表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
276/321

第31話「復讐の結末」【Gパート 宿る修羅】

 【7】


「ここは……!?」


 天井の低い駐車場を抜けた先。

 白い壁面に囲まれた、だだっ広い空間にウィルは入り込んでいた。

 キャリーフレームが小さく見えるほどの、広大なドーナツ状の通路。

 そしてその中心には、まるで宇宙戦艦のエンジンのような物々しい巨大な装置が唸り声を上げていた。


『あっははは!! 足を止めるなんて、死にたいのぉっ!?』


 異質な光景を前に呆気にとられていた一瞬。

 距離を詰めたフルーラの〈ニルヴァーナ〉が人型への変形と同時に光の刃を振り上げていた。

 ウィルも〈ニルファ・リンネ〉を変形させビーム・セイバーで受け止める。

 しかし、ウィルの注意はどんどん唸り声を大きくする中央の機械へと向いていた。


「フルーラ、まずい! ここは……!」

『弱気なるなんてらしくないわねぇ! ウィリアム! 私の本気を、そんなに見たくないの?』

「本気だって……!?」

『いくわよ……リミッター解除!』


 そうフルーラが発言した直後、彼女の機体が視界から消えた。

 咄嗟に戦闘機形態への変形と、それに伴うスラスター位置の変化課程への全力ブースト。

 あまりにも鋭すぎる、〈ニルヴァーナ〉の放った一閃はギリギリの所で空を切っていた。

 距離を取ろうとバーニアを噴射させるウィルだが、〈ニルファ・リンネ〉の速度以上にフルーラ機は加速。

 正面に回り込まれてからの急速反転、流れるような変形からの斬撃がウィルを襲う。


「この速さ……フルーラ、君はクロノス・フィールドを切ったのか!?」

『さすがウィリアムね! 命を懸けた差し合いに安全装置なんて無粋でしょう!?』


 コックピットごとパイロットを保護するシステム、クロノス・フィールド。

 それをオフにすることにより、完成制御システムでも防げないほどの肉体への負担を無視した運動性を実現できる。

 そして、ウィルとフルーラは……。


『あなたも切りなさいよ! ウィリアムも私も、これくらいのGに押しつぶされるほど、ヤワに作られてないでしょう!!』

「そう……そうだけどっ!!」


 ウィルに迷う権利はなかった。

 このままクロノス・フィールドを解除しなければ、運動性に勝るフルーラへの勝ち目はない。

 そしてウィルには、生きて帰らなきゃいけない理由があった。


「俺は、華世を迎えに行くまで……!」


 素早い手付きでコンソールを操作するウィル。

 多重に出てくる警告文全てにイエスを押し、ついに〈ニルファ・リンネ〉のフィールドを無効化する。


「迎えに行くまで、負けるわけにはいかないんだぁぁっ!!」


 修羅と化した〈ニルファ・リンネ〉のカメラアイは、ウィルの気迫に呼応するように真っ赤な輝きを放った。



 ※ ※ ※



 静まり返った無人の廊下を、華世は歩く。

 時折まるで建物全体が揺れるような振動を感じるのは、別のところでウィルが戦っているからだろうか。

 そんなことを考えながら、華世は展望室と書かれた扉の前で足を止めた。


「この先に、あたしの仇が……」


 そう確信しているのは、これまで得た情報もある。

 しかし何より建物全体から感じられる妙な気配が、華世のその考えを肯定していたのだ。

 その感覚に、どれだけの信憑性があるだろうか。

 などとは考えられないくらい、華世は仇討ちという人生をかけた目的に突き動かされていた。


 斬機刀を片手で握ったまま、ゆっくりと扉を押し開ける。

 隙間から見えた展望室の中に見えるのは、背を向けたひとつの人影。

 華世は一気に部屋へと踏み込み、両手で斬機刀を構えた。


「……あんたが、あたしの故郷を滅ぼしたツクモロズね」

「よく来たね。葉月華世……」


 故郷、友達、そして両親の仇であろう人物が放った声に、華世は思わず目を見開く。

 聞き間違えるはずがない、しゃがれた声。

 

「そうとも、私が、私こそが……あなたの仇であるツクモロズですよ」


 ゆっくりと振り向くツクモロズ。


 優しくも威厳のある眼差し。

 歳の割にはシャキッとした立ち姿。

 そして……。


「そんな、どうしてあんたが……。いえ、あなたが……!?」


 思わず飛び出た言葉を、華世が敬語に直す唯一の存在。


「私は86代目ツクモロズ首領、ノグラス。そして人間としての名は……」

矢ノ倉(やのくら)……寧音しずね、先生……!」


 華世が義体へ慣れるためのリハビリで、面倒を見てくれていた人物。

 そして、斬機刀を始めとした刀剣術の学び手にして、宇宙体術を叩き込んでくれた師。

 矢ノ倉(やのくら)寧音しずねが、そこに立っていた。


「そんな……デタラメです、よね……!? 矢ノ倉(やのくら)先生が……あたしの故郷を……。それとも、誰かが先生に化けて……?」

「私が本物であるかは、あなたが一番わかっているでしょう。華世」


 認めたくない現実が真実であることを、矢ノ倉(やのくら)の言葉が突きつけてくる。

 発される声も、言葉も、そして体運びに気配。

 彼女の一挙手一投足すべてが、決して紛い物による真似事ではないことを語っている。


「ど、どうして……。それなら、どうして先生はあたしを鍛え……? いえ、なぜスプリングを滅ぼしたんです!?」

「華世、それを言うことはできないのよ。私はツクモロズで、あなたは魔法少女。その間に生まれるのは、逃れられぬ戦いだけ」

「嫌です……。あたし、先生と戦うなんて……」


(殺れ、奴は仇だぞ!)


 華世の心の中で、誰かが叫ぶ。

 思考の中がドス黒く染まり、闘争本能が掻き立てられる。


「ダメ……そんな言葉に従っちゃ……あたしは……!」


 自分の内から湧き出る衝動を抑えようとするが、絞り出されたか細い声は空へとかき消える。


「いい目を、するようになったじゃないか」


 パキパキ……と古枝の折れるような音とともに、矢ノ倉(やのくら)の皮膚が剥がれ落ちる。

 その下から現れたのは、邪悪を色にしたかのごとく紫色を光らせる、人間の骸骨。

 そして背中を包むケープが持ち上がり、第3、第4の骨の腕が顕となった。

 そして、4つとなった腕全てに握られるのは、4振りの斬機刀。


「そうだ、殺せッ! 故郷の敵である私をっ! それが華世、お前の使命のはずだっ!」


 骸骨に変貌し、もはや別人かのように声質が変化した矢ノ倉の声が、華世を突き動かした。


「逆らう……奴は……」


 降ろしていた斬機刀を握り直し、構える華世。

 溢れ出る憎悪で真っ赤に染まった視界に映るのは、倒すべき敵。


「八つ裂き、よ……!」


 自分の言葉を追い越すように、華世は矢ノ倉(やのくら)へと……いや、ツクモロズ・ノグラスへと飛び掛かった。





    ───Hパートへ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ