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第34話「作られし者の楽園」【Aパート 出発の朝】

 目を覚まし、ベッドから起き上がるアスカ。

 両手をうんと挙げて伸びをし、溜まった目やにを擦り落とす。


「お目覚めですか、お嬢……アスカさま!」


 すっかり見慣れたメイドロボが、何度目かわからない呼び間違いをしつつ部屋に入ってくる。

 彼女はアスカが立ち上がると同時に掛け布団へと手を伸ばし、手際よくベッドメイキングを行う。


「朝メシ……アタシが作らなきゃだよな」

「はい。アスカ様以外に料理ができる者が居ませんから……」

「ミイナ、お前メイドロボだよな? なんで料理できねぇんだよ」

「苦手な遺伝を受けましたので」

「……はぁ」


 この家に住み始めてから一週間ほど。

 アスカは、すっかりこの家に馴染んでいた。


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


       鉄腕魔法少女マジ・カヨ


      第34話「作られし者の楽園」


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


 【1】


「「「「「「いただきまーす」」」」」」


 手を合わせ、一斉に箸を握る6人。

 アスカとミイナ、それから内宮とホノカとももと、そしてフルーラ。

 白米に味噌汁に目玉焼きという、絵に書いたような日本人の朝食。

 皆が舌鼓を打つなか、内宮が申し訳無さそうに口を開いた。


「いやぁ、毎日毎日スマンなぁアスカ」

居候いそうろうみてぇなもんだしな。これくらいやらなきゃ穀潰ごくつぶしになっちまう」

穀潰ごくつぶし……私、何もやってないけど」


 箸を止め、俯くフルーラ。

 家の中で役割のない彼女の存在を失念していたアスカは、慌てて言葉を取り繕う。


「ほ、ほらさ。フルーラは買い物ん時とか荷物持ってくれるしな!」

「そう……だよね! 私は穀潰ごくつぶしじゃないよね!」


ももも何もしてませんが……」

ももお嬢様は私の癒やし担当ですから、居るだけでありがたいのですよ!」

「わーい! ミイナお姉ちゃんありがとう!」


 漫才のようなやり取りをしながら、食事を進める。

 すっかり当たり前になった光景だが、こんな生活が送れるようになるとは、アーミィ支部で寝泊まりしていた頃は想像もしていなかった。


 戦艦級ツクモロズ〈ハーコブネイン〉を撃墜してから、コロニー・クーロンに対するツクモロズの襲撃はピタリと止まった。

 アーミィはあの戦艦級が発生源だったと考え、一昨日には警戒宣言を解除。

 泊りがけで働いていた内宮も激務から解放され、ひとときの平和を謳歌している。


 平和ということは、魔法少女たちの出番も無くなったということ。

 社会不安から犯罪者が事件を起こすことは多々あれど、それの相手はアーミィ及びポリスの仕事。

 人間兵器たる魔法少女が出張らなければならない事態は、もう何日も起こっていない。

 穀潰し、という言葉はそんな日々があったがゆえについ口から出てしまった言葉である。


「せや、アスカとフルーラ。体調悪いとか無いやろな?」

「アタシは平気だ。そうか、前に言ってたやつは今日だったか」

「えっとアスカ……今日、何があるんだったっけ?」

「忘れたんか……咲良を鍛えるための修行にあんさんらも連れて行く言うてたやないか」


 修行、というのはキャリーフレームの戦闘訓練のことである。

 その同行者としてアスカも選ばれているのは、曰く宇宙戦闘のテストが含まれているから。


 アスカは一度も行ったことがないが、魔法少女は変身していれば宇宙空間を生身で活動することができるらしい。

 それが可能なのは魔法の力だから、という説明で納得せざるをえないのだが、問題は宇宙が真空で無重力だということ。

 存在して当たり前の空気と重力がない空間では、光の翼で飛ぶのにも感覚がだいぶ変わるらしい。

 ぶっつけ本番で戦闘に駆り出される前に、一度くらいは慣らしができるように、というのが今回の同行の理由である。


 フルーラが同行するのは、アスカ抜きで置いていくのが不安だからとか。

 ……もちろん、本人にはその理由を明かしてはおらず、護衛のパイロットとして扱われている。


「ねえアスカ、着替えとかタオルとか持っていった方がいいかな?」

「フルーラ、そこらへんは内宮さんが用意してくれてるってさ。携帯電話とか財布とかの貴重品は持ってけよ」

「ホノカ達は留守番、頼んだで」

「……わかりました」


 平和が戻った、とはいえ油断できない情勢。

 いつまたツクモロズの襲撃が再開するかわからないため、今回の修行は必要最低限の人数で向かうという。

 そのため、今回はホノカやももは家だけでなくコロニーの留守番を任されることとなった。


「それで、その修行の地ってどこなんだ?」

「せやなぁ、特に地名があるわけやないけど……こう呼ばれとる」


 一呼吸おいて、場所の呼び名を話す内宮。


「作られし者の楽園、や」

「つくられ……?」


 その名称の意味は、アスカには全くわからなかった。



 ※ ※ ※



「今日は気合入ってますね、咲良」


 早めに起床して荷物の確認をしていた咲良は、パジャマ姿のEL(エル)にそう言われてキョトンとした。


「そう見えたかな~?」

「いつもの咲良ならもっと余裕こいて、直前になって慌ててましたからね。あっ、ヘレシーは起きたらまず顔を洗えと何度も行ったでしょう」


「でもお腹空いたからー!」


 インスタント味噌汁の保管場所に手を伸ばしていたヘレシーを、小走りで捕まえ洗面所に連行していくEL(エル)

 咲良は微笑ましい少女ふたりの背中を見ながら、気合が入っているという指摘を改めて考える。


(そりゃ、気合が入るよ。私のために内宮さんが時間作ってくれるんだから)


 幼馴染の楓真の裏切りに端を発する咲良の力量不足の露呈。

 機体スペックの高さで圧倒できることはあれど、咲良は基本的に技量で押されることが多かった。


 最新機種であり、現状アーミィが保有する最大戦力である愛機〈エルフィスサルファ〉。

 その起動にヘレシーが、火器管制装置のサポートにEL(エル)が必要なため、その二人と心通わせられる咲良専用の機体となっている。

 ふたりのサポートは完璧、ともなれば問題は咲良。

 長い間鬱屈としていた劣等感と、今日で決別する……そのための修行だ。


 2つ用意したドンブリのひとつに味噌汁を、もうひとつに白米をよそった咲良は気合い入れも兼ねて大量のふりかけをドンブリへと注いだ。



    ───Bパートへ続く

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