第33話「変わりゆく“いつも”」【Fパート 秘密の謎】
【6】
「ミュミュ……みんな顔が怖いミュ……どうしたんだミュ?」
「なるほどな。確かにコイツに聞きたいことはたくさんある」
円状の会議テーブルの真ん中に置かれ、不安そうな声を出すミュウへと、アスカは低い声で呟く。
確かにミュウには色々な恩があるが、それと同じくらい謎がある。
死んだはずのアスカが華世そっくりの身体で生き返ったことといい、ここで情報を聞き出すのは悪くない。
「アスカぁ……助けてミュ……」
「う……、ええい! アタシたちは分からないことだらけでちと機嫌が悪いんだよ。質問に正直に答えてもらうぞ!」
「ミュー……」
カラカラと軽い機械音を鳴らしながらうなだれるミュウ。
まずは何から問いただしてやろうかと考えていると、先陣をドクターが切った。
「魔法少女であることを隠せ、と君はアスカに脅し混じりに言ったらしいな?」
「そ、そうだミュ」
「だが華世やホノカ達は秘密にしなくとも特に問題なく活動できている。その矛盾に対し弁明はあるか?」
「ミュ……それは……」
ほんの数秒の沈黙。
しかし、すぐにミュウは言葉を繋いできた。
「魔法少女であることがバレると、魔法少女を守る魔法が消えてしまうのミュ……」
「守る……とは物理的な話か?」
「違うミュ。秘密にしている限り、変身する前と後の姿が同一人物だってわからなくなるミュ。そして、魔法少女の情報が外に伝わりづらくもなるミュ」
「なるほど……自動的に情報統制を行う魔法のために、秘密にする必要があるんですね」
今の話を聞いて、アスカはひとつ腑に落ちた。
生前、地球で魔法少女をやっていたとき……ツクモロズによってどんなに破壊がされても、その事件が公になることはなかった。
魔法少女の存在も活躍も周囲にしか伝播されず、地元では「謎の少女によって怪物が退治されたらしい」と噂される程度。
ネットワークによって惑星間の情報すら短時間で広がるご時世に、情報が広まらなさ過ぎるのは不思議だった。
だが、その恩恵にあやかっていたからこそ家族や親しい人間……ラドクリフにも正体がバレることなく戦えていたのだ。
「そっか! 華世ちゃんは最初の最初にアーミィに暴露しちゃったから、それで守られなくなったんだ!」
「だからお姉さまを知っていれば、お姉さまがマジカル・カヨだということがわかる!」
「まあ、アー君……いや、アーダルベルト大元帥の計らいでアーミィが情報統制を行っていたから、全くの無防備ではなかったんだがな」
ドクターがそう締めくくり、謎の一つが片付いた。
次の質問をしようかとアスカが口を開こうとしたとき、結衣が素早く手を上げた。
「静くん、言いたまえ」
「えっとえっと、アスカちゃんって炎の魔法を使うんだよね?」
「アタシ? ああ、まぁ。そうだな」
不意打ちで自分に飛んできた質問に、慌てて肯定を返す。
ミュウへの質問じゃないのかと一瞬思ったが、結衣の視線はすぐにミュウへと向けられた。
「でねでね、私の魔法も炎なの。炎と炎で被ることってあるのかなって……思ってたの」
アスカはそんなこと、と思いつつも地球でともに戦った仲間を思い出す。
アスカ以外の魔法少女たちは、氷・雷・光の魔法を扱っていた。
もちろん、属性の被りなど起こっていない。
「ミュ……それは、アスカと結衣は世代が違うからだミュ」
「世代? 確かにアタシは生きてたら今頃は高校生やってたんだろうけどよ……」
「違うミュ。魔法少女は1世代に最大で4人生まれるミュ。ツクモロズとの一つの戦いが終わったら、次の戦いは次の世代の魔法少女が行うミュ……」
「なるほど、年齢分布としての世代ではなく、括りとしての世代ということか」
「あれ? でもそうだとすると数が合いませんよ。アスカさんが別世代だとしても華世、私、杏、結衣先輩、それから謎の魔法少女。ひとり多いです」
謎の魔法少女、という言葉の意味は後で聞くとして、ひとり多いのは確かにおかしい。
アスカの代は4人までしか魔法少女は誕生しなかったので、規定人数の方は問題ないのだろうが。
「そ、それはミュ……ガビ……ビガガ……」
急に、音声にノイズのような異音がまじりだし、機械でできたミュウの身体がガタガタと震えだした。
直後、ドクターが素早くタブレットを指で叩く。
すると、ミュウの動きが止まり、静かになった。
「ミュウ、ど、どうしちゃったの!?」
「知っている事柄と起こった事実で衝突を起こしただけだ。封印されていた記憶をアクセス可能にしたが、思い出し方が確立されていないんだろう。強制スリープさせたから、続きはまた今度だな」
冷静にそう言い終えたドクターは、ミュウを再びポケットに詰めて会議室を退出した。
「結局、どういうことですの?」
「アタシ達の戦いはこれからさ……ってことじゃねぇの?」
「なんだか打ち切りみたいですね」
───Gパートへ続く




