第31話「復讐の結末」【Hパート 命獲り】
【8】
変形を伴ったビーム・セイバーの一閃。
上下左右へと激しい揺さぶりを利かせたフルーラの猛攻を、ウィルは的確に捌いていく。
飛び退くように距離を離したら、ミサイルの放射。
流れ弾が中央の装置へと当たらないよう、ウィルは戦闘機形態のスピードを活用して弾頭を引き付けながらそのすべてをビーム・ライフルで迎撃。
爆煙の向こうから再び迫りくる〈ニルヴァーナ〉の格闘戦に、再び人型へと変形。
ビーム・セイバー同士がぶつかり合う閃光が、何度も戦場となった白い空間に瞬いた。
完全に受け身となっているウィルだったが、それは狙っている勝ち筋のためであった。
リミッター解除を伴った激しい攻防戦だが、決して無限に続けられるわけではない。
加減速はもちろんだが、特に移動方向の変更には多量の推進剤を消費してしまう。
その推進剤切れを、ウィルは狙っていた。
(やっぱり……移動しているよな)
フルーラの激しい攻撃をいなしながら考え込むウィル。
思考を巡らせる要因は、レーダーに映る自機の座標のうち、コロニーからの相対座標の変化。
戦闘機動によるものだけではない、例えるなら今戦っている空間ごと移動していると感じるのは、決して気のせいなどではなかった。
(施設全体が、コロニーから離れている……?)
その理由までは思考を割く余裕がない。
鬼神の如く攻めたてるフルーラの攻撃が、捌ききれなくなっていた。
そうして訪れる、一瞬の判断ミスが招いた最悪の事態。
フルーラが放ち、ウィルが迎撃しそこねたミサイル。
その弾頭が、流れ弾が、ついに中央の大型装置へと突き刺さった。
──突き刺さってしまった。
※ ※ ※
華世が振り下ろした渾身の一撃が、ノグラスの交差した2本の斬機刀で受け止められる。
刃同士がぶつかり合う箇所から火花が散り、動きが止まった華世へと残り2本の斬機刀が挟み込むように両サイドから迫る。
華世は受け止められている斬機刀に力を入れ、自身の体を持ち上げる支柱として飛び上がり攻撃を回避。
空中で相手の刀身を蹴りつけ後方へと飛び退きつつ、義手から放ったビーム・マシンガンを浴びせる。
けれどもノグラスは4本の斬機刀を巧みに振り回し、その光弾すべてを切り捨てた。
「甘いよ、葉月華世! それではこの私の核晶に触れることなどできぬ!」
骸骨と化した上半身、その肋骨の中で脈動する正八面体を、ノグラスが指し示す。
相手が恩師であることも忘れ、放たれた言葉も耳に入らない華世は、言葉を一つも返すことなく再び斬機刀を構え突進する。
幾度となく金属同士が触れ合う音が、展望室へとこだまする。
華世の放つ斬撃は、決して速度で劣るものではない。
しかしノグラスの4つの腕、4つの斬機刀がそれぞれ意思を持っているかのように攻撃をいなし、ただ華世の体力だけを消耗させていく。
「どうした、華世! 私はお前の仇だぞ!」
「はあぁぁぁ……!!」
もはや吐息か咆哮か。
人の話す言葉にもならない声を上げながら、華世は攻撃を止めない。
そこにあるのは作戦も勝ち筋もない、ただ我武者羅なだけの前進だった。
「お前でも私は殺せないか! 私の見込み違いだというのかね!?」
「…………」
「理性の欠片もない攻撃では、私は倒せんぞぉぉっ!!」
全身を回転させつつの、竜巻のようなノグラスの反撃。
咄嗟にバックステップで回避するが、華世の頬に横向きの傷が2つ入り、鮮血が宙を飛ぶ。
けれども、ボタボタと流れ落ちる自らの血を顧みず、華世は斬機刀を構え直す。
「うあぁぁぁっ!!!」
叫びとともに行うは、床を踏み抜きながらの跳躍。
両手で柄を握り、斬るではなく突く構えのまま、人工重力に身体を載せる。
「華世……悪いがここま────っ!?」
その瞬間、爆音とともに発生した振動がノグラスを襲った。
よろめき、体勢が崩れたノグラスは3つの斬機刀を床へと突き刺し転倒をふせぐ。
しかしそれは、華世の一撃を防ぐための刃を減らすことと同義。
空中ゆえに振動を受けなかった華世は、そのまま無防備となったノグラスへと斬機刀を押し込む。
パキィン……!
渾身の一撃を側面に受けたノグラスの斬機刀、その刀身が跳ねた。
同時に障害を失った華世の斬機刀が、ノグラスの核晶を貫いた。
時が止まったように、静寂を取り戻す展望室。
いま、少女の復讐は達成されたのだった。
───Iパートへ続く




