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第31話「復讐の結末」【Cパート 極寒の攻防戦】

 【3】


 吹きすさぶ吹雪の音が周囲の音をかき消す中で、華世の振るった斬機刀が鋭く空気を引き裂いた。

 一振り目をのけぞって回避した女神像ツクモロズ────自らをフェイクと名乗った存在が、二振り目を岩のように硬質化した手で受け止めた。


「へぇ……斬機刀を受け止めるなんてやるわね!」

「舐めるんじゃないよ、鉤爪! あんたとの勝負のため、私は自分の能力を鍛え続けてきたんだ!」


 キャリーフレームの装甲すら切り裂く斬機刀の一撃を受け止められる。

 それはフェイクの手は並の金属塊よりも遥かに頑丈になっているということである。

 ならばビームを……と義手の手首に手をかける華世だったが、嫌な予感にいちど単発の小さいビームを発射。

 しかし幾重にも叩きつける雪が空中へと放たれた光弾から熱を奪い、一瞬にして消滅させる。

 機動兵器サイズのビーム兵器ならまだしも、エネルギー量の絞られた小型ビームはこの天候では使えない。


「そらあっ!!」

「くっ!!」


 フェイクの肘から先を硬質化させ、爪のように先端の鋭い手による素早い掌底。

 その攻撃を首の動きだけで回避した華世は、反撃とばかりに回し蹴りから刃を赤熱させたナイフを義手の足裏から発射する。

 けれどもその攻撃も、突風にあおられ雪に熱を奪われたことで、勢いのないタダのナイフ投げにしかならなかった。


「どうやら、吹雪は私の味方をしてくれてるみたいだねぇ。流石はアーカイブツクモロズのレイビーズだよ」

「アーカイブ……レイビーズ?」

「よくは知らないが過去の魔法少女との戦いで、功績を残したツクモロズだそうだがね?」


 過去の魔法少女との戦い、という言葉に華世は亡き咲良の妹を思い出した。

 十年近く前に魔法少女として戦い、敗れた少女の存在。

 そしてアーカイブツクモロズという言葉が妙に脳裏へと引っかかった。


「このコロニーに、そのレイビーズとあんた以外にもいんじゃないの? ツクモロズって」

「……何だって?」

「なんとなく思ったのよ。このコロニーに居るらしい、あたしの故郷の仇。それってもしかすると……ツクモロズなんじゃないかって」


 これは一種のハッタリではあるが、一部に確証も含んでいた。

 華世が現世代の魔法少女第一号ということは、沈黙の春時点にも魔法少女がいた可能性は大いにある。

 もしもあの虐殺がツクモロズの手によるものだとしたら、殺害数としての功績はあまりにも大きい。

 そして、華世たちがサンライトを訪れたタイミングで姿を表したフェイクたちツクモロズ。

 その戦力としてアーカイブツクモロズが使われているなら、それが複数でもおかしくはない。


「……あれがあんたの仇かは知らないけどね、ナンタラ研究所にひとり行ったとか聞いてたねぇ」

「そいつと面識は?」

「あるわけ無いだろう。アーカイブツクモロズったって何人いるか知れたもんじゃない。それに、昔から生きてるようなツクモロズだっているらしいじゃないか。さあて、冥土への土産話はこれくらいで……」

「……その土産を持つのはあんただけどね!!」


 華世は義眼から閃光を放ち、フェイクの目を眩ませた。

 それは一瞬の隙を生み出し、華世はその一瞬でフェイクへと肉薄。

 そのまま彼女の胴体を蹴りつけ、硬化していない左の二の腕を斬機刀で切り落とした。

 片腕を失いバランスを崩したフェイクはそのまま後方へと転倒。

 華世はその鼻先へと斬機刀の先端を向けた。


「勝負、あったんじゃない?」

「舐めんじゃ……ないよおっ!!」


 残った右腕で床石を叩くフェイク。

 同時に隆起するように地面が盛り上がり、鋭い岩のトゲが華世へと襲いかかる。

 後方へ飛び退いてトゲをかわすものの、距離を取った頃には床から石材を吸ったことで、フェイクの切り落とされた腕は元通りに復活していた。


「私はなあ……負けるわけにはいかないんだよ! 私の幸せのために……!」

「あんたに幸せを願う権利は無いわよ……!」


「ストーーップ!」


 突然聞こえた制止の声に、華世とフェイクは同時に動きを止める。

 吹雪のカーテンの中から姿を表したのは……このあいだ華世を助けた謎の魔法少女だった。


「あんたは……たしかナノハとかっていう」

「華世、早く行かないと君の仇が逃げちゃうよ。この人はボクが相手をするから、君は……」

「え、ええ……」


 ナノハに言われるがままに、華世は義眼を赤外線モードにして駆け出した。



 ※ ※ ※



「あんた……邪魔するのなら容赦はしないよ!」


 両腕を硬質化した状態で、突然現れたナノハとかいう魔法少女へと睨みを利かせるフェイク。

 ようやく憎い相手と交戦する機会を得たのに、このチャンスを潰されてはたまらない。

 しかし、ナノハから向けられた眼差しは、あきらかに敵へと向けられるものではなかった。


「逃げた方がいいよ」


 哀れみ、いや……親しい人間を心配するような顔つきでナノハは言った。


「逃げろ……だって? 私はツクモロズだよ、お前たちの敵だ!」

「これはボクの意志じゃない。君を想う人の願いだよ」

「私を想う人……? そんなの、一体誰が……」


 思い当たる人物は浮かばない。

 しかし、この吹雪の中に消えた鉤爪の女を追うのも、今となっては不可能に近いだろう。

 目の前の魔法少女が何を企んでいるかは知らないが、フェイクは不服ながらもナノハの言葉に従うことにした。


「……貸しを作ったなんて思うんじゃないよ」


 フェイクは呟くように言ってから、その場を離れた。

 この吹雪は、恐らくレイビーズが起こしたものだろう。

 ともなれば、鉤爪とは別の魔法少女と戦っているかもしれない。

 勝ったならばそれはそれで連れて帰らなくてはならないが、負けたなら一人で帰れば良い。

 どちらにせよ戦いが終わり吹雪が止むまで身動きのとりようがない。

 ……と走りながらそう考え、懐を探ったときに気がついた。


「粒子の瓶が、無い……!?」


 ツクモロズの本拠地へと帰るための道具、ドアトゥ粒子の入った瓶。

 それが無ければ帰れないどころか、この極寒のコロニーに閉じ込められるも同然。

 戦いの拍子に落としてしまったのか、あの場から遠く離れてしまった今、吹雪の中では戻ることもできない。


「……クソっ! こんなところで野垂れ死んでやるものか……!」


 本拠地に帰れなければ、ツクモロズがツクモロズで居続けるために必要な生体エネルギーが維持できない。

 だからこそ、コロニー・サマーにいた頃は人攫いをしていたのだ。


「私は……まだ、ぜんぜん幸せになっちゃいないんだよ……!」




    ───Dパートへ続く

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