第31話「復讐の結末」【Dパート 蒼い炎】
【4】
氷の狼が連続で放つ氷柱の嵐。
それを機械篭手の薙ぎ払いと同時に生じた蒼い爆炎が飲み込み、かき消していく。
直後にホノカの喉元目掛けて噛みつこうと飛び込んでくる敵。
それを軽いステップで後方へと回避しつつ、カウンター気味に金属の拳で真っすぐにパンチ。
そして機械篭手から巻き起こる爆発が、相手を大きく吹き飛ばした。
(この吹雪の中でも、ガスを動かせる……!)
先程までは吹雪の勢いに負けてロクにできなかった、魔法の風による可燃ガスの操作。
服が白くなり身体に力がみなぎってから、それを難なく……いや、前よりも感覚的にこなせるようになっていた。
それだけではなく、赤から蒼へと変わった炎の色。
炎色の変化が表すのは、可燃ガスの燃焼効率が上がったことにほかならない。
(気体の組成が理想的な時にだけ見られる完全燃焼……ガスの構造が魔法で変わってる?)
ホノカ自身が意識しているわけではない。
より強い炎を、爆発を起こそうという気持ちが、自然に周りの気体を変異させているようだ。
これが、使いこなした魔法の力なのかと少し畏怖しながらも、ホノカは構える。
この場を生き残り、やらなければならないことを成すために。
狼の遠吠えと共に雪面から伸びる氷のトゲ。
ホノカは光の翼を羽ばたかせ、飛び退くことでその攻撃を回避。
追うように放たれる対空砲のような氷柱の連射を、そのまま空中で身体を翻しながらかわしつつ、吹雪の中に敵の姿を確認する。
(二度と立ち上がれないくらいの、大きな一撃を……!)
そう心の中で決意したホノカは、自分の背後へとガスを固め点火。
爆風の勢いにのって、氷の狼へと急降下した。
「はあああぁぁぁっ!!」
空中で何度も爆発を重ね、更に加速。
流石に接近に気づいた敵が、その場を飛び退いた。
ホノカはそれに合わせるように、地表スレスレで落下速度を殺すように爆発を起こし静止。
直後に自分を敵へと押し出すように、特大の爆発を背後で生み出した。
「イグナイト・ブレイカァァァッ!!」
爆風を背に受けた速度から放たれる、蒼い炎を纏った機械篭手によるパンチ。
速度と重量に熱エネルギーが乗った渾身の一撃は、まるでガラス細工を破壊するように氷の狼を粉々に吹き飛ばした。
雪の上に着地し、機械篭手が放熱のために蒸気を吹き出す。
同時に起こし主を失った吹雪が止み、晴れ渡った人工の空。
その青々とした輝きは、まるでホノカの勝利を祝っているようだった。
「……そうだ、リンさん!」
勝利の余韻に浸りたい気持ちを抑え、リンの亡きがらへと駆け寄るホノカ。
胴体を氷柱で貫かれ、血を流している彼女をどうしたらよいか考えていると……不意にリンの目が見開かれた。
「痛っっったいですわぁぁぁっ!!」
「リンさん!? 大丈夫だったんですか!?」
「レス、レス! どうしたらいいかわかりませんので、部分的に任せますわぁぁっ!!」
血で染まった雪の上をのたうち回り叫ぶリン。
彼女の頭頂部から生えた目玉が「しょうがねぇなー」とやる気のない声を出してから数秒。
刺さっていた氷柱が排出され、胴体の穴がふさがったところでリンがゆっくりと起き上がった。
「ぜぇ、ぜぇ……人間を辞めてませんでしたら……死んでましたわ」
「そういえば、レスと一体化してたんでしたね……」
リンがホノカを庇ってから意識を失うまで、あまりにも劇的すぎて意識から外れていた。
彼女はコロニー・サマーでレスに乗っ取られたときから、人間に擬態した液体生物となっていたのだ。
「とにかく、これで敵は倒せましたわね。吹雪も晴れましたし、修道院へと戻り……」
「戻るにはまだ早いよリン。あの狼ヤローの気配、まだ消えてねえぜ……!」
「え……!?」
レスに言われて振り向くと、雪の中からツクモロズの核晶が浮かび上がっていた。
それは周囲に積もった雪を次々と取り込んでいき、徐々に巨大化していく。
ホノカは咄嗟にガスで導火線を引き、特大の爆発をあびせるが雪の巨大化は止まらない。
「キシャァァァオオォォォッッ!!」
空気ごと震わせるような甲高い咆哮をあげる巨体。
それはまるで、二本足で立ったキャリーフレームサイズの巨大な氷の狼。
狼男のような前傾姿勢で鋭い氷の爪を光らせた巨大ツクモロズが、上からホノカを見下ろしていた。
「ホノカさん……どうしますの? 逃げますか?」
「いえ、ここで迎え撃ちます」
「冗談きついぜ、さっきの攻撃だって全っ然きかなかったってのによ!」
「勝つ算段なら……ありますから!」
───Eパートへ続く




