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第31話「復讐の結末」【Bパート 内宮と咲良】

 【2】


 モニターに映る、小型輸送艇の発進映像。

 2機のキャリーフレームを搭載したその船を動かしているのは、さきほど内宮たちが見送ったウィル。

 彼は華世たちの脱出を手助けするため、単身コロニー・サンライトへと向かっていった。

 元レッド・ジャケット隊員であるため安全に潜り込める……という触れ込みだったが、内宮の頭から心配は尽きなかった。


「はぁー……大丈夫やろうか」


 パイロットシートに腰掛けた状態でコンソールを操作しつつ、ついついため息がこぼれてしまう。

 その声は、いつの間にか通信が繋がっていた咲良の機体へと垂れ流しになっていたようで、間髪入れずに彼女から励ましの声がかけられた。


『華世ちゃんもウィルくんも大丈夫ですよ~。あの二人は、今まで何度も苦難を乗り越えた黄金コンビですから!』

「これまでやったらええけど、今回ばかりは敵地やしなぁ……」

『あの子たちの後顧の憂いを断つためにも、調査を頑張らないと!』


 調査というのは今、内宮たちクーロン出身アーミィ隊員とネメシス傭兵団が合同であたっている作戦である。

 事の起こりは数時間前、華世たちをサンライトへ送り出してからそこまで時間の空いていないタイミングだった。


 正体不明の宇宙艦が、サンライトからオータムに向けたルートで航行している。

 その知らせを受けた内宮たちは、作戦のための準備に追われるアーミィ部隊の中で唯一動ける人員として、当該船舶の調査へと駆り出された。

 その場所に向かうついでにウィルの輸送艇を発進させ、今は調査のために〈戦艦アルテミス〉は移動中。

 万が一にでもV.O.軍の刺客であれば、通すわけにはいかない故に、いつでも発進できる状態で内宮たちは待機していた。


『そういえば、内宮隊長。レオンさんとの話、どうなったんですか?』

「レオン? ああ、あの獅子だか虎だか言うてた奴か。失礼なやっちゃで、うちのこと男だ思うてたなんて」

『学生時代に大会で隊長に負けて、それからリベンジのためだけに金星のアーミィ隊員の座にまで来たって言ってましたね』

「一歩間違えたらタチの悪いストーカーやで、まったく。こん作戦が落ち着いたら決闘しようやとか言いよって」

『まるで死亡フラグですね~』

「戦い行く前に洒落にならんこと言わんでや。それに死亡フラグは恋人とか嫁はんとかに結婚だの子供だのでどーのこーのやろ。ライバルに言うことやないわ」


 ライバル、といっても勝手にレオンが内宮のことをライバル視してるだけなのだが。

 まあ、無事に終わって決闘になっても、内宮は負けるつもりなどない。

 いま内宮が乗っているのは、以前の型落ち〈ザンドール〉ではなく、咲良からお下がりという形で受け継いだ〈ジエル〉なのだから。


『そういえば、〈ジエル〉の乗り心地はどうでしたか~? ビーム・スラスターによる機動は独特だと思いますけど……』

「懐かしい感触やったし、何の問題もあらへんわ」

『懐かしい……? その〈ジエル〉って私が地球圏にいた頃に制式配備されたものですよ?』

「うちが高校生ん時、黄金戦役で戦っとったって話はしてたやろ? そん時に開発されたてのビーム・スラスター付きのマシンに乗っとったんや。初期型やけど〈ジエル〉も僚機におったな」

『やっぱ、隊長ってすごいですね……私なんて』


 トーンの下がる咲良の声。

 出撃を前にして暗くなる相棒へと、内宮は心配の声を投げかける。


「どしたんや? えらい元気ないやんか」

『隊長は子供の時からすごい戦いを経験して生き残って、今はアーミィの中でもトップクラスのパイロット。私はいい機体に乗ってるのに、活躍があんまり……』

「……楓真ふうまん事を考えとるんか」


 常磐楓真。

 咲良とは高校時代からの幼馴染だったが、その実はツクモロズの送り込んだスパイだった。

 咲良と離れていた時期に何があったのかはわからない。

 一度は取り戻してみせると宣言したのだが、大きな戦いを前にして不安になっているようだった。


『初めてこの〈エルフィスサルファ〉に乗ったあの日。私は〈ジエル〉でろくに戦えませんでした。楓真くんは強い……強い上に隊長のように高いレベルのExG能力を持ってる』

「気休めかもしれんけど、パイロットの価値はExG能力だけやあらへんで。うちの初恋の相手なんて、能力なんかうても……うちやもっと強い猛者をボコしたったで? しかも旧式機でや」

『それって、あのドキュメンタリーアニメの主人公のモデルの?』

「うんや……せやな。これこそ死亡フラグみたいやけど、クーロンに帰ったら師匠を紹介したるわ」

『師匠?』

「初恋の人のオカンが世話んなった凄腕のキャリーフレーム乗りや。うちもそん人に鍛えてもろて今がある。せやから元気出しぃや? そのコックピットに乗っとるの、あんさんだけちゃうやろ?」

『あ……』


 咲良の機体には、戦闘能力を最大限に発揮させるために二人の同乗者がいる。

 一度はツクモロズ化しながらも、強い絆で咲良のもとへと帰ってきた支援AIのEL(エル)

 そして、亡き咲良の妹と仲良しだった、火器管制のツクモロズであるヘレシー。

 咲良はひとりじゃない。

 種族が違う3人の力を合わせることで、初めて〈エルフィスサルファ〉のパワーが発揮できるのだ。


「二人も頑張っとるさかい、咲良もしっかりせなアカン! せやろ……EL(エル)、ヘレシー?」

『はい。私達が咲良を最大限サポートいたします』

『ヘレシーも頑張っちゃうよ!』

『ふたりとも……ありがとう』

「さ、しんみりタイムはここまでや。そろそろ調査対象がスキャンできる距離に入るみたいやで?」


 内宮の声に応えるようなタイミングで、コックピットに映像が映し出された。

 超望遠で撮られた映像、漆黒の宇宙が映し出されるその中心に、確かに何かがあった。


 それは、一見すると宇宙船のようにも見える。

 しかし……送られてきた情報は、あまりにも不可思議だった。


「ブリッジみたいな所に生体反応なしやて? それにあの船、よう見たら……」

『なんだか、横たわっている人にも見える……あっ!!』

『咲良! あれ、ツクモロズ! 戦艦級のツクモロズだよ!』




    ───Cパートへ続く

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