第4話「パーティ・ブレイク」【Aパート 誘い】
魔法少女として、ツクモロズに勝利すれば、願いが叶えられる。
それは、華世が初めて魔法少女になった夜に、ミュウから聞かされた言葉。
勝利とは即ち、ツクモロズを束ねる存在の打倒。
それが何者か、そして願いがどのように叶うかは、ミュウ本人も知らないという。
けれども彼の発言に嘘偽りを感じなかった華世は、たった一つの希望をいだき、力を振るう。
すべては魂の奥底に秘めた、願いを叶えるために。
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鉄腕魔法少女マジ・カヨ
第4話「パーティ・ブレイク」
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【1】
闇の中に、天井から降り注ぐ淡い光だけが照らす空間。
暗い回廊の最奥に位置する、謁見の間といった大部屋に、音もなく二つの人影が現れる。
「帰ったよ、バトウ爺さん。ザナミはどこだい?」
二つの影の一つ、少年の姿をした方があたりを見回しながら正面に立つ老紳士へと問いかける。
老人は杖を握った手をワナワナと震わせながら、少年へと声を張り上げた。
「レスよ、ザナミ様をそのように軽薄に呼ぶことは許さんぞ!」
「別に、僕は君たちみたいに忠義で従ってるわけじゃないし。なあセキバク」
少年──レスが、隣に立つ三度笠の男へと視線を向けた。
呼ばれた三度笠の男、セキバクは数秒の思案の後、軽く息を吸ってから静かに口を開く。
「秋彼岸、生命得たりは、誰ゆえに。誘いありては、道の標か」
「……ごめん、君に同意を求めるのは間違いだったね」
真意のわからない短歌を耳にし、やれやれと両腕を広げて呆れるレス。
舐め腐った態度に業を煮やしたのか、バトウという名の老紳士が杖で床を突き鳴らした。
「ザナミ様は今、アッシュの奴と地下で何か話し合うておる。それよりも、そちらの視察はなにか益はあったかの?」
「ああ、もう十分すぎるほどにね。君を打ち破った、あの……君が鉤爪の女と呼んだ娘。あれはなかなか良いね」
「獣の如き闘争本能と頑強さ。若くして修羅を極めしその気迫」
「あの娘がいれば、そこまで時間をかけずに目標を達成できそうだよ。あ、そうだった忘れてたよ」
ふふん、と鼻を鳴らしながら自身の影にあった石像をバトウの前へとスライドさせた。
それは心臓の部分に大きな穴が空いた、女神を象った彫像。
鉤爪の女がコアを抜き取り仕留めた、マリアと呼ばれた女そっくりの像だった。
「我らの同志となるに足る、ツクモ獣の依代だ」
「コア入れ、爺さんよろしくね」
「レスよ。そなたはどこへ行くつもりじゃ?」
立ち去ろうとするレスを、老紳士が呼び止める。
しゃがれた声に反応するのも面倒くさいレスは、視線だけ後方に向けた。
「最近ツクモロズの発生が少ないからさぁ、ちょっとつつきに行くだけさ」
そう言うと、レスは自らの影に潜り込むようにして姿を消した。
【2】
「今夜、わたくしの屋敷でお誕生日パーティを行いますわ!!」
コロニー「サマー」で起こった事件解決から一週間ほど経ったある日。
朝のホームルームの終わり際にリン・クーロンが言い放った言葉に、クラスメイトたちは沸き立った。
何故そんなに盛り上がっているのかわからない華世は、隣の席の結衣を指でツンツンと突く。
「えっ、喜んでる理由? そりゃあだってクーちゃんのお屋敷でご馳走が食べられるからだよ!」
「そんなに大々的なパーティをやるの?」
「華世ちゃんは去年は違うクラスだったから知らなかったね。ドレス姿のクーちゃん、かわいかったなぁ」
華世は面倒くさいなと思いつつも、怠慢で不参加を決め込んではメンツに関わるな……とも考えていた。
誘いを受けた祝いの席に出向かないようでは、書類上とはいえアーミィ大元帥の娘としての経歴に傷がつく。
「参加者は今から端末を回しますので、表に自分の名前をお書きなさい! オ~ホッホッ!」
何故か高笑いしながらタブレット端末を教室の端の列から回し始めるリン・クーロン。
彼女は間違い入力が起こらないのを確認するためか、回っていく端末の横について回りニコニコしながら頷いていく。
数分がたち、ようやく華世の元へと回って来た時、隣に立つリンが露骨に嫌な顔をして口を歪める。
「……何よその顔。ケンカ売ってるの?」
「違いますわよ! 別にぃ? わたくしぃ? あなたなんかに祝っていただかなくてもぉ? よろしくってよ?」
「はい参加しまーす、っと」
「うごぉぉっですわ」
ノックアウトされたようにのけぞり、黒髪に包まれた頭を両腕で抱えるリン。
後ろの席へとタブレット端末を回してから、華世は頬杖をついて流し目で、苦しむお嬢様を睨みつける。
「参加してほしくないなら直接そう言いなさいよ」
「違いますわ! あなたのような野蛮人が参加しようとも、わたくしのパーティには何の問題もござりませんもの!」
「おいコラてめぇ、今あたしを野蛮人って言ったわね?」
「何のことやら? あらあら端末が進んでますわ」
その場から逃げ出すように、リン・クーロンは後ろの席の方へと駆けていった。
彼女が離れていったのを確認してから、隣の席の結衣が身を乗り出して耳打ちする。
「華世ちゃん、クーちゃんと仲悪いよね」
「あのリン助が突っかかってくるだけよ。あたしとしちゃあ別に、向こうから何もしてこなきゃ眼中に無いって感じ」
「クールだねー」
結衣の評を聞き流しながら、華世はフゥとため息を吐いた。
───Bパートへ続く




