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第30話「運命の地、サンライト」【Hパート 吹雪の壁】

 【7】


 飛来する氷柱つららをバックステップで回避し、同時に可燃ガスを散布。

 魔法で生み出した微風でその位置を調節しようとするが、吹きすさぶ吹雪がそれを許さない。

 やむなく放出したてのガスに点火し、燃え盛る機械篭手ガントレットの拳で殴りつけようと、ホノカは憎い相手へと飛びかかった。


「くっ……このっ!!」


 虚しく空を切る炎の拳。

 軽い身のこなしで飛び退きつつ回避する氷の狼が、ホノカをあざ笑うように牙を見せる。


「くたばれぇっ!!」


 まっすぐに腕を伸ばし、高熱のスーパーテルミットを発射。

 けれどもまっすぐに放たれたその攻撃は高い跳躍によって飛び越えられ、流れ弾となった熱球が公園の鉄柵をドロドロに溶かす。

 反撃とばかりに氷の狼が空中から無数の氷柱つららを発射。

 防ごうと機械篭手ガントレットの手のひらから炎の障壁を発生させるが、いくつもの氷柱つららが熱をものともせずホノカへと襲いかかる。

 防火服を兼ねたシスター服に無数の小さい切り傷が付き、かすめた頬から血が噴き出る。

「うああっ……!?」


 唯一の攻撃手段を吹雪によって封じられている今、ホノカは手も足も出せずに一方的に攻め立てられていた。


「ホノカさん、逃げましょう! 戻って華世と合流しませんと……!」

「でも……こいつを野放しにしたら、この街が……!」


 ホノカの脳裏に焼き付いている、恩師の命が消える瞬間。

 あの悲劇を繰り返さないために強くなったのに。

 無力だった自分に別れを告げたはずなのに。

 同じ相手に一矢いっしも報いれないままに、ホノカは膝をついていた。

 明らかに弱っている相手を前にしているにも関わらず、氷の狼は積極的に攻撃をしてこない。

 舐められているのか、それとも力のない相手を弄んでいるのか。


「私が、もっと強かったら……」


 キャリーフレームを操縦できるようになっても、生身が強くなるわけではない。

 優しい周りから褒められ続けて、勘違いをしていたのかもしれない。

 目の前に憎い憎い仇がいるのに、何もできないまま倒れるのか。


 動けないホノカを前に、じっとしていた氷の狼が唸り声を上げる。

 戦わなくなった相手に飽きたのか、それとも別の理由があるのか。

 原因が何にせよ、相手はホノカにトドメを刺すことに決めたようだった。

 これまで飛ばしてきたのとは違う、人の腕ほどの太さをした氷柱つららが狼の眼前で生成される。

 全力を出せば一度くらいは回避できるだろうが、その後は続かないだろう。


(これが、私の限界だったんだ……)


 ホノカの中で、諦めの気持ちが浮かぶ。

 ラヤもミオスも救えず、母親代わりに人殺しと叫んで分かれたきり。

 愚かな人間にふさわしい惨めな最期かも知れない。


 巨大な氷柱つららが空を切る音がする。

 けれど、ホノカの目の前で……覚悟していた結果とは違う出来事が起こった。 



──────────────────────────────────────


登場戦士・マシン紹介No.30


【レイビーズ】

体長:1.6メートル

体重:不明


 氷でできた身体を持つ、狼型のツクモロズ。

 本来、ツクモロズは人型に近い姿を取るものであるが、誕生に至ったストレスが大きすぎたことで神獣化に近い状態がデフォルトとなったために獣の姿となっている。

 見た目通りに氷雪を操る能力に長け、吹雪を起こしたり氷柱つららを発生させるなどの攻撃を行う。

 ホノカの恩師と、ホノカに魔法少女としての力を与えた妖精族の少年を殺めた存在。


 【次回予告】


 苛烈を極める、凍りついたコロニーでの戦い。

 呼応するように始まる、宇宙を舞台にした戦闘。

 そしてついに、華世は家族と故郷の仇へと対面する。


 次回、鉄腕魔法少女マジ・カヨ 第31話「復讐の結末」


 ────憎悪と憎しみに呑まれて戦う先には、何が待ち受けるのか。

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