第31話「復讐の結末」【Aパート 覚醒】
「……じゃあ、結衣ちゃんと杏ちゃんはお留守番なのね」
「そうなんですよー!」
久しぶりに美月との訓練をこなし、公園の椅子でひと休憩する結衣と杏。
水分補給で喉を潤しながら、結衣はコロニー・クーロンに置いていかれた愚痴を美月にこぼしていた。
「それって、あなた達を危険な目に合わせたくないってことでもあるんじゃないかしら」
「でも、私たちも魔法少女なんですよ?」
「お姉さまとホノカさんは良くて、杏たちがダメなのって……ちょっと悔しいです!」
「お姉さまっていうのは……前に言ってた華世って子のことよね?」
美月が振ってきた話に、杏の顔がぱあっと明るくなる。
厳密には違うといえど、彼女は華世のことを姉としてかなり尊敬しているのだ。
「お姉さまは強いんですよ! でっかい斬機刀で、バザバザバサーって悪いツクモロズを懲らしめちゃうんです!」
「斬機刀? その娘も斬機刀を使うのね。誰から習ったのかしら……」
「斬機刀を使える人って少ないんですか?」
美月の妙に勘繰ろうとするような、重々しい口調に結衣は違和感を覚えた。
思わず出てしまった問いかけに対し、困ったような顔で美月は口を開く。
「斬機刀って、硬い装甲を切るためには他の刀剣とは違う振り方をしなくちゃいけないの。そうしないとすぐに刃こぼれしちゃうから……でも、その剣術って私の実家の道場くらいでしか教えてないと思ってたから……。ほら、使ってる私が言うのも何だけど……人が生身で大きな機械に立ち向かうのって、普通じゃしないことじゃない?」
言われてみれば確かにと、結衣は納得した。
華世が魔法少女で人間兵器だから感覚が麻痺していたが、そういう概念の無い時代から斬機刀という文化が広く伝わっているとは考えにくい。
その華世であれば、そこから何かしら推論の1つでも出せるだろう。
しかし、彼女ほどの鋭敏な頭脳を持ち合わせていない結衣には、そこまで考えるのが精一杯だった。
「華世ちゃん、確か矢ノ倉寧音ってお婆さんから習ったって言ってましたけど」
「矢ノ倉……!?」
その名を聞いた途端、口をあんぐりと開け驚愕する美月。
気持ち顔が青くなった彼女が、結衣の両肩をギュッと強く握り揺さぶりながら問いかける。
「それって、何年前のこと!?」
「えっと、華世ちゃんがリハビリしてた頃ですから……2年前くらい……」
「美月さん、お姉さまの師匠さんがどうかしましたか?」
「その人、私の祖母……お婆ちゃんなの。でも、あの人は……」
◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
鉄腕魔法少女マジ・カヨ
第31話「復讐の結末」
◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
【1】
「なん、で……」
ボタボタと落ちる血が、真っ白に降り積もった雪を赤く染める。
ホノカへと向けて放たれた氷柱は、横から庇うように飛び出したリンの胴体を貫いていた。
「なぜって……あなたに、死んでほしくない……から、です……わ……」
傷口から血を吹き出しながら、その場に崩れ落ちるリン。
直後に飛びかかってきた氷の狼を、ホノカはゼロ距離爆発で吹き飛ばしつつ、倒れたリンへと駆け寄った。
「リンさん、しっかりしてください!」
「ホノカさん……あなたは、弱くありませんわ……。ひたむきで……頑張り屋で、いつも……周りから愛されて……ゲホッ」
「リンさん……」
「まだ、死んではいけませんわ……。あなたには、助けなきゃいけない人が……謝らなければ、いけない人がいる……。それを成すまで、あなたは……」
リンの言葉は、そこで止まってしまった。
けれども、ホノカにとっては十分すぎるメッセージだった。
唸り声を上げながら、低く身構えるツクモロズ。
目の前の敵に向けて、ホノカは真っすぐに視線を向けた。
「まだ、ラヤもミオスも助けてない……」
身体全体に、力がみなぎってくる。
怒りで一度熱くなっていた思考が、リンの言葉を受けて透き通ったようにクリアになる。
「マザー・クレイアに事情を聞いてもないし、謝ってもない……!」
ホノカの機械篭手が纏う炎、その色が赤から透き通ったような青へと変わる。
より高い熱を生み出したい……というホノカの想いが形となるように。
「私は……生きるっ!!」
そして少女の背から、光の翼が広がってゆく。
これまでは結衣と杏の魔法少女姿でしか現れなかった、輝く翅。
ネオンのような光の線で形成された翼が今、ホノカの背中に宿っていた。
力の覚醒に呼応するように、身に纏う衣服にも変化が表れる。
内側に着ているボロボロの魔法少女服と、その上に羽織る防火構造のシスター服が混じり合い、雪のように輝く白を基調としたシスター服へと合一化。
背中の羽と合わせ、天の世界から舞い降りた使者もかくやという姿へと変わった。
倒すためではなく、守るために。
仇への復讐ではなく、自らの使命を果たすために。
未熟だった少女はいま、真の魔法少女となった。
「あえて名乗りましょう! 私は魔法少女、マジカル・ホノカ! 勇気を持って絆のため、哀しみの元は焼き尽くします!!」
言ってて、深みのないセリフにホノカは恥ずかしくて顔から火を吹きそうだった。
───Bパートへ続く




