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第35話「色無き世界に咲く花は」【Fパート 決死の切り返し】

 【6】


 マイの直ぐ前で滞留する白いエネルギー弾。

 それはゆっくりと進むスピードを上げながら、徐々にその進行方向を華世の方へと変えていた。


(加速式の追尾弾っ……!?)


 マイの大技、セイクリッド・デトネーションの正体。

 それは直線状に大火力の魔法ビームを放つ技、ではなかった。

 ゼロに等しい初速から、少しずつ加速。

 そして加速中に対象を発見した場合は、進行方向を相手の場所に向けて変える。

 そして最終的には弾丸の如き速度で相手を撃ち貫く。

 それが、マジカル・マイの大技だったのだ。


 正面から迫るエネルギーの奔流に、華世は回避が不可能と悟る。

 マイを確実に戦闘不能にする。

 そのために速度に全力を乗せているのだ。

 さらに迫りくる敵弾の大きさ。

 今から多少、方向を逸らしたところで結果は変わらない。


(使いたくなかったけど……っ!)


 落下速度がスピードに加わる中、華世は白い輝きに向けて生身の左手をつきだした。

 ダメ元で魔力を放出し、少しでも相殺させられればという想い出。


 しかしまたしても、今度は華世によって思いも寄らない方向に予想が外れた。

 頭の中に走る、魔力を氷の力として放出するイメージ。

 それは、これまでの数十万単位という大きすぎる魔力を持っていたが故に浮かばなかった発想。

 あるいは、自身の属性が氷であると自覚したからできるようになったのか。

 今の華世には理由なんてなんでもいい。

 ただ、よぎった可用性へと手を伸ばした。


「はあああぁぁぁぁーーーっ!!!」


 手のひらの中に渦巻く、鮮やかな空色の光。

 青空の色を忘れたこの世界に、その色彩を教えんばかりの輝きが、華世の手から放たれた。


 パキッ……!


 華世を飲み込まんとしていた白いエネルギーが、止まった。

 いや、一瞬にして凍りついた。


「なっ……!?」

「マイィィィィッ!!」


 セイクリッド・デトネーションが凍ったのを見てから、華世は本来のプランへと急いで戻る。

 空中で義足を前に出す姿勢へと変え、その足裏からナイフの刃を付き出す。

 激しい運動によって生まれた義足の放熱を直に受け続け赤熱した刃が、凍ったエネルギーへと突き刺さる。

 華世を飲み込もうとしたエネルギーの塊が、熱と衝撃を受けて空中で四散。

 空中で輝くいくつもの粒子へと変わっていく結晶の中を、華世は通り抜ける。


 屋根を蹴った速度に、重力加速度を加えた高速の飛び蹴り。

 今の華世ができうる、最大の攻撃がマイの光の翼を捉える。


 大技を放った衝撃を受け、脆くなっていた翼が華世の執念によって打ち砕かれた。



 ※ ※ ※



「…………」


 ただ呆然と、砕けた翼とともに白の屋上で仰向けで目を見開くマイ。

 華世は息を整えてから、彼女のもとへと歩み寄った。


「何で負けたか理解できない……って感じね」

「私……今まで魔法で、誰にも負けたことはなかった……なのに」

「門外漢だから適当かもしれないけど、あたしが今動けているのって、あんたが魔力をくれたからよ」


 ハッとしたように、眉が上がるマイ。

 しかし、それだけでは納得はしていないようだった。

 華世はかがみ込み、倒れているマイの鼻先へと顔を近づける。


「あんたと同じ魔力をもって、それに多分……相性が良かったのよ」

「氷の魔法で私の攻撃が凍らされるなんて……」

「でもね、この戦い……あたしは魔法だけで勝ったわけじゃないわ」


 逃げながら相手の動きを観察するために貢献したビーム・シールド。

 活路を見出し、有利な場所に誘い込むための移動に使った義手のワイヤー。

 そして、決着の武器となった義足の隠しナイフ。


 武器だけじゃない。

 強大な相手へと立ち向かうための勇気。

 少ない手札から相手に打ち勝つアイデアを練る戦闘センス。

 そして、なんとしても帰ると思わせてくれる大切な存在。


 すべて、華世の身の回りの大人たち。

 魔法少女の戦いにおいて、マイが無力だと思っている存在がもたらしたものである。


「あんたは、純粋に魔法少女だった。だから……」

「大人なんて……誰も私を助けてくれなかった。私が戦ってるとも知らずに、誰も……」


 魔法少女として悪と戦う。

 そんな非現実的な話に、彼女の周りは理解を示さなかったのだろう。

 更に不幸だったのは、彼女があまりにも強すぎたこと。

 人に頼らず戦い続け、あまつさえ苦労もなしに勝ってしまった。

 故に彼女は、軽い人間不信に陥っているのだろう。


「……本当に一人ぼっちだったのね、マイ」

「痛くても、怖くても耐えて戦ったんです……! でも、誰も褒めてくれなかった。無理をしないでって、言ってくれなかった……」


 ポロポロと、仰向けのまま涙が目からこぼれ落ちるマイ。

 頼れる大人も無く、孤独に押しつぶされそうになりながらも、彼女は弱音を吐かなかった。

 それが自分の運命だと、役割だと割り切って、張り付いた笑顔で戦い続けてきた。

 そして得た勝利の果てが、魂が永遠に灰色の牢獄に囚われるという罰。


「人間ってのは、強がってばかりじゃ駄目なのよ」

「え……」

「みっともなくても、格好つかなくても、弱さを見せなきゃわかってもらえない。弱音を吐かないと、助けが必要だってわからない。あなたは、どっちもしなかったんじゃないの?」

「……そう、かも。でも、だって」

「でも今は違う。あたしに向かって正直に話して、助けを求めてる。あたしなら、あんたを助けられるわ」

「私を……助ける?」


 マイを抱き起こし、ゆっくりと抱きしめる華世。

 おそらく彼女が、初めて得た同じ魔法少女としての友達。

 友達として、華世が当たり前にやっていることを、マイへとするのだ。


「あなたが望んだこの世界に色を取り戻すお手伝い……してあげる。ツクモロズをやっつけて、あんたの悪の心に言ってやるのよ。もうやめろって」

「言っただけで聞いてくれるなんて……」

「戦いに勝った魔法少女には、願いを叶える権利が得られる。その願いを、少し使うだけよ」


 危険な賭けであることはわかっている。

 この世界を灰色にした現況に、それを願うのだから。

 けれども、華世は心からその願いを祈っていた。

 故郷を滅ぼした者への復讐を果たしたことで、華世の中にわずかに変化が生まれていた。


「だからそれまで、頑張って。あたしも頑張るから、さ」

「華世さん……ふぇぇ、ええぇぇぇん!!」


 号泣し、泣きじゃくるマイ。

 彼女の頭を撫でながら、華世は決意を固める。

 この妖精の国で出会った、新たな友人を救うことを。

 その言葉が口先だけにならないように、覚悟を固めていた。




    ───Gパートへ続く

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