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第33話「変わりゆく“いつも”」【Cパート 背中合わせの語らい】

 【3】


「……ふむ、特に変身後の異常などはないようだな」

「そうかよ。安心したぜ」


 ドクター・マッドのもとでいろんな検査機械にかけられ、戦闘より疲弊したアスカは深いため息をついた。

 地球で魔法少女をやっていたときは、大人は理解してくれない一種の敵であった。

 いや、事情を解して協力してくれた人がいなかったわけではないが、多くは守る対象であると同時に背後から言葉の棘を飛ばしてくるような存在だった。


 それがいま、一丸となってアスカたち魔法少女を助けてくれている。

 嬉しいような気恥ずかしいような。

 そんな感情がアスカの中に渦巻いていた。


「なぁ博士。アタシの他にも魔法少女、いるんだろ?」

「ああ。現在、協力体制にあるのは君を除いて3人だな」

「協力体制にあるのはって……はぐれ者がいるみてぇな言い方じゃねぇか」

「又聞きでしかないが、謎の魔法少女がひとり我々の預かり知らぬところで動いているらしい。雷の力を扱い、レールガンを装備した者だという」

「……金星の連中はみんな派手に武装してんだな」


 現在、アスカはドクターから渡されたガトリングメイスを装備している。

 それがなければとても、真正面からキャリーフレーム大のツクモロズと戦うことなどできないだろう。


「このあと、時間があれば君と他の魔法少女たちの顔合わせをしたいと思っているのだが、良いか?」

「ダメだ……なんて言わせてくんねぇだろ。どーせ」

「では、準備が整ったら連絡をするからこれを持っておけ」


 そう言って手渡されたのは、ひとつの携帯電話。

 画面を指で押す操作タイプの、アスカも扱いなれた形式のものだった。


「私が私的に使っているもののうちの一つだ。無いと何かと不便だろう」

「ありがてぇけどよ、アタシみてぇな得体のしれないガキによくここまでしてくれるよな」

「残念だがその子供の手も借りねばならんほど切羽詰まっている、と言えば納得してくれるかな?」

「充分だ。じゃあ、呼ばれるまで建物の探検でもしとくぜ」


 ドクターの研究室を後にしようと、扉を開くアスカ。

 彼女の背中へと、ドクターは立ち去り際に言葉を投げた。


「ああ、そうだ。ラドクリフ他キャリーフレーム隊員は、まだ戦場の片付けで戻ってないから探しても無駄だぞ」

「なっ……! べっ、別にラドのことは関係ねぇだろ!!」



 ※ ※ ※



「アスカ、まだ検査中なのかな……?」


 整えてもらった髪を見てもらおうと、辺りを見渡すフルーラ。

 色々と忙しいのか、今は受付カウンターの中にすら誰もいない。


 窓から差し込む、夕方らしいオレンジ色の光に照らされた待合スペース。

 閑散とした広い空間の中に、友人の姿を探して右往左往。


 そうこうしているうちに、フルーラはひとつの人影を見つけた。


(女の子……支部にいるってことはアスカの知り合いかも?)


 エレベーターを使わずに非常階段を静かに降りる少女を追う。

 ひとつ声でもかければよかったのだが、フルーラは彼女を無意識に尾行していた。

 レッド・ジャケットで同年代の少女に声をかけるという経験が皆無だったフルーラには、見知らぬ相手にどう声をかけたらいいかがわからなかった。


(暗い……独房なんかに、あの子は何の用が?)


 尾行してたどり着いた先。

 それは地下に広がる薄暗い独房の列。

 しかし格子の中にはひとつの人影も見えない。

 そんな中を進んでいく少女は、ひとつの牢獄の前で足を止めた。


「スピアさん、ご飯持ってきましたよ」

「ありがとう、結衣さん」


 結衣と呼ばれた少女が、手に持っていた食事トレーを格子の隙間から中へと入れる。

 彼女がトレーを持っていたことに今気づいたのも驚いたが、フルーラは結衣が読んだ名前に強く反応した。


「スピア? スピアがここにいるの?」


 フルーラが突然発した声に、結衣がビクッと驚き跳ね退いた。

 しかしそんなことには一切構わず、フルーラは彼女が語りかけてた相手へと向かう。


「フルーラ……フルーレ・フルーラか?」

「スピア・ランサー……生きていたのね」


 レッド・ジャケットの中で、スピアはランス達ドラクル隊の潜入メンバーを逃がすための殿しんがりを努めたと聞いていた。

 まさか、一人敵地に残り仲間を逃がすために体を張った男が生かされていたとは思わなかった。

 いや、アーミィの人たちの暖かさを知った今のフルーラは、逆に生きていて当たり前かと勝手に腑に落ちた。


「お前こそ……なぜここにいる?」

「色々あって、本当に色々……」

「フルーレ・フルーラ。お前が格子の外に居るということは……アーミィにくみしたと考えていいんだな」

「私は元から、ウィリアムを中心にしか考えてないから。ウィリアムと戦いたいから言う事聞いてたし、今は……死んだウィリアムが住んでいたここを守りたいだけ」

「ウィリアム・エストック……総統の息子が死んだか」


 受け入れたはずなのに、改めて口にし言葉にされると哀しみがぐっと心の奥にのしかかる。

 それでも、流れそうになる涙をこらえてスピアの顔をまっすぐに見つめる。


「スピアこそ、女の子に食事を運んでもらえるなんていい暮らしをしてるじゃない」

「俺は兄さんほど非情になれなかった。だからこの子を助けちまったし、味方したからそこそこアーミィからは良い扱いをしてもらってる。まぁ、見ての通り自由まではいただけてないがな」

「変わったんだね、お互いに……」

「変わっちまったなぁ……」


 お互いに背中を向け合い、同じ格子を挟むように座り合う。

 フルーラやスピア達、レッド・ジャケットの若者たちは、組織の中でしか生きたことがなかった。

 母船で産まれ、艦の中で学び、訓練し、戦う力を身につける。

 そんな中で、フルーラもスピアも戦うための存在として成長してきた。

 しかし、二人が思っていた以上に外の世界は複雑だった。

 複雑に絡み合い、理解の及ばぬ構造をしており、そして魅力的だった。

 だからこそ、中心においていた物事こそ違う二人が、どちらも今ここに居るのだ。


「えっと、フルーラ……さん?」


 顔を覗き込むように前かがみになる、結衣と呼ばれていた少女。

 彼女の真っ直ぐな瞳に見つめられながら、フルーラはゆっくり立ち上がった。


「なにか?」

「あの、あまり長い時間喋ってると、その……怒られますから。そろそろ上がらないと」

「そう……一応ここ牢獄だものね。……スピア、また来るわ」

「来なくていいよ」


 拒否の言葉を背に受けながら、結衣とともに階段の方へと歩き始めるフルーラ。

 一歩ずつ階段を登っていると、結衣が後ろから声を発した。


「あの……フルーラさんって、ウィル君のこと好きだったんですか?」

「……そうね。気づいたときには遅かったけど、好き……だったのかな。あなた、ウィリアムと仲良かったの?」

「同じクラスだったし、華世ちゃんとずっと一緒だったから……あっ」


 足を止め、口を抑える結衣。

 そのまま黙る彼女へと、フルーラは振り返りゆっくりと小さな肩に手を載せた。


「ごめん……変なこと聞いてるかもしれないけど。クラスって、何?」

「へ?」





    ───Dパートへ続く

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