表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
286/321

第32話「黒衣の魔法少女」【Gパート 鉄の衝撃】

 【7】


 呪文を唱えたアスカの身体が、空中で激しい輝きに包まれる。

 身に付けていた衣服が光の中で霧散。

 瞬時に顕になった肌へと、白いインナースーツが覆いかぶさった。

 そのまま光の粒子が腕と足を包み込むようにまとわり、その形を漆黒の長手袋・ニーソックスへと変えていく。

 そして長い髪がぐぐっと持ち上がり、黒く大きいリボンによって結われ、大きなツインテールを形成。

 最後に、黒を基調としたフリフリの魔法少女衣装がアスカの身体を覆い、炎を灯したカンテラがその周囲に浮かび上がった。


「魔法少女、マジカル・アスカ! てめぇらまとめて……黒焦げにしてやらあっ!!」


 変身を終えたアスカは、懐かしいような身体の感覚に身を鳴らしながら、手すりを乗り越え階下へと飛び降りる。

 そのままフルーラの乗った機体を守るように前に出て、正面で立ち上がろうとする〈デ・クアート〉を真っ直ぐに見据える。


「フルーラにゃ指一本触れさせねぇ……!」


 己の魔力を錬成し、発生した熱量を両手のひらへと集結させる。

 そして浮かび上がった2つの火球を、思いっきり敵に向けて投げつけた。


「ソウル・プロージョン!!」


 次々と敵機の胴体にぶつかり、爆発を起こす火球。

 投げるはしからアスカは再度、火球を作り出してはマシンガンのように投げ続ける。

 側に浮かぶカンテラからも火球を連射。

 しかし……。


「ちっ、効いてねぇか……!」


 ありったけの攻撃を叩き込んだにもかかわらず、装甲表面を赤熱させるだけで〈デ・クアート〉は立ち上がる。

 そのまま肘から先のブレード状の部位を変形させ、まるでビーム砲のような形をとった。

 アスカの存在など位にも介さないように、その銃口が徐々に光を収束していく。


「さ・せ・る・かーーっ!!」


 アスカは天使の翼を広げて跳躍。

 自らの体を包むように翅を閉じて防御態勢に入った。

 直後に、〈デ・クアート〉の腕から発射される極太の光線。

 破壊の輝きが、アスカを包み込むように直撃した。


「うああぁぁぁーーっ!! 負けるかよぉぉぉっ!!」


 翼の防御に全神経を集中させ、ビームを耐える。

 背後で起動を待つフルーラを守るために。

 アスカの翼へ直撃した光線は、いくつもの細いビームへと分かれ拡散。

 フルーラ機の周囲で爆発を起こしているが、直撃だけは避けられていた。


「まだかっ……! フルーラ……!」


 アスカが倒れるか、フルーラが動き出すか。

 根比べになった状態で流れる、永遠のような数秒間。

 しかしそのどちらでもない結果で、事態は動き出した。

 金属を打ち貫くような破壊音とともに、ビームが止む。

 ギリギリ破壊を免れた翼で宙に浮きながら状況を確認したアスカは、さきほど火球を当てて赤熱させた〈デ・クアート〉の装甲に一本の金棒が刺さっていることに気がついた。


「なんだ、ありゃあ……? あれを食らってよろめいたのか……!?」

「アスカ、あのガトリングメイスを使え!!」

「誰だかしらねぇが……わかった!!」


 体勢を立て直そうとする敵機体へと接近し、言われた通りに武器を引き抜く。

 それは、アスカの身長よりも長いハンマー部を持つ、人間が扱うには巨大なメイスだった。

 殴る部分から幾多も伸びる刃のような突起の表面が、ニヤつくアスカの表情を映し出す。


「この質量がありゃあ……アタシだって!!」


 ガトリングメイスを握ったまま、翼を翻し高度を上げる。

 そのまま、立ち直ろうとしている敵機の頭まで飛び上がり、渾身のフルスイングをお見舞いした。


「こんちく、しょぉぉっ!!!」


 スイッチが入ったのか、それともアスカの気合に呼応したのか。

 突起が伸びる部分が嵐のように高速で回転し、敵の頭部を削り取る。

 凄まじい火花と轟音が飛び散る中、アスカは全力でメイスを押し付けた。


「だらっしゃあぁぁっ!!」


 回転するハンマーは完全に敵の頭部を削り飛ばし、頭を失った機体からスンと静かになる。

 これで倒せた……とアスカが思ったその瞬間、敵が再び動き出した。


「なにいっ!? まだ生きてんのかよぉっ!?」

『アスカ、上に飛んで!』

「上ぇっ!?」


 反射的に聞こえたフルーラの声に従い、天井近くまで飛び上がるアスカ。

 直後、眼下を通り過ぎる眩い緑色のビーム。

 胴体の中心を貫かれた〈デ・クアート〉は、その場で立ったままボロボロと崩れ始めた。


『間に……あった!』

「フルーラ! サンキューな!」


「ツクモロズが成ったキャリーフレームの急所はコックピット部、つまり胴体だ。覚えておけ」


 床へと降り立ったアスカに歩み寄ってきたのは、ドクター・マッド。

 さっきの声のタイミングと言い方から、アスカの中にもしかしてが浮かぶ。


「助かったぜ、博士。でも……これ、まさか博士が投げたのか?」

「ガトリングメイスだろう? ああ、私が投げた。狙いはバッチリだったろう」

「マジかよ……このハンマーっていうかメイスっていうか、変身してもめっちゃ重く感じるんだが。……力持ちだな、博士」

「褒めても何も出んぞ? それよりも、だ。今すぐふたりは出撃しろ」


 冷たい声で言い放つドクター。

 その言葉が伝えたいことはわかっている。


「ああ、ハーコブネインをなんとかしなきゃ、だろ?」

『でも、私……いいのかな』

「フルーレ・フルーラ。我々はまだお前を信用してはいない。だが、アスカの味方であるということだけは確信している。……頼めるか?」

『……うん。アスカ、乗って!』


 キャリーフレームのコックピットハッチを開け、パイロットシートの上から手招きをするフルーラ。

 アスカはその言葉に微塵も疑いを持たず、壊れかかった天使の翼を広げてコックピットへと飛び込んだ。


「ありがとよ、フルーラ。おかげで助かった」

「私とこの子も助けられたからおあいこ。ハッチ閉鎖、飛ばすわよ……!」


 壁に空いた大穴から、キャリーフレームを跳躍させるアスカ。

 機体の手足がグルンと回転し、まるで戦闘機のような形へと変形する。


 死から蘇った魔法少女と、レッド・ジャケットから転向したパイロット。

 新しいコンビの戦いは、まだ始まったばかりだった。



──────────────────────────────────────


登場戦士・マシン紹介No.32


【マジカル・アスカ】

身長:1.56メートル

体重:53キログラム


挿絵(By みてみん)


 華世そっくりの少女・アスカが魔法少女に変身した姿。

 炎の魔法を操る能力を持っており、魔力を蓄えたカンテラ状のビットを周囲に浮遊させている。

 生前の魔法少女衣装は赤色を基調としていたが、現在はなぜか黒が基調となっている。

 華世と違い魔法少女としての経験は豊富であり、天使の翼を最初から行使可能。

 また、魔力のコントロールにも長けているため、媒介する武器が無くとも手から火球を放って攻撃することができる。


 生前は変身ステッキが変化した鈍器状の武器を活用していたが、現在はステッキが消失。

 代わりにドクター・マッドから与えられたガトリング・メイスを握ることとなった。


 ガトリング・メイスはその名の通り、鈍器として殴打することもできるガトリング砲である。

 銃身の冷却サイクルを生み出すための回転はメイスとして活用する際にも活躍。

 側面から幾多も伸びる刃のような突起が、殴った相手の表面をえぐり取ることで破壊力を上げている。

 もちろん射撃攻撃も可能であり、キャリーフレームの装甲にもダメージを与えられる大型弾を高速連射する。



【デ・クアート】

全高:8.5メートル

重量:不明


 ツクモロズが擬態したクアットロが、その姿を変質させたツクモロズキャリーフレーム。

 元のクアットロの姿が溶けたように滑らかな外見をしており、全身の装甲が鈍い銅色をしている。

 腕からは手のような部分が完全に廃され、状況に応じてブレード状、あるいはビーム砲へと変化させ攻撃を切り替える。

 形状は元のキャリーフレームからかけ離れた外見になっており、コックピットハッチに当たる部分も消失している。

 しかし内部にコックピットに当たる空洞があり、そこに核晶コアも存在するため弱点であることは変わっていない。



 【次回予告】


 戦艦型ツクモロズ、ハーコブネインに立ち向かうアスカ。

 彼女の存在によって、周りにいる人間の毎日が少しずつ変化していく。

 そんな中、華世の身を狙うオリヴァーが行動を起こす。


 次回、鉄腕魔法少女マジ・カヨ 第33話「変わりゆく“いつも”」


 ────続くと思った当たり前は、いともたやすく崩れ去る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ