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第34話「作られし者の楽園」【Jパート 最終試練】

 【10】


「最後の相手……師匠やないんか?」


 最終試練を言い渡されてから数時間後。

 機体の前で咲良が話した内容に、内宮は驚いていた。


「うちの場合は、師匠自ら操る機体との戦いやった。しかも勝つんは無理やから一本取れるかの試合形式やったんやけど」

「ということは……相手になる人はムロレ先生と同じくらいの腕前……?」

「そう考えたほうがええな。長期戦は不利そうや。素早く決めへんと危ないで」


 内宮のアドバイスを背中に受けつつ、咲良はコックピットに飛び込み、パイロットシートに腰掛ける。

 そしてハッチを閉めようとしたところで、立ち去ろうとした内宮が振り返って叫んだ。


「師匠はあんさんを伸び代ない言うてたけど、あれ良い方かも知れへんで!」

「良い方?」

「これ以上ないほど完成しとったってことや! 自信持ちや!」


 手を振って今度こそ立ち去った内宮を見送ってから、咲良はコックピットハッチを閉じる。

 機体の電源を入れるとともに、後ろのへレシーが両肩に手を載せた。


「お姉ちゃん、頑張れ!」

『私もお供いたします。咲良』

「うん。私とEL(エル)とヘレシーと、それから〈エルフィスサルファ〉の4人で絶対に勝とう!」


 機体を立ち上がらせ、その巨大な脚をカタパルトへと乗せる。

 ガチャン、とリフトが足を固定すると音が聞こえてから、ムロレが通信を入れてきた。


「この船にはバケモン級のビームバリアを積んである。流れ弾は気にすんなよ」

「はい。わかりました!」

「では、カウントダウンだ。3、2、1……!」


「葵咲良、出撃しますっ!!」


 猛スピードで前進するカタパルトのリフトによって、宇宙空間へと投げ出される〈エルフィスサルファ〉。

 直後にレーダーが警報を鳴らし、相手の位置を光点で示しだす。


『敵機確認、機種〈ウイングネオ〉……そのカスタム機です!』

「速い……!」

「お姉ちゃん、ミサイルいっぱい来てる!」


 ビービーという警告音と共に前方に広がる無数の小型追尾ミサイル。

 咲良は冷静に武器を切り替え、操縦レバーのトリガーを引く。 


 てんしの羽を思わせる〈エルフィスサルファ〉の翼ユニット。

 その各部から放射される無数の小型ビーム弾が弾幕を形成。

 接近していたミサイル群を次々と爆炎に変えていく。


『敵、加速して接近!』

「格闘戦……!?」


 爆発で起こった白煙を突っ切るように、戦闘機形態の〈ウイングネオ〉が機首を突き刺さん勢いで接近してくる。

 咄嗟にメシアスカノンへと武装を切り替え、格闘モードでビーム刃を発振。

 迎え撃とうと振りかぶったとき、戦闘機から脚が伸びた。


「くっ……!?」


 反射的に防御姿勢を取りシールドを展開すると同時に、跳ねるように後方へと飛び   退いた敵機がビーム機銃を斉射。

 間に合ったビーム・シールドが光弾を弾き、事なきを得る。

 読み誤っていたら片腕を持っていかれていた、危ない場面だった。


(間違いない、この相手……強い! それに……)



 ※ ※ ※



「相手の動きに見覚えがある?」


 咲良の最終試練を見るため、ムロレが用意した観戦席。

 その椅子に腰掛けながらアスカが復唱するように訪ねた言葉に、フルーラがコクリと頷いた。


「なんだろう……アスカ。あの動きを見てると、懐かしいような腹立たしいような……」

「いったい何者なんだ、相手のパイロットは……?」


 アスカは友人とはいえ、フルーレとの付き合いは限りなく短い。

 彼女が頭に浮かべている予感には、全くピンとくるものはない。


「……誰だっていいか。あいつに勝ってもらわなきゃいつまでも帰れないからな」

「そう、だよね。咲良さん、頑張れーーっ!!」


 立ち上がり、応援の声をモニターに叫ぶフルーラ。

 その隣でアスカは、咲良の戦いを固唾を呑んで見守っていた。



 ※ ※ ※



 射撃によるビームの応酬。

 ミサイルと弾幕のぶつかり合い。

 そして時折差し込まれる格闘戦。


 スペックや火力では咲良に分があるが、運動性では圧倒的とはいかなくても負けている。

 咲良は内宮が言った、長期戦は不利という言葉を痛いくらいに噛みしめる。


(相手の回避は正確無比、隙をつく暇もないか……!)


 既に細かい被弾を繰り返し受けている〈エルフィスサルファ〉。

 一方、敵の〈ウイングネオ〉には有効打をまだ1つも与えられないでいた。

 いつ致命傷を受けるか、という状況であった。


『咲良、このままでは……』

「わかってるけど、どうすれば……!」


 咲良は暗記するほど読んだマニュアルを思い出す。

 この期待の強みは、圧倒的なまでの火器の物量。

 それを活かせば、道は開けるはず。


(道を……道……? そうだ……!!)


 咲良は機体を後方へと引かせ、相手を誘った。

 こうすれば有効射程外からの狙撃を恐れて、相手は接近をしてくるはずだ。

 読みどおり、敵機は戦闘機形態へと変形し、接近を試みる。


EL(エル)、弾幕を形成して!」

『ですが、これまで相手は全回避を……』

「いいから!」


 敵のいる空間へと、翼から放たれるビーム弾幕が怒涛の如く放たれる。

 しかし、相手はその中をスイスイと掻い潜り、着実に距離を詰めてくる。

 その時、咲良には見えた。

 相手が弾幕を掻い潜るために進む、弾幕の薄い箇所をつなぐ道が。


「フル……バーストォォォッ!!」


 敵が通ろうとする道を塞ぐように、両肩、腰部左右の砲門を連射する。

 時間差で放たれた第二撃へ、敵機は軌道修正をしようとするも、ついに右翼先端に被弾を許す。

 その衝撃で動きが鈍った、そのタイミングで咲良はペダルを踏み抜く勢いで押し込んだ。

 加速する〈エルフィスサルファ〉。

 瞬時に変形して迎え撃とうとする〈ウイングネオ〉。

 コンマ数秒の時間で生死を分かつ刃の差し合い。


 ────勝利したのは、咲良だった。


 ビーム・セイバーを握ろうとした腕がメシアス・カノンのビーム刃が溶断。

 行動を潰された〈ウイングネオ〉の頭部を、腰部レールガンが撃ち抜くことで、勝負は決した。


「勝ったッ!!!」


 勝ちを決めた瞬間、咲良は叫んだ。

 音の伝わらない宇宙空間に、響きそうなほどの声量で。



    ───Kパートへ続く

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