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第34話「作られし者の楽園」【Cパート 師匠】

 【3】


 作られし者の楽園、正式にはラウターズ・ヘヴン号。

 それは宇宙船というにはあまりにも巨大だった。

 案内に沿って咲良が機体を着陸させた格納庫の広大さは、船の異常な大きさを痛感させる。

 ふさわしい言葉を探すならば、宇宙要塞のハンガーかスペースコロニーの宇宙港。

 あまりの広さに圧倒されながら咲良はヘレシーと、それからアンドロイド体に意識を移したEL(エル)の二人の手を引きながらリフトに乗った。


「おう、お疲れさん!」


 膨れ面をするアスカの隣で笑顔で手をふるのは今回の仕掛け人、内宮。

 あの〈ウィングネオ〉との戦いは彼女が仕組んだ狂言。

 あるいは試験だったのかもしれない。

 どっちにしろ、弄ばれた側としては快い感情なんて微塵も沸かない。


「ひどいですよ、隊長」

「そうだぜ。アタシもマジな襲撃かと思ってガチ対応しちまった」

「悪い悪い、師匠がどーしても言うもんやから逆らえんくて」


「でも内宮さん、なんだかおかしくない? この船……」


 アスカの後ろに立っていたフルーラが、怯えたような表情であちこちを指差す。

 彼女が指し示しているのは、キャリーフレームを整備するために動いている人間サイズのロボットやドローンの群れ。


「おかしいてフルーラ、何がや?」

「人の気配……全然ないの。全くって言うわけじゃないけど……船の大きさにしては少ないというか」


 言われてみれば確かに、表立って動いているのは機械ばかり。

 あって当然である指示や操作をする人間の姿が、全く見られない。

 咲良がフルーラの言った気味の悪さを言語化していると、内宮が顎に手を当てる。


「んー……そりゃあまあ、ここは……そういうところやし」

「そういう所って、隊長どういう────」


「はんっ! 来やがったなてめえら!」


 遠くから響いてきた掠れ声の方へと、その場にいた全員が一斉に振り向く。

 奥が見えない暗い通路から迫ってくるのは、人間とは言い難い丸い構造物。


「来たのは誰だ、銀川のボウズか? それとも笠本の小娘か? それとも……」

「うちや、うち。内宮や!」

「あーそうだったな、内宮。お前とんでもなく不細工になりやがったなぁ! コノヤロウ!」


 暴言を吐きながら咲良たちの前で停止したのは、酷く古めかしい球体型ドローン。

 球体の真上ではブーンという駆動音を鳴らして高速回転するプロペラが機体を浮かせ、レトロなブリキロボットみたいな先端がCの字をした細い腕が左右から伸びて腕組みしていた。

 そして顔と呼ぶべき部分には、ドアップになった人間の片眼が映し出されたモニターがついている。


「ぶ、ブサイク……?」

「そうだ! 妙ちくりんなエルフィスこしらえてきたと思えば……なんだあの惨めな操縦は! まるで俺様が教える前に戻っちまったみてえじゃねぇか!」

「師匠、ちゃうちゃう。あれ操縦してたんうちやないですて」

「違うだと? じゃあ誰が……!」


 咲良はそこまで聞いて、内宮の師匠の“ブサイク”という言葉が顔の出来のことを言っているのではないと感づいた。

 そして同時に、暴言の矛先が自分に対してのものであると理解してしまった。


「ちっ……どーりで教えが1つも活きてねぇわけだ。こんな乳臭え小娘の操縦だったとはよ」

「予め言うたはずですやろ。うちの部下を鍛えさせてって」

「部下、の下りがノイズで聞こえなかったんでい。これだから金星宙域は……ちきしょうめ」


 ぶつくさと文句を言う内宮の師匠……らしきロボット。

 内宮以外は状況をつかめず、ふたりの言い合いを聞きながら立ち尽くすことしかできない。

 数分くらいして、ようやく人の形をした助け舟が格納庫に駆け込んできた。


「ムロレ先生、人間のお客さんを立たせっぱなしでは可愛そうですよ」

「あん?」

「おお、ヒロコやないか! 久しぶりやな!」


 内宮が嬉しそうに手を振った相手は、水色の髪をしたメイド服姿の女性。

 見覚えのありすぎるその容姿を見た咲良は、思わず「ミイナさん……?」と呟いた。


「ミイナ……ああ! 妹がお世話になっております」

「いも……妹?」


 アンドロイドの姉妹という概念に、呆気にとられるアスカ。

 その様子を見ながら、咲良は無意識にクスッと笑みがこぼれた。


「立ち話もなんやし後にしよやないか。案内してくれるんやろ、ヒロコはん」

「はい。皆さん、こちらへどうぞ。良いですよね、ムロレ先生?」

「ふんっ、好きにしろい!」


 不満げな声を発するムロレをよそに、にこりと微笑むヒロコ。

 背を向けて歩き始めた彼女の後を追うように、咲良たちは足を踏み出した。




    ───Dパートへ続く

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