第30話「運命の地、サンライト」【Bパート 潜入計画】
答えのない沈黙を破るように、ウィルが言った。
その目には、二人の女の子の助けになれるなら、という強い意志が垣間見える。
「ウィル、それ本当?」
「V.O.軍は、というかレッド・ジャケットはコロニー施設の防衛に当たるとき、港以外の外部の通用口に自動関門装置を付けるんだ」
「自動関門装置……無人の関所ってこと?」
「うん。表に出しにくい物資を運ぶときに、傭兵団のIDを持った小型艇を機械で読み取って通す仕組みだ。そして俺は、内部の人間しか知らない関所の弱点を知っている」
ウィル曰く、自動関門装置はIDの検出こそするがそれが誰かまでの判断はしないらしい。
つまりは通るのが内部の人間か否かの判断しかしない、大雑把なシステムだという。
それは、先にも出た表に出しにくい物資、例えば傭兵団のみが保有する機体の補給物資や、コロニーによっては厳しく取り締まられる嗜好品。
そういったものを運び入れる人間には後ろ暗い人物も多いため、あえてIDのみのスキャンしかしない……というのがウィルの説明だった。
「なるほど、それでみんなの分のIDを用意して、こっそり乗り込もうってわけね」
「みんなの分……あっ、そうだ……ね」
途端に歯切れが悪くなるウィル。
さっきまで自信満々だった彼の顔が、萎むように弱々しくなる。
「……よく考えたらID、俺の一人分しかなかったよ」
「それじゃあ一人しか入れないじゃないの! 最低でもリンとホノカ、そしてあたしの三人分は無いと……」
「華世もサンライトに用事がありますの?」
リンに問われ、華世の眉が無意識にヒクつく。
殺したい相手がいる、などと話せばふたりに全力で止められるのは明白である。
このチャンスを逃さないためにも、華世は本当の理由を伏せることに決める。
「リン。あんたの護衛よ、護衛。ホノカも故郷となれば、いつもどおりとは行かないでしょ」
「それは……そうかもしれません」
「と言いましても、コロニーに入る方法が無くてはこの話し合いも無駄ですわね……」
「入る方法、あるじゃん」
リンの頭頂部から顔、もとい目を出したレスが不意に放った言葉に、この場にいる全員が彼の方へと視線を移す。
緊張感のない軽い口調で話す彼ではあったが、華世は過去の発言からその方法を察していた。
「あのドアだかなんとかいう粒子でも使うの?」
「あったりー! ワープには目的地の具体的なイメージを誰かが浮かべる必要があるけど、ホノカってやつの故郷なんだろ。そこって?」
「あ……」
サンライト出身のホノカであれば、その内部の正確なイメージは可能だろう。
突然湧いた解決法に、華世は冴えた頭で考えた計画をみんなに話し始める。
「じゃあ整理するわよ。これからレスの言った方法で、ホノカを介してサンライトに入りこむ。アーミィの行動開始は明日だから、それまでに脱出ね」
「あのー、華世。俺も一緒でいいのかな?」
「ウィルはバックアップを頼むわ。秋姉たちへの言い訳と、さっきのIDを使って念のためにキャリーフレームを回しといて」
万が一にでもコロニーにいるあいだに戦闘が始まってしまったら、流石の華世といえど防衛についているV.O.軍のキャリーフレーム群には勝てっこない。
しかし、少なくとも機体さえあればみんなで逃げ出すことくらいはできるはずだ。
「じゃあウィルさん、念のために私の〈オルタナティブ〉もお願いします」
「小型艇の借り入れと2機分のキャリーフレーム搬入の言い訳かぁ……考えておかないとな」
「頼むわよ、ウィル」
念押しに華世はウィンクを飛ばす。
こうされればウィルが断れないことを知っている。
呆れながらも了承した彼の顔を拝んでから、華世たちは移動の準備を始め……ようとしたところだった。
「やけに静かやと思うたら……そないな勝手、絶対に許さへんで!」
───Cパートへ続く




