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第31話「復讐の結末」【Eパート ホノカ流の戦い】

 【5】


「吹雪が晴れた……? 今なら!」


 ナノハにフェイクを任せ、生命科学研究所へと走っていた華世。

 流石にコロニーの半分近くを移動するのは大変なので、ウィルへと通信を回せるタイミングをはかっていたのだ。


「ウィル、ウィル! 時間通りならもう着いてるわよね!」

「華世! すごい吹雪で出られなかったんだけど……大変なんだ!」

「大変?」

「さっきホノカちゃんの機体が勝手に出て行っちゃってさ……俺どうしたらいいか」


 確かに彼の言っていることは大問題だ。

 けれど、華世はいまそれに気を配る余裕はなく、「放っておきなさい!」と食い気味に返答した。


「でも……」

「でももしかしもない! ウィル、あたしの位置を送るから迎えに来て! あんたのエルフィスならすぐでしょ!」

「脱出するのかい!?」

「逆よ、攻めに行くの……!」



 ※ ※ ※



「勝つ算段なんて……あの巨大なツクモロズにどうやって対抗するつもりですの?」

「なんとなくわかるんです……フェアリィが来てるって!」

「フェアリィ? あっ……!」


 リンが震える手で上空を指差す。

 その指差した先では、巨大化した狼ツクモロズが真っすぐにこちらを見つめていた。

 標的を見つけたと言わんばかりに、氷でできた牙をむき出しにしながら巨大な腕を振り上げる。

 その時だった。


「来てくれた……私の〈オルタナティヴ〉!」


 黒い装甲に包まれたキャリーフレームの足が、巨大な狼の横っ面を蹴り飛ばす。

 バランスを崩した敵が公園の木々をなぎ倒しながら倒れる中、巻き上がった雪煙を背景に〈オルタナティヴ〉がホノカの目の前に降り立った。


『お迎えに上がりました、マスター』

「ありがとう、フェアリィ。よく私の望んでいることが分かったね?」

『増大したあなたの魔力が、私をここへと呼び寄せましたから』


 やっぱり、とホノカはほくそ笑んだ。

 この〈オルタナティヴ〉というキャリーフレームが、ホノカしか動かせなかったわけ。

 それはこの機体が、経緯はどうあれ搭乗者の魔力を介して動いているということだった。

 これまでの操縦の中で、神経接続を超えたマシンとの妙な一体感を感じていたホノカ。

 魔法少女としての覚醒を経て、それは確信へと変わっていた。


 強い想いで呼べば応えてくれる。

 それが特別なキャリーフレーム〈オルタナティヴ〉の真の力だったのだ。

 ホノカは階段のようになったコックピットハッチを登りつつ、リンへと手を伸ばした。


「一緒に乗ってください、リンさん!」

「わ、わかりましたわ……!」


 二人で乗り込み、ホノカはパイロットシートへと腰を下ろす。

 機械篭手ガントレットを外して座席の左右に引っ掛けてから、魔法少女姿のまま操縦レバーを力強く握りしめる。


『搭乗者の魔力接続を確認。回路へのバイパスを開始します』

「フェアリィ、ハッチ閉じて! 〈オルタナティヴ〉、フルパワーッ!」


 フットペダルを踏み込むと同時に、正面で起き上がる敵への意識を固める。

 自分の力をもって倒すという確かな意思が、機体へ流れる魔力となってキャリーフレームの力となる。


「装甲の色が……!」


 この〈オルタナティヴ〉を包み込む真っ黒だった装甲。

 それは今、ホノカの魔力からエネルギーを得て燃えるような赤色へと変異していた。


『〈オルタナティヴ〉、出力90%』

「それだけあればいけるはず……! 行くよ!」


 ホノカのイメージを受け取ったキャリーフレームの腕が、腰部にマウントされていた実体剣を握りしめる。

 直後、燃え上がるように炎を纏う刀身。

 キャリーフレームに乗ることでサイズが互角となったツクモロズへと、飛び込みながらの斬撃を放った。


「ギャオォォォォン!」


 相手もむざむざ切られてはくれない。

 巨大な氷の腕で剣を受けとめ、冷気と炎がぶつかることで尋常ではない水蒸気がジュウウという音とともに発生する。


「私は、華世ほど戦えるわけでも……内宮さんほど操縦が上手くもない……けど!」


 剣を押さえつけようとする氷の狼、その土手っ腹を〈オルタナティヴ〉が蹴り上げる。

 怯んだ相手であったが、倒れると見せかけ腹部から無数の氷柱ツララを発射してくる。

 ホノカはすぐさま盾を構え、その表面から発した熱線で氷の攻撃を一瞬にして蒸発させた。


「私には、魔法少女としての力と……ラドクリフ隊長たちに鍛えてもらった操縦技能があるっ!!」


 なりふり構わなくなったのか、氷のツクモロズが身体の側面から無数の腕を伸ばしてきた。

 反応が遅れ、〈オルタナティヴ〉の四肢が掴まれ身動きを封じられる。

 けれども、ホノカはほんの少しも動じてはいなかった。


『ツクモロズのコア確認』

「その2つを合わせることが……私だけの、強さだァァァっ!」


 叫びながら、先程外した機械篭手ガントレットを再装着。

 勢いよくコックピットハッチを開け、飛び出すホノカ。

 空中で幾度も背中へと自らの爆風を受けて加速。

 フェアリィが示した位置に見える核晶コアへ向けて、一気に突撃する。


「今度こそ逃さない! イグナイト・ブレイカァァァ!!」


 勢いの乗ったホノカの拳が、分厚いツクモロズの身体を打ち貫く。

 そして核晶コアを粉砕し、そのまま反対側へと貫通。

 人間ひとり分の空洞が開いたツクモロズから飛び出し、着地するホノカ。

 同時に核を中心に大爆発が起こり、巨大なツクモロズの身体は粉々に砕け散った。


「やりましたよ、せんせい……!」


 師を倒した相手を倒す。

 復讐ではなく、恩師を超えることによって悪を砕いた。

 それは、ホノカにとって誇らしい事実だった。

 達成感を噛み締めながら、ホノカは宙を飛び〈オルタナティヴ〉のコックピットへと帰還する。


「か、勝ったんですのね……!」

「はい! これもリンさんのおかげです」

「そんな、わたくしは何も……」

「リンさんが居なければ、私は諦めてしまってました。あなたの言葉が、私の力を呼び覚ましてくれたんです」

「そう、ですわね……! ホノカさん、このままここへ居ては目立つのではありませんか?」

「そうですね……あっ!」


 リンに言われて、V.O.軍の識別を出した無数の反応がレーダーに写っていることに気がついた。

 このままでは街が戦場になってしまう。

 それを避けるためにも、ホノカは機体の移動履歴を参照。

 ウィルが密かに運び入れた輸送艇があるだろう場所へと、一目散に逃げ出した。




    ───Fパートへ続く

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