第31話「復讐の結末」【Jパート 生き残る者】
『フルーレ・フルーラ……くっ!!』
助けを呼ぶ声に、機体を人型へと変形させるウィル。
自分を助けてくれるという一瞬の喜びが、瞬間的にその行為の果てに起こることを想起させ絶望へと変わる。
「ウィリアム……!?」
『俺って本当に……お人好しだな』
フルーラの〈ニルヴァーナ〉の後方へと回り込んだ〈ニルファ・リンネ〉が、目いっぱいのミサイルを壁へと放った。
一箇所で起こった爆発、その爆風と衝撃波が〈ニルヴァーナ〉を勢いよく押し上げる。
崩壊しながらも瞬間的に急加速する機体、遠ざかっていく爆炎の嵐。
けれども、いてほしいはずの存在は後方にすでにない。
『華世、ごめん……。迎えに行けそうにな────』
ノイズと共に聞こえなくなる、ウィルの声。
やっとわかりあえたのに。
やっと褒めてもらえたのに。
やっと気づいたのに。
「ウィリアムゥゥゥゥッ!!!」
けれどももう、隣にいてほしい人はいなくなった。
破裂するように爆発する研究所を後方に見据えながら、フルーラは大粒のナミダをこぼし続けていた。
「ううっ……ウィリアム……ウィリアム……!」
何度呼んでも、返事は帰ってこない。
爆発から投げ出された機体が慣性のままに宇宙を漂うのを防ぐためのブレーキが、消えていく爆炎をフルーラの視界から離してくれない。
はるか遠くに見えるコロニー・サンライトの外壁が、太陽の光を反射する。
鬱陶しいくらいに眩しいその輝きだったが、それはフルーラにひとつの気づきを与えてくれた。
「女の、子……?」
フルーラが見たのは、ノイズだらけのモニターのひとつに映し出された宇宙に漂う一人の女の子。
それは一糸まとわぬ姿なれども、淡い光の球体に包まれ、神秘的な輝きを放っていた。
彼女を包む半透明の殻のような不思議なオーラ。
流れるような金髪と、目を閉じながらも感じられる凛々しい顔立ち。
それは、時々ウィルとの通信越しに顔を見ていたあの少女そのものだった。
フルーラはコックピットハッチを開け、少女を機体の中へと機体の腕でそっと引き込む。
気づけば、脱出劇の衝撃で機体はすでに片腕がもげ、頭部をひどく損傷し、両足に至ってはスクラップも同然の有様になっていた。
裸のまま眠る少女を膝に載せたフルーラは、涙を拭ってコンソールを操作。
受信相手を問わない、広域へのSOS信号を発信する。
「ウィリアムの代わりに……私が、この娘……を……」
ふっと、フルーラの意識が遠くなる。
ウィリアムとの激しい戦い、彼を失う脱出劇、そして神秘的な少女の救出。
立て続けに起こった激しい感情の渦は、フルーラの体力を使い果たしていた。
助けた少女と共に眠りについたフルーラ。
彼女が機体とともにコロニー・アーミィへと回収されたのは、それから1時間後のことだった。
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登場戦士・マシン紹介No.
【マジカル・ホノカ・イグニッション】
身長:1.49メートル
体重:63キログラム
魔法少女としての真の力が覚醒したホノカ。
微弱な風を操るだけだった「風」の魔法は、気流だけでなく周辺の大気の組成をも変化させるものへと進化。
燃焼効率の良い気体成分へと周囲の空気を変化させることで、青白く輝く高温の炎を発生させられるようになった。
得意のピンポイント爆破も精度・威力ともに大きく増しており、これまた青い爆炎を伴う小さくも強力な爆発を起こして戦うことができる。
爆発を自らの背、または足裏で起こしその爆風で加速する突撃技「イグナイト・ブレイカー」も習得。
この技名は、サブカルチャー文化に染まったがためにホノカの中に生じた「技名を叫びたい衝動」が形になったものである。
覚醒したことによって普通であれば最初から飛行に使うことのできる「天使の翼」も使えるようになった。
また、魔法少女衣装もこれまでインナーとして着ていた魔法少女服と上着のシスター服が融合することで、雪のように白いシスター服へと変わった。
後の研究で魔法少女の衣装が変化するこの現象は、魔法少女が属する文化や風土を魔法側が吸収したために起こったことだということがわかった。
【レイビーズ(神獣化)】
全高:9.1メートル
重量:不明
氷で出来た狼型ツクモロズ、レイビーズが敗北のストレスによって神獣化した形態。
四つ脚で歩行する狼そのものだった通常形態から一転し、狼男のように2本脚で立つようになった。
もともとレイビーズそのものがツクモロズの中でもイレギュラーな存在であったが、神獣化によって人に近づくのもまたレイビーズのみに起こり得る事象である。
その身体がどれだけ破壊されようとも周囲の氷雪を吸収して修復が可能。
それどころか必要に応じて狼の姿すらも捨て無数の氷の腕を生やすなど、戦闘に関してなりふり構わない姿が見られた。
透き通った氷の身体をしているがゆえに、弱点である核晶は外から丸見えとなっている。
【オルタナティヴ・イグニッション】
全高:8.2メートル
重量:16.4トン
魔法少女として覚醒したホノカが乗り込んだことで、真のパワーを発揮したオルタナティヴ。
真の性能が引き出されたことで、表面装甲に備え付けられていた電磁バリアーが駆動。
それに伴い、装甲の色が漆黒から鮮やかな朱色を伴ったものへと変化した。
もともと、この機体の動力炉は過去に来訪した異界人によってもたらされたいわば魔力炉と呼んで差し支えのない代物であった。
しかし開発の途中で異界人の協力が得られなくなったことで、完成した魔力炉を起動できる人間がいなくなり、それが原因で「失敗作」として扱われていた。
ホノカのみが操縦できたのも、魔法少女としての力をわずかに持つゆえであった。
真のパワーが発揮されたとはいえ、元から装備していた武装は火力が向上した程度に留まっている。
これは、装備している武装が元々、失敗作扱いされていたオルタナティヴの付属品として装備されていたもの故。
【ノグラス】
身長:1.6メートル
体重:不明
華世の恩師、矢ノ倉寧音が86代目ツクモロズ首領としての正体を表した姿。
両肩の後ろから二本の腕の生えた、四ツ腕の骸骨といった姿をしている。
手に握る4本の斬機刀は華世が持つものと同じ物ではあるが、年季が入っているため華世のものよりやや脆い。
4本の斬機刀を自在に操る刀剣術は、義手のサブアームを利用した四刀流剣術をそのまま取り入れている。
【次回予告】
かくして、少女は復讐を遂げたが、失ったものは大きかった。
皆が喪失感に打ちひしがれる中に起こる襲撃へと、ひとりの少女が立ち上がる。
それは黒い衣装に身を包んだ、6人目の魔法少女だった。
次回、鉄腕魔法少女マジ・カヨ 第32話「黒衣の魔法少女」
────新たな出会いと絆が、人々を奮い立たせる。




