャリーフレームを降ろす!? 一体どこから……!?」
「ウエですよ、上」
咲良が指差した方向。
屋敷の真上に通るのは、スペース・コロニーの中央を芯の様に通る一本のシリンダー・ユニット。
そこから黒い影がふたつ、視界の中で徐々に大きくなっていく。
直後、ズシィン……と、地鳴りとともに膝をついて着地する2機のキャリーフレーム。
1機は咲良の〈ジエル〉、もう1機は内宮の〈ザンドールA〉。
開いた機体のコックピットへと、咲良は急いで飛び込んだ。
《申し訳ありません、咲良。到着予定時刻に0.07秒遅れてしまいました》
「それくらい誤差よ~、EL。それにしても、中央ワイヤーからキャリーフレームを降下するなんて。金星のアーミィは進んでますね~」
「うちも最初はビックラこいたけどな。前準備さえしとったらどこにでも機体を降ろせるんは合理的や」
キャリーフレーム・フォールシステム。通称CFFSはアーダルベルト大元帥が提案した機体運搬システムである。
円筒形をしたコロニー内で、パイロットなしに迅速に目的地へとキャリーフレームを届ける方法は、それまではキャリアートラックを用いた運搬しか存在しなかった。
しかしスペース・コロニーはその形状上、中央から降ろしてしまえばどこへでも最短ルートで射出することができる。
予め出撃が予想される時は、アーミィ基地裏手にある搬入口からシリンダー・ユニット内のリボルバー型射出口へとキャリーフレームを運び入れておくのだ。
「……ね~、隊長」
「なんや咲良」
「この騒動、すぐに終わったら……パーティ、再開されますかね~?」
ELのシステムボイスを聞きつつ手際よく起動プロセスを実行しながら、咲良は内宮に問いかける。
静かに低い声で言ったからか、内宮はすぐに返答した。
「お嬢様のめでたい席や。何も問題なく終わりよったら、でけへんことはないやろ」
《敵キャリーフレーム、当機を視認》
「……それを聞いて、安心しました」
『人間のキャリーフレームを発見シタ』
キャリーフレームの起動を確認したのか、無人の〈ランパート〉がゴーグル状のカメラアイを咲良の方へと向ける。
そしてすぐさま駆け出し、手に持ったビームセイバーを抜き、〈ジエル〉へと振り下ろす。
しかし、その光の刃が降りる先にすでに巨体は無く、〈ランパート〉の背後から〈ジエル〉のビームセイバーがコックピット部を薙ぎ払い、焼き切っていた。
『ギギ……ガァッ……!?』
《ビーム・セイバー命中。敵機活動停止、撃墜を確認。お見事です》
「相手は無人機、動きも素人。しかも華世ちゃんのお守りも不要……であれば」
『オレたちを、戦わせロォ!!』
背後からもう1機、〈ランパート〉が叫び声を上げながら、咲良に向け突撃銃を構える。
しかし、〈ジエル〉の背部スラスターが持ち上がると同時に火を吹き、コックピットのある胴体をビームで撃ち貫いた。
「余裕で楽勝……ですね、隊長!」
───Gパートへ続く




