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第30話「運命の地、サンライト」【Aパート オータムにて】

 色鮮やかな赤、黄色、橙色の木の葉が揺れる風景。

 枯山水に響き渡るのは、静かに水が注がれる鹿威ししおどしが鳴らす竹の音。

 作られた風流に彩られた景色を見ながら、ホノカが精進料理に付けた箸を止めた。


「……魔法少女に出会った? 本当ですか、華世?」

「ええ。空気の無いあの場に生身でいて、キャリーフレームを倒しながらそう言ったんだから、間違いないでしょ」


 緑色を基調とした独特の衣装。

 ケモノ耳のような飾りがついたフードを被ったその少女は、巨大な電磁砲レールガンでキャリーフレームを圧倒した。

 大電力を必要とするレールガンを動かすための電源やケーブルが見えなかったことから、原動力はおそらく魔法。

 しかも発電装置を介さないとすれば、電気そのものを操る能力を持っているのだろう。


 これまでに確認された魔法少女は、華世を含めてこれで5人。

 「風」を生み出せるホノカ、「光」を放てるもも、「炎」を封じたミサイルを生成する結衣、そして「雷」を操るナノハ。

 ゲームで見るような属性がそれぞれに割り当てられているのは確かだが、未だに華世自身の魔法の方向性は不明だった。


「それで、その魔法少女はどこへ?」

「気がついたら消えてたわ。まあ、敵じゃないならそのうち会えるでしょ。それにしても……」


 再び、カコーンという鹿威ししおどしの音が響き渡る。

 広間の別のテーブルでは内宮やラドクリフたち大人組が、料理に口をつけながらワイワイ話し合っている。

 窓際に位置する華世たちの席から外は、広々とした日本庭園しか見えない。


「平和よね……コロニー・オータムって」


 最前線のすぐ隣とは思えない長閑のどかさに、華世はひとつため息をついた。

 


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


       鉄腕魔法少女マジ・カヨ


     第30話「運命の地、サンライト」


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■



 【1】


 第11番コロニー・オータム。

 ビィナス・リングに存在する四季コロニーの1つであり、司る季節は「秋」。

 その気候を生かした農業を中心としたコロニー……だったのだが、金星開拓の開始から遅れて作られたこのコロニー。

 農業一本では苦しかったらしく、秋の風景と気候、そして和をテーマとした観光地となったらしい。


 アーミィがV.O軍に対して大きな攻撃を仕掛けようとしている今。

 内宮たちアーミィの実力者がここで油を売っているのは、なにも呑気を極めた結果ではない。

 もちろん元々の居場所から離れたコロニーに来た疲れを癒やすのも目的の一つである。

 けれども「作戦を前に呑気にくつろいでいるはずがない」と思わせることで警戒をさせない狙いもあるという。

 それが、どこまで本当の話かは定かではないが。

 

 華世とホノカはそんなコロニーの特色を存分に活かした旅館の料亭から、宿泊先の二階へと上がる。


「あっ、おかえりウィル……と、リン」

「ちょっと! 主役であるはずのわたくしを、ついでみたいに言わないでくださいまし!」

「イチイチうるさいわねぇ。それで、巡礼は終わったの?」

「もちろんですわ! ほら……!」


 そう言って、首からかけていたロザリオを手にとって見せるリン。

 その中心に光る宝玉が輝くような白い光を放つのを見て、ホノカが「わぁ!」と感嘆の声を出した。


「お疲れさまでした、リン・クーロンさん! これで見事、巡礼の旅は完了となります!」

「あとはわたくしがクーロンに戻れば、コロニーの人々にV.O.軍は手を出せなくなるわけですわね。けれど……」


 長い目的の達成に喜びたい感情に影が差すように、うつむくリン。

 その沈黙の内に秘めるであろう想いを、いまいち空気の読めないアホ毛目玉……もといレスが勝手に言葉で表す。


「こいつさ、サンライトにいる両親が心配なんだってよ」


 確か聞いた話では、コロニー・クーロンの領主であり政治の一端を司るリンの両親は、表敬訪問のためにサンライトを訪れていた。

 その矢先にV.O.軍がサンライトを占領。

 消息は分かっていないが、おそらく隠れているか囚われているのだろう。


「レス、あなたわたくしの考えを……!」

「いちいちニンゲンってのは面倒だなぁ。事実なんだしいいだろ」


 頭ひとつで口喧嘩をするリンとレスの口喧嘩を聞きながら、華世はこの前ナノハと名乗る魔法少女から渡された情報を思い返す。

 華世の故郷を滅ぼした元凶がいま、サンライトにいる。

 それが真実だとしても、そのような存在が一箇所にとどまっているとは考えにくい。

 まだ他の誰にも明かしていないこのことについて考えを巡らせていると、不意にホノカも口を開いた。


「私も、ラヤとミオスの二人がなぜV.O.軍に入ったのか。それを知るために一度サンライトを訪れたいと思っていました。しかし……」


 いま現在、リン、ホノカ、そして華世の3人にサンライトを訪れる大きな理由がある。

 しかしV.O.軍占領下のコロニーに、民間船であっても近づく事はままならないだろう。

 それに、うかつな行動が引き金となって、アーミィの反抗作戦を邪魔する危険性もある。


「……バレないように入り込むだけなら、できるかもしれない」




    ───Bパートへ続く

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