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第33話「変わりゆく“いつも”」【Eパート 魔法少女たち】

 【5】


「えっと、私はホノカ・クレイアです。魔法少女としての能力は風で──」


 会議室に集められた少女たちから、順番に自己紹介を受けるアスカ。

 名前と魔法少女として与えられた魔法の特性を聞き、個々人の能力を頭に叩き込む。

 その間に、壁に寄りかかっているドクター・マッドは黙々とタブレット端末に何かを入力していた。


「最後はわたくしですわ」

「……あんた、魔法少女じゃねぇだろ。魔力を全然感じられないんだが」

「なっ……!」


 最後に自己紹介しようとした上品な少女に、アスカは悪態をついた。

 ドクターの話では、ここにいるのは共に戦う仲間の顔合わせとして集められた面々のはず。

 その中に魔法少女ではない人間がいるのは場違いだ、とその時のアスカは思っていた。

 しかめ面をするお嬢様の頭頂部から、目玉がニョキッと生えるまでは。


「言ってくれるじゃん、黒い鉤爪ちゃん」

「な、何だ……? 目玉が喋った!?」

「レス、よしなさい。改めて、わたくしはリン・クーロン。コロニー・クーロンの領主令嬢であり、彼……レスという存在との共生体ですわ」

「共生体……?」


 リン・クーロンと名乗ったお嬢様は、丁寧に説明をした。

 ツクモロズの幹部として動いていたレスが、本当はツクモロズではないことがバレて追放されたこと。

 リンに取り付き華世たちへ復讐しようとするも敗れ、身体の主導権をリンが握っていること。

 取りつかれたことで自由に身体を変形させられるようになり、魔法少女と共に戦うことも不可能ではないことを。


「驚いたぜ。そんな奴までいるなんてな。……悪かったな」

「わかってくれれば良いですわ。わたくしも……まだ実戦の経験はありませんから」

「経験が無くたって、心が決まってりゃ大丈夫だ。誰もが最初は……初めてなんだからな」

「優しいですわね……やっぱり、華世ではない優しさですわ」


 華世……葉月華世。


 自身の肉体のオリジナルとなった少女の名は、目覚めてから何度も何度も聞いた。

 魔法少女なのに機械の力を頼り、嘘のような事実を隠さず、大人をも味方につける傑物。

 アスカは、その名前を聞くたびに自分が中心でない事を嫌でも意識してしまう。


 まるで自分は、長く続いた物語の中に突然投げ込まれた異分子。

 すでに主人公によって出来上がった世界に、土足で入り込んでしまった存在。

 一言で言えば、疎外感。


 目の前の少女たちは、悲しみを堪えている。

 アスカを受け入れようとしつつも、悲しみが壁として隔てている。

 姿かたちは似通っていても、中身が違う別人を無意識に拒んでいる。


 そういう意識が、認識が、アスカの心を蝕んでいた。


「ちょっと、そこのオジョー様は言い方があるんじゃないの!」

「フルーラ!?」


 突然、会議室に飛び込んできたフルーラがリンへと近づき、ぐいっと顔を突き出す。

 ぶつかるんじゃないかという距離まで近寄ったフルーラへと、面食らったリンが口を開く。


「なっ……! あなた、わたくしを誰と存じ」

「知らないよっ! 知らないけど、いつまでもウジウジしてちゃ、アスカに失礼じゃないの!」

「ウジウジって、華世はわたくしたちの希望でしたのよ! わたくしだけじゃない、みんなが……」

「……もう居ない人には、頼れないのよ」


 フルーラの言葉で、ハッとした表情を浮かべるリン・クーロン。

 いや、彼女だけではなく魔法少女たちも同じ顔をしていた。


 皆が華世を喪ったように、フルーラもウィリアムという想い人を亡くしている。

 一時はそのことで自害をしかけるほど彼女は精神を衰弱させていたが、アスカが止めてからかなり前向きになった。


 前を向かなければ、いけないのだ。

 ツクモロズと戦うために、愛する人を守るために。

 まだ生きている人たちのために。


「……そうですね、もう華世は居ません。けれど、私たちは生きています」

「お姉さまを忘れることはできませんが、ももはお姉さまくらいには戦います!」

「このまま悲しんでばかりだと、華世ちゃんに怒られちゃうよ」

「あなたたち……これではわたくしだけ意気地なしではないですの」


 うつむきがちだった皆の顔が、上を向く。

 大事な者を失っても、戦いは終わっていない。

 戦いが終わる日まで、俯く余裕などありはしないのだ。


「アタシもフルーラも、これから一緒に戦うんだ。……よろしくな」


 アスカが伸ばした手に、ホノカが手を重ねる。

 ももが、結衣が、そしてリンが。

 最後にフルーラが手を重ねて、みんなで同時に深く頷く。


「よーっし! 新魔法少女隊、ファイトーっ!」

「「「「「「オーッ!!」」」」」」


 まだ、心が一つになったわけではない。

 これは始まりなのだ。

 みんなの心が、これから少しずつ繋がっていくのだ。


 その始まりの儀式が、いま確かに執り行われたのだ。


 パチパチパチ……と一人の手を叩く音が部屋の角から響く。

 壁に持たれかかっていたドクターが、顔は真顔のまま拍手を送っていた。


「今日は面通しだけの予定だったが、一日も経たずにここまでとは。さすがは魔法少女たちだな」

「博士……そのセリフ、まるで悪役だぜ?」

「自分を善人と思うほどおごってはいない。この調子なら予定を前倒してこいつとの話ができるな」

「こいつ?」


「ミュ……ミュ……」


 ドクターがポケットから取り出したのは、青い身体のメカハムスター。

 その姿と声は、紛れもなく……。


「ミュウ、か……」




    ───Fパートへ続く

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