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第36話「決戦は始まりの地で」【Gパート 決戦の幕引き】

 【7】


「あ……!!」


 攻撃を放つ、白蛇と化したももへと冷凍光線が突き刺さるまさにその瞬間。

 横合いから飛び出した戦闘機、いや戦闘機形態をしたキャリーフレームが庇うようにして光線を機体で受け止めた。


 瞬時に氷つき、墜落するキャリーフレーム。

 同時に、ティルフィングを守っていた強固な魔力障壁が音を立てて四散した。


(あの機体は、フルーラさんの……でも今は!)


 命懸けで彼女が切り開いてくれた活路。

 そのチャンスを無下にしては、彼女に合わせる顔がない。


「結衣先輩! フルーラさんを頼みます!」

『ホノカちゃん、わかったけど……何を!?』

「私は……今の私にできることを! ドリーム………チェェェンジッ!!」


 コックピットの中で変身し、開け放たれたハッチから弾丸のように飛び出すホノカ。

 ティルフィングと対峙したときからずっと感じていた華世の気配。


(今の戦力だと倒すのは困難……だったら華世を直接!)

 

 感覚を頼りに巨大な敵の右胸部めがけ、自身の後方を連続爆破して僅かな時間に目一杯加速していく。


「華世ーーーーっ!!」


 機械篭手(ガントレット)ごと右手を突き出し、正面に高熱のフィールドを発生させる。

 その熱気をまとったまま、ホノカはティルフィングの胴体へと突き刺さり、勢いのままに中へと潜り込んでいく。

 全身を包み込む冷気の中で、正面に感じる華世の気配だけを頼りに氷の壁を砕き溶かし進むホノカ。


「いた……!!」

 

 そしてついに、魔法少女姿のまま眠るように目を閉じた華世の姿を確認した。

 ホノカは機械篭手(ガントレット)じゃない生身の腕で彼女の手を握り、そのまま前へ前へと進み続ける。

 奥に見える外の光。

 ついにティルフィングの背中を突き破り、まばゆい光の中へと飛び込んだ。


「あっ……!?」


 突き抜けた先、そこには無数のツクモロズがホノカへと狙いを定めていた。

 ────待ち伏せ。

 そのことに気づいたときには、ホノカは軌道を変える時間は残っていなかった。

 華世を守るように抱き寄せ、死すらも覚悟をするホノカ。

 ただ、華世だけは守らねばという想いが、彼女を突き動かしていた。


 光線の放たれる音が空を裂く。

 そして無数の氷が砕け散る振動が空気越しに響いた。


 目を開いたホノカの視線に映るのは、咲良の乗る〈エルフィスサルファ〉の機影。

 前方に向けた翼、その先端から伸びる無数のビーム砲が敵を尽く撃ち貫いたのだ。

 そして、そのことを脳が理解する前にホノカと華世の身体は戦闘機型の機体のコックピットへと吸いこまれていた。


「っと……大丈夫かい、ホノカちゃん!」

「ウィル……さん? そうだ、華世……!」


 シートに座るウィルの膝の上で、抱きしめていた華世の無事を確認するホノカ。

 痛みか暑さか苦悶の表情を浮かべる華世の顔を見て一安心して、ホノカはウィルの膝から降りた。


「あ、ウィルさん……フルーラさんが!」

「結衣ちゃんが助け出してくれたって聞いたよ! あとは……あいつだ!」

 

 人型形態へと変形させた〈エルフィスニルファ〉の正面に、こちらへ振り向いたティルフィングの姿が映る。

 胸部にホノカが貫いた穴が空きながらも、未だあの怪獣にはこちらへ殺意を向ける余裕が残っているようだ。


「あいつは……あたしがやる」


 そう発言したのは、いつの間にか目を覚ました華世。

 青白い顔に苦痛を浮かび上がらせながら、彼女は立ち上がった。

  

「華世!? 無茶だ、助け出されたばかりで……!」

「あたしがやらなきゃ、いけないのよ……! あいつはあたしの中から出てきた魂、そして……あたしの罪そのものだから。ホノカ、手を出して……!」


 ウィルの隣からコンソールを操作し、コックピットを開放する華世。

 彼女の言っていることが理解できないまま、それでもホノカは華世を信じて彼女の手を握った。


「ホノカ……魔力、借りるわよ。ウィル、味方に退避指示を……!」

「わ、わかった!」

 

「でも華世、あなたは魔法が……!」

「あたしだって、ただ寝てたわけじゃない。夢の世界で、妖精の世界で……交わした約束と、得た力がある!」


 華世の手を通じて、気力……あるいは元気のようなものが吸い取られる感覚が全身に流れ込む。

 そしてホノカの手を離し、ハッチから身を乗り出し生身の左腕を外へと向けた華世は、力いっぱい叫んだ。


「────マジカル・インパクト!!」


 手刀サイズの光の矢。


 そう形容しかできないものが華世の手から放たれ、そしてティルフィングへと突き刺さった。


 瞬間、その光は溢れるように膨れ上がりティルフィングの巨体を飲み込んでゆく。

 

 その輝きは周囲にも拡散していき、まるで敵味方をわかっているようにツクモロズだけを貫き包み込む。


 それは、数秒の出来事。

 

 そして全てが終わったとき、残っていたのはティルフィングがいた場所を中心に空間が球状にえぐり取られたかのような、巨大なクレーターだけだった。


「ちょっと……力のセーブが聞かなかった……わね」

「華世、今のは……?」

「これであたしも、胸を張って魔法少……女……って」


 ふっと、糸が切れたように意識を失う華世。

 ホノカは慌てて前に出て、倒れた彼女の身体を抱き支える。

 すぐに彼女の胸に手を当てたが、幸いにも鼓動が感じられた。


「気を……失っただけみたいです」

「良かった……でも」


 言葉に詰まるウィルと共に、クレーターへと視線を戻すホノカ。

 夢の世界、妖精の国、交わした約束。

 ティルフィングを魂、そして罪と意味深な形容をした華世の言葉。

 

 その意味を聞き出さなければ。


 華世の無事を喜ぶ暇もなく、ホノカは思考を巡らせる。

 そしてウィルは機体を戦闘機形態へと変形させ、艦へ帰投すべく全速でその場を離れた。

 


 ※ ※ ※


 

「どうして、〈アルテミス〉が宇宙に……?」


 母艦との合流地点にたどり着いたホノカたちだったが、そこに艦の姿はなかった。

 どうやら、ウィルが慌てて一番大げさな退避命令を出したがゆえに、他の機体ともどもコロニーの外まで退避してしまったようだった。

 ホノカは隣で眠る華世の顔を少しだけ見てから、申し訳無さそうな表情のウィルへと視線を映す。


「ごめん。俺のミスだよ……」

「良いですよ。一刻を争う状況ではありませんし」


 遠くに見える母艦に向けて、そこそこのスピードで進んでいく〈エルフィスニルファ〉。

 その後方ではホノカが乗り捨てた〈オルタナティヴ〉が、自動操縦でゆっくりとついて来ている。

 二機ともさんざん無茶をやった後なので、推進剤もエネルギーも底が見えており、節約しながらの移動だった。

 無重力空間の慣性に乗って宇宙を進んでいたその最中、ホノカはレーダーの光点に気がついた。


「ウィルさん。何か……宇宙に漂ってるみたいです」

「救難信号だ。誰かがキャリーフレームで遭難しているのか?」


 コンソールを手際よく操作し、機体データを参照するウィル。

 画面に表示された文字を見て、彼の表情がこわばった。


「何か……あったんですか?」

「この漂流している機体……」


 ウィルが指さした画面の箇所を、横から覗き見るホノカ。

 そこに映し出されていた文字列は────


「カストール……前にツクモロズ化した宇宙要塞で戦った、双子の機体のひとつだ……」



──────────────────────────────────────


登場戦士・マシン紹介No.

【スカウト・ザンドール】

全高:8.5メートル

重量:12.5トン

 

 偵察専用の装備が施されたザンドール。

 周囲の地形をスキャンし、データを持ち帰ることで作戦を立てやすくする役割を持つ。

 そのため、レーダーに引っかかりにくい特殊なステルス装甲や多種多様なセンサーが全身に用いられており、他のザンドールとは外観が結構異なっている。

 武装は自衛用の最低限度のものしか無く、低燃費のビーム・ピストルが2丁だけとなっている。


 

【オルトリーチ】

全高:7.4メートル

重量:6.1トン

 

 ムロレが操縦するカスタムメイド・キャリーフレーム。

 逆関節構造の脚部が特徴的な機体であり、ところどころがフレーム丸出しなほど耐久性を犠牲に運動性能を引き上げている。

 両手の散弾銃とビーム・ダガーがメインウェポンであり、高機動で敵に肉薄し素早く仕留める戦法を取る。

 

 

【氷魔竜ティルフィング】

全高:32.4メートル

重量:不明


 華世の魔力が房総市、神獣化して生まれた巨大な氷の竜。

 宿した氷の魔力によって全身が構成されており、発する冷気によってコロニー1つを寒冷化するほどの力を持つ。

 ひとつひとつがキャリーフレームサイズという巨大な刃状の氷塊が、翼のように背中の近くに浮遊しており、武器として射出することもできる。

 幾重にも分裂しながら飛ぶ冷凍光線による攻撃は、わずかに触れるだけで物体が凍りついてしまう。

 他のツクモロズよりも遥かに強固な魔力障壁を持ち、並大抵の攻撃は通りすらしない。

  

 

【プテラード(コールド)

全高:7.7メートル

重量:不明


 ティルフィングの周囲を守るように飛行するツクモ獣。

 かつて華世たちが第10番コロニー・ネイチャーにて交戦した翼竜人型のツクモロズ、プテラードの氷版のような外見をしている。

 武装としては鋭い爪のほか、原種が放っていた熱線の代わりに冷凍光線を口から吐き出す。

 


 【次回予告】

 次なるツクモロズ勢力の目的、それはコロニー・クーロンへの大攻勢だった。

 その情報を得た華世たちは、クーロンへと急ぎ戻る。

 そして戦いを前に、華世はドクターへと自らの「強化」を提案する。


 次回、鉄腕魔法少女マジ・カヨ 第37話「乗り越えるべき過去」


 ────自分を捨て去ることは、並外れた覚悟の表れ。

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