第31話「復讐の結末」【Fパート 執念】
【6】
もうどれくらい戦っただろうか。
無尽蔵にツクモロズによって生み出されたキャリーフレームを吐き出す〈戦艦級ツクモロズ〉。
ビーム・ライフルで貫き、セイバーで切り裂く。
〈エルフィスサルファ〉の翼から放つ光線の嵐を浴びせても、敵は次々と湧いて出てくる。
共に戦う仲間たちも、無数に現れる敵機に押しつぶされそうになっていた。
『くっ……! このままやと終いやで!』
『おい内宮、さっさと戦艦を落とせないのか!?』
『隙間をぬって攻撃はしとるけど……!』
そんな通信を聞きながら、咲良もまたビーム・スラスターの収束ビームを戦艦へと放つ。
しかし巨大な魔法陣にも見える障壁がビームを妨げ、かき消してしまう。
けれども、攻撃が完全に防がれているわけではなく、僅かに貫いた光線が光の尾を宇宙空間に伸ばしていた。
そして、この問題に対する解決法も裏で動いている。
『キャリーフレーム隊、直ちに本艦の射線上より退避せよ!』
「遠坂艦長、わかりました!」
通信に応じて戦闘を中断する咲良。
母艦である〈アルテミス〉への帰艦ルートに乗りながら、追ってくるキャリーフレームをビームで牽制する。
『空間歪曲砲、発射!』
直後に〈アルテミス〉の艦首から放たれる、半透明のエネルギー砲。
宇宙空間に走る歪みそのものであるそれは、先程まで咲良たちが戦っていたキャリーフレームを次々と飲み込んでいく。
「すごい……!」
特殊なビームに飲み込まれた敵機体は、その中で空間ごとグニャリと曲がっていき、やがて崩壊。
直後にエネルギー機関が暴発したのか、赤い閃光を放つ花火へと変貌していった。
キャリーフレームを飲み込みながら進む空間歪曲砲はそのまま〈戦艦級ツクモロズ〉へと到達。
一瞬こそ魔法陣によって防がれたかに見えたが、そのまま戦艦まるごと空間の歪みに飲み込まれていった。
そして、キャリーフレームのものとは比較にならない大きさの爆発が敵戦艦から発生。
眩い光が収まった後には、もはや細かい残骸以外何も残っていなかった。
「艦長も人が悪いですね~。こんなにすごい武器があるなら最初から使ってくれれば……」
『葵少尉。この兵器は本来、地球人類が対処できない驚異へのものなのだ。相手がツクモロズゆえに許された発射だと覚えておいてほしい』
「はい……」
シリアスな低い声でそう話す艦長の言葉に、咲良は思わず二つ返事。
とにかく、この場はようやく収まった……と次の通信が入るまでは思っていた。
『艦長! オータム周辺宙域にて所属不明艦が多数出現! 集結中のアーミィ部隊が攻撃を受けています!』
『なに……! 艦種の照合は!』
『……先程のツクモロズ戦艦に酷似しています!!』
※ ※ ※
『ウィィィリァァム!!』
「くっ、フルーレ・フルーラか!!」
「毎度毎度……しつこい女ねぇ」
現れるやいなやビーム・セイバーを振り下ろしてきた〈ニルヴァーナ〉の攻撃を、とっさの変形から同じくセイバーで受け止めるウィルの〈ニルファ・リンネ〉。
連絡を受けて華世を拾い、機体に乗せた矢先の襲撃だった。
「ウィル、このまま街の上で戦うのはマズイわよ」
「わかってる! このまま研究所に突っ込むしかない……!」
ウィルの素早い手付きで再度〈ニルファ・リンネ〉が戦闘機形態へと変形し、バーニアを全開に加速する。
その後をすぐに追ってくるフルーラ機と共に、ものすごい勢いで街の上空をかっ飛んでいく。
「研究所に突っ込むって……窓から機体ごと突入なんて言わないわよね?」
「あの施設には資材搬入路から繋がる、コロニーのアーマー・スペースのような空間がある! そこでなら充分に戦えるはずだ!」
「あるはずって、その情報はどこから?」
「わからないけど……この機体にインプットしてあった。もちろん華世、君の送り届けも忘れちゃいないさ!」
ピピピという警告音がすると同時に機体を捻りつつ人型へと変形させるウィル。
そのまま、コロニー内だというのに放ってきたフルーラのミサイルをビーム機銃で速やかに撃墜。
迎撃で速度の鈍った〈ニルファ・リンネ〉へと追尾レーザーが放たれるが、目にも留まらぬビーム・セイバーの太刀筋がそのすべてを弾き消す。
そのまま〈ニルヴァーナ〉へと牽制のビームをお見舞いしてから、再び戦闘機形態へと変形し加速した。
「つくづく、あんたも大したものねぇ」
「お褒めの言葉どうも! そろそろ下ろすよ!」
「……この速度で射出なんて、あんたじゃなきゃ許さないわよ」
ついに目の前に見えたコロニーの端。
そしてコロニー内壁から道路で通じる大きな四角い入り口へと、〈ニルファ・リンネ〉が戦闘機形態のまま突入する。
「絶対に……絶対に君を迎えに来るからね!」
「当たり前でしょ!」
駐車場のような空間に入ったウィル機は、そのまま少しだけハッチを開放。
華世はその隙間から身体を乗り出し、機体から飛び降りた。
「こんっのぉぉぉ……っ!!」
体制を整えつつ、義足足裏から伸ばしたナイフと斬機刀をアスファルトの床面へと突き刺し、ブレーキをかける。
そのさなか華世の側を、ウィルを追うフルーラの機体が通過。
風圧でバラバラになりそうな感覚を無理やりこらえ、華世は十数メートルほどの距離をかけてやっと停止した。
「……ふぅ、我ながら無茶やるわ。さぁて」
この空間に足を踏み入れたときから膨らんでいた違和感が、しっかりと輪郭を帯びる。
こんなに広大な駐車場なのに、使われているはずの施設だというのにひっそりと静まり返っている。
情報によれば、ここに華世の両親、そして故郷の仇がいるはず。
なのにまるで誰もいないかのように静かな空間は、やけに片付けられた綺麗さがあるのも含めて不気味だった。
「……このクソ広い施設のどこにいるのかしら。うっ…!?」
突然、全身を逆撫でるような不快感が華世を襲った。
まるで特定の場所へと導くように、妙な気配が一方向から感じ取れる。
「呼んでる……? このあたしを……!」
感覚の赴くまま。
導かれるままに、華世は正面に見えた階段へと駆け出した。
───Gパートへ続く




