第33話「変わりゆく“いつも”」【Gパート ストーキング】
【7】
「……ってことで、これから魔法少女隊はアーミィの命令のもと戦闘参加が許されるってよ」
支部から徒歩でゆく帰り道。
すっかり夜となり暗くなった道中で、アスカは携帯電話に送られてきたドクターからのメッセージを仲間たちへと話していた。
これまでは、人間兵器としてアーミィ所属となっていた華世を経由して、魔法少女たちの戦闘行動は許されていたという。
その中心人物の死亡となったことで、構造が見直されたらしい。
「アタシとしちゃあ嬉しいけどよ、冷静に考えると子供に戦わせる大人ってアレだよな」
「無理もありませんわ。今はアーミィ全体が戦力不足にあえいでいますもの」
「クーちゃんが巡礼してくれたからV.O.軍が来ないから、ここはまだマシな方なんだよ?」
「へーえ?」
そんな話をしながら歩いていると、交差点のひとつでリンと結衣が足を止めた。
「わたくしはここで……。お屋敷が向こうですので」
「あっ私も! みんな、またね~!」
「結衣さん、またねー!」
それぞれ別方向に手を振りながら歩き去っていくふたり。
残されたアスカは、ホノカと杏、それから結衣たちが見えなくなるまで手を振り続けていたフルーラの方へと視線を移す。
「……本当に、アタシとフルーラはあんたらの家で泊まっていいのか?」
「内宮さんと、それからミイナさんの意見ですからね」
「ミイナ……たしか、華世ってやつを溺愛してたメイドだっけか」
そんな人物が、果たして自分に何を求めているのか、アスカははかりかねていた。
これが華世の代わりを務めてほしいとかであれば、どだい無理な話。
そうでないとしても、なんて言葉をかければいいのか。
帰路に付きつつも、アスカの心は不安と迷いに満ちていた。
「私、ウィリアムが住んでた部屋を使っていいって聞いたけど……」
「はい。彼をよく知るあなたであれば、あの部屋を使っても良いだろうと内宮さんが」
「そっかー。ウィリアム、どんな部屋で寝てたんだろう」
一方で能天気に鼻歌を歌うフルーラ。
最初はその男のために自害しようとしていた事など忘れてるかのように、明るく振る舞う彼女の姿に、アスカは眉をひそめる。
吹っ切れきったのか、それとも呑気なだけなのか。
どちらにせよ、図々しい友の姿は今のアスカにとって少し救いだった。
「あれ、あそこにいるのテルナ先生じゃない?」
まっすぐに杏が伸ばした指の先。
明らかに市街から離れる方向へと歩いていく赤髪の女性の姿があった。
「テルナ? あの人、私の髪を切ってくれたナインって人だと思うけど」
「髪? そういやお前の髪きれいになってるな」
「えへへ」
「んで……テルナ先生って何者だ?」
イマイチ皆が言っている人物について要領を得ないアスカが問いかけると、杏がたどたどしく言葉を選びながら説明した。
「杏とホノカのの担任の先生……で、内宮さんの昔の戦友で、えーっと」
「テルナっていうのは偽名で、ナインというのが本名らしいですよ。それにしても……どこへ向かっているのでしょう?」
「只者じゃねえってことか……気になるなら、つけてみようぜ」
「アスカ、それって尾行するってこと?」
フルーラからの問いかけに、アスカは頷きを返す。
そう発案した理由の一つは、もしかしたら無意識にメイドに会う時間を先延ばしにしたかったのかもしれない。
けれど、そんな理由があるかどうかなんて知らないであろう三人だったが、安易にアスカへと賛同した。
「信用していないわけではありませんが、あの人は危なっかしい側面がありますからね」
「何かあったら内宮さん悲しむもんね!」
「私も髪を切ってもらった恩があるし……早くしないと見失っちゃいそう」
「よし、行くぞお前ら……!」
テルナに悟られないよう、物陰に隠れながらの尾行を始めるアスカ達。
進むにつれて、徐々に背の高い建物が周囲に見えなくなってくる。
スペース・コロニーにも郊外みたいな地区があるんだなと思いつつ、こっそりこっそりと揺れる赤髪を追いかける。
ある程度進んだところでテルナが足を止め、周囲を見渡し始めた。
「見て、止まったよ……!」
「ここが目的地なのか……? にしては何も無ぇように見えるが……」
「いえ、違うみたいです。見てください」
周囲の警戒を終えたテルナがしゃがみ込み、器具を使って足元のマンホールの蓋を持ち上げた。
彼女はそのまま蓋を外し、できた穴へと身体を滑り込ませる。
そして脇に寄せていた蓋を内側から引っ張り、丁寧に中から穴を塞いだ。
「マンホールの中……? どこかに通じてるってのか?」
「もしかすると、アーマー・スペースに?」
「アーマー……なんだって?」
「えっとね……ドリーム・チェンジ」
説明する前に、変身の呪文を唱えるホノカ。
彼女の身体が閃光に包まれ、一瞬で白い修道服のような魔法少女姿へと変貌する。
両腕につけられた巨大な篭手のような物体で、マンホールに手をかざしながら、彼女はアーマー・スペースについての説明を始めた。
曰く、スペース・コロニー内部を守るために設けられた居住区と宇宙の間にある空間だとか。
そんなことよりも、アスカの興味はホノカが何をしているかの方に移っていた。
「で、マンホールどうすんだよ?」
「今やってます。隙間から風を送り込んで……上に巻き上げるっ!」
ポンッという空気が破裂するような音と共に舞い上がるマンホールの蓋。
ホノカは篭手の先の大きな手で降ってきた蓋を受け止め、そっと道の脇に置く。
一連の行動を見て、アスカは思っていた以上にホノカが魔法を使いこなしていることに感心した。
「ドリーム・エンド……っと。さぁ、テルナ先生を追いかけましょう」
恐らくデカい腕が邪魔になるという理由で返信を解除したホノカが、いの一番にマンホールを降りていった。
───Hパートへ続く




