第33話「変わりゆく“いつも”」【Aパート 戦艦落とし】
「ねえ、アスカってさ……ラドクリフっていうお兄さんのこと、好きなの?」
「や、や、やぶっ、やぶっ、藪からボッ、棒だな……!?」
戦艦級ツクモロズ〈ハーコブネイン〉のもとへと向かう道すがら。
キャリーフレームのコックピット内で唐突にフルーラから投げかけられた質問に、アスカは激しく動揺していた。
返答のための言葉を選びながらも、思わず魔法少女服の襟を持ち上げて口元を隠す。
「好きか、嫌いかだとよ……嫌いじゃ、ねぇよ」
「へー、そうなんだー」
「こんなこと話してねぇで、操縦に集中しろよ! もうすぐ敵の場所だぞ!」
「わかった、わかった! わかりましたー! よーし、行っちゃうよー!」
妙に上機嫌になったフルーラが、フットペダルをグッと押し込む。
急加速する機体の中で、アスカは自分の顔が真っ赤になってないかばかりが気がかりだった。
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鉄腕魔法少女マジ・カヨ
第33話「変わりゆく“いつも”」
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【1】
アスカが戦場に着いたとき、地上は火の海と化していた。
轟々と眼下の街が燃え上がる中、空にそびえるツクモロズ戦艦に向けて、攻撃するキャリーフレームが数機。
獣型の機体や量産機の〈ザンドール〉が並び立つあの中に、ラドクリフが乗っているものがあるのだろう。
そんな彼らは、次々と放たれる無数の〈デ・クアート〉に足止めを喰っていた。
「どうする、アスカ?」
「どうもこうもねぇよ。やべえのはあの〈ハーコブネイン〉だ。あいつを潰す!」
アスカの声に呼応するように、フルーラがぐっと力強くフットペダルを踏み込む。
直後に加速する〈ニルヴァーナ〉は、〈ハーコブネイン〉の放つ対空砲火を掻い潜りながら敵戦艦の上を取る。
続いて、フルーラが操縦レバーを操作すると歪曲した幾多もの光線が〈ハーコブネイン〉に降り注いだ。
しかし、その攻撃は浮かび上がった魔法陣の障壁に食い止められてしまう。
「効かない……!?」
「ヤツの魔力障壁だ。あのデカさな上に元は宇宙戦艦だからな……生半可なビームじゃぶち抜けやしないだろう」
「じゃあ、どうしたら?」
「アタシが行く。外に出してくれ!」
言われるがままにコックピットハッチを開放するフルーラ。
アスカはひとつ深呼吸をし、意を決して身体を投げ出した。
頬を空気が叩きつける感覚を受けつつ、真下に向かって手をのばす。
アスカを迎撃しようとする対空弾幕は、光の翼が盾となって防いでくれる。
徐々に近づいてくる敵艦の甲板。
そしてついに、アスカの手が魔力障壁にぶち当たった。
「……弾けろおっ!!」
手のひらから全力で放ったアスカの魔法力が、敵の魔法陣をこじ開ける。
ガラスが割れるようにヒビが入り、砕け散る魔力障壁。
開いた穴に身体を滑り込ませ、内側へと入り込む。
そして重力に身を任せ、ついにアスカは敵の懐へと降り立った。
「さあて、確かヤツのコアは……」
記憶を頼りに、巨大な人型をしている〈ハーコブネイン〉の頭の方へとアスカは駆け出す。
地球でやりあったときは、ここに至るまでに多大な犠牲と苦労を要した。
けれども、同じことを単身であっさりと成し遂げてしまったフルーラ。
凄いやつと友達になれたことを誇らしく思いつつ、アスカはガトリングメイスを振るい、戦艦の顎を叩き割った。
「へへへ……おでましだ」
壊し剥がした装甲面の下から出てきたのは、ドクンドクンと脈打つ巨大な正八面体。
大きさこそ違うが、いまアスカの体内で胎動しているものと同じ物体。
死した自分がツクモロズとして蘇った事実は、すでに聞いている。
自分が何者になってしまったのか。
どういう経緯で蘇ったのか。
気になることは山ほどあるが、今はこのデカブツを倒すのが最優先だ。
露出した敵の急所に狙いを定め、ガトリングの引き金に力を入れる。
このコロニーを脅かす驚異が、燃え盛る無数の弾丸を受けて悲鳴を上げる。
巨大な戦艦の形をした物体が、鈍い音とともにその巨体を霧散させていく中、アスカは輝く翼を広げて飛び上がった。
眼下で崩壊する〈ハーコブネイン〉。
その崩れゆくさまは、まさに地球でアスカが見たあの場面と変わりがなかった。
(変わんねぇのは、相手だけか……)
あの時と違う場所。
あの時と違う仲間。
そして、あの時と違う自分の姿。
何もかもが変わってしまった現実の中で、崩れ行く敵の姿だけは、あの頃のままだった。
「どうしたの、アスカ?」
〈ニルヴァーナ〉のコックピットへと回収してくれたフルーラが、首を傾げつつアスカを横から覗き込む。
柄にもなく感傷に浸っていることを悟られたくなく、アスカは無意識に視線を逸した。
「なんでもねぇよ。なんでもな……そういや、前々から気になってたんだけどよ」
「何?」
「お前のその、素人がハサミで切ったみてぇな髪。なんとかならねぇかな」
アスカにとっては、話題そらしのための何気ない一言だった。
けれども、フルーラはその指摘に対しなんだか思いつめたような表情を返していた。
───Bパートへ続く




