第34話「作られし者の楽園」【Fパート 咲良の修行】
【6】
発射音とともに光弾が放たれ、漆黒の空間に光の線を描く。
けれどもその弾丸は決して正面を飛び回る対象を捉えること無く、ただただ虚無へと消えていくのみ。
接近してくる敵の影。
レーダーがしきりに警告音を鳴らす中、咲良はメシアスカノンを近接格闘モードへ変更。
光の刃を伸ばし迎撃しようとしたところで、背後が爆発をした。
大きな孤を描き飛来してきたミサイルの直撃。
そのダメージ箇所をチェックようとしたときには、正面から敵機が放ったビームが画面いっぱいに広がっていた。
………
……
…
モニターから光が消え、敗北を示す「YouLose」の文字が浮かび上がる。
そしてシミュレーター訓練プログラムが終了し、コックピットハッチがゆっくりと開いた。
「ハァ……ハァ……ど、どうですか……?」
肩で息をしながら、〈エルフィスサルファ〉のコックピットから降りる咲良。
修行の手始めに、とムロレから課せられたのはシミュレーターによる連戦。
しかも対戦相手は過去に実在した名だたる凄腕パイロットの操縦データ。
息つく間もなく、時には瞬殺されながら30連敗を喫した咲良は、心身ともに疲弊していた。
時刻はすでに夕暮れ時……といっても夕日が刺すことはこの船の中ではないのだが。
ムロレは疲れ果てた咲良の様子を見ても、心配の声ひとつかけず「ダメだな」と咲良の腕をけなした。
……ELから借りた少女型アンドロイドの姿で。
「ダメって……」
「おじさん、ひどくないかなー! 咲良だって、そりゃあ1秒でやられたりもしてたけど頑張ったんだよ!」
「ヘレシー、それあんまりフォローになってないからね」
自分の代わりにぷりぷり怒るヘレシーを抑える咲良。
そんな彼女に、ムロレはタブレット端末に映ったグラフを見せた。
「お前さん、よほどスタンダードなコンバットパターンが好きと見えるな」
「スタンダードなコンバットパターン……?」
「こいつはな、お前さんがさっきのシミュレーターで使った武装の比率だ。両腕の固定兵装メシアスカノンの使用率が射撃・格闘ともにブッちぎりだ」
ムロレは、噛み砕いて咲良の欠点を指摘する。
曰く、相手が強いと感じた時に咲良は無意識にビーム・ライフルとビーム・セイバーを使った基本戦術を取ってしまっているらしい。
〈エルフィスサルファ〉の基本兵装にあたる遠近両用のビーム兵器、メシアスカノンの使用率が抜きん出て高いのが、その事実を裏付けている。
そこまで言われて、咲良は確かに危機的状態で思考が追いつかなくなり、手癖で戦っていることがあると自覚した。
過ちに気づいた咲良が顔に手を当てていると、隣のヘレシーがまた抗議の声を上げる。
「基本ができているならいいんじゃないの? 何事も基本が大事ってみんなよく言ってるよ」
「その言葉については真だが、それはあくまでも素人が素人でなくなるために必要なことだ。お前の横のは素人じゃあねえだろ?」
「む……」
「素人が体に刻み込むような基本戦術ってのは、言ってしまえば1とか2を5に仕立て上げる技術だ。5までなれば、戦闘要員として数に数えられるレベルにはなる。だが、5を超えるには殻を破らなきゃならねえ」
「殻を……ですか?」
「お前さんが越えようっていうやつは、お前さんよりよっぽど腕が立つんだろ?」
きっと、ムロレは自分に足りないものを気づかせようとしているんだ。
そうわかっても、具体的にどうすればよいのかの見当がつかない。
ぐるぐる考え込んでいると、ムロレが立ち上がり背を向けた。
「続きは明日だ。せいぜい相棒と話し込むこったな。時間に遅れるんじゃねぇぞ」
そう言って、ELのボディのまま格納庫を立ち去るムロレ。
居なくなってから身体を返してもらってないことに気がついた。
急いでコックピットに戻り、ELの意識データを機体から携帯電話へと回収する。
『このまま置いていったら拗ねるところでしたよ、咲良』
「ごめ~~ん。EL、ムロレ先生の話、聞いてた?」
『相棒と話し込め、としか言われてませんでしたね。宿に戻って3人で反省会でもしましょうか』
「はんせいかーい、はんせいかーい!」
「ヘレシー、反省会の意味わかってるのかな……?」
無邪気にはしゃぐヘレシーの横でため息をつく咲良。
疲れた身体をいたわりながら携帯電話を操作し、内宮からのメッセージを確認する。
添付されていたのは宿泊する建物の位置を示す地図。
目的地までここから結構距離があることを察し、咲良もう一度ため息をついた。
───Gパートへ続く




